第101回(H30) 助産師国家試験 解説【午前41~45】

 

次の文を読み41〜43の問いに答えよ。
 Aさん(28歳、初妊婦、会社員)。自然妊娠し、妊娠7週で診療所を受診し、多胎妊娠と診断された。妊娠11週日、大学病院の産婦人科を紹介され受診した。

41 このときの経腟超音波検査の写真を下図に示す。胎囊の数は1、胎児の数は2であり、隔壁を認めた。
 Aさんへの説明で正しいのはどれか。

1.「予防的な子宮頸管縫縮術が必要です」
2.「双胎間輸血症候群のリスクがあります」
3.「産前休業は妊娠34週から取得できます」
4.「卵巣過剰刺激症候群のリスクがあります」

解答

解説

本症例のポイント

・Aさん(28歳、初妊婦、会社員、自然妊娠)
・妊娠7週:診療所受診、多胎妊娠
・妊娠11週日:大学病院の産婦人科に紹介受診。
・胎囊の数:1、胎児の数:2隔壁あり
→本症例は、多胎妊娠(1絨毛膜2羊膜)である。多胎妊娠とは、2人以上の赤ちゃんを同時に妊娠することをいう。双胎妊娠には①一卵性双胎と②二卵性双胎とがある。②二卵性双胎とは、2個の受精卵から発生したもので、2個の胎盤があり、二絨毛膜二羊膜となる。一方、一卵性双胎は、1個の受精卵が分裂することにより発生し、本症例の1絨毛膜2羊膜(胎児の間に隔壁があり)、1絨毛膜1羊膜(胎児の間に隔壁がなし)のいずれかになる。

1.× 予防的な子宮頸管縫縮術は不要である。なぜなら、子宮頸管縫縮術とは、子宮頚管を縫い縮める方法で子宮頸管無力症などで早産予防のために行われるため。シロッカー手術、マクドナルド手術がある。子宮頸管無力症とは、陣痛などの下腹部痛や性器出血などの症状がないが子宮頸管が開いてきてしまう状態のことを言い、流産や早産の原因となってしまうことがある。
2.〇 正しい。「双胎間輸血症候群のリスクがあります」と説明する。なぜなら、一絨毛膜双胎は双胎間輸血症候群のリスクが高く、分娩時にも合併症が生じやすいため。ちなみに、双胎間輸血症候群とは、この胎盤の吻合血管により双胎間に慢性の血流アンバランス(不均衡)が生じ引き起こされる病態である。一絨毛膜二羊膜双胎の約10%に起こるとされる。したがって、一絨毛膜双胎は、二絨毛膜双胎に比べて周産期死亡率が高い。
3.× 産前休業は、「妊娠34週」ではなく「妊娠26週」から取得できる。また産前休業の期間は、予定日前の14週間取得できる。これは、労働基準法第65条「使用者は、六週間(多胎妊娠の場合にあつては、十四週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない」と記載されている(一部引用:「労働基準法」e-GOV法令検索様HPより)。ちなみに、産前休業とは、女性労働者が母体保護のため出産の前後においてとる休業の期間である。産休とも称される。
4.× 卵巣過剰刺激症候群のリスクより優先度が高いものが他にある。なぜなら、卵巣過剰刺激症候群の患者側のリスク因子は、①若年、②やせ、③多囊胞性卵巣症候群、④ゴナドトロピン製剤投与量の増加、⑤血中エストラジオール値の急速な増加、⑥卵巣過剰刺激症候群の既往、⑦発育卵胞数の増加と生殖補助医療における採卵数の増加、⑧hCG投与量の増加、hCGの反復投与、⑨妊娠成立があげられるため。

卵巣過剰刺激症候群とは?

卵巣過剰刺激症候群とは、女性の卵巣は親指大ほど(3~4 cm)の臓器であるが、その中の卵(卵胞)が不妊治療における排卵誘発剤に過剰に刺激されることによって、卵巣がふくれ上がり、お腹や胸に水がたまる(胸水)などの症状が起こることをさす。卵巣が腫大し、腹水が貯まることにより腹部膨満感、体重増加、腹囲増加が認められる。次いで腹部膨満に伴う腹膜刺激によって下腹部痛、悪心、嘔吐が起こる。また、毛細血管の透過性亢進により血管外への水分・血漿成分の流出が引き起こされるため、血管内で血液の濃縮が起こり、のどの渇きや尿量の減少をきたす。重症例では、腎不全や血栓症など様々な合併症を引き起こす。卵巣過剰刺激症候群は重症になると様々な合併症を来たし、とても危険な状態になる場合があるので、早期に発見して対応することが大切である。薬による卵巣過剰刺激症候群は原因となった薬を中止することにより改善することが多いため、不妊治療中に「おなかが張る」、「はき気がする」、「急に体重が増えた」、「尿量が少なくなる」などの症状に気がついた場合は、速やかに医師・薬剤師に連絡を促す。

【患者側のリスク因子 】
• 若年
• やせ
• 多囊胞性卵巣症候群
• ゴナドトロピン製剤投与量の増加
• 血中エストラジオール値の急速な増加
• 卵巣過剰刺激症候群の既往
• 発育卵胞数の増加と生殖補助医療における採卵数の増加
• hCG投与量の増加、hCGの反復投与
• 妊娠成立

(※参考:「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」厚生労働省HPより)

 

 

 

 

 

次の文を読み41〜43の問いに答えよ。
 Aさん(28歳、初妊婦、会社員)。自然妊娠し、妊娠7週で診療所を受診し、多胎妊娠と診断された。妊娠11週日、大学病院の産婦人科を紹介され受診した。

42 Aさんは初診後、大学病院で妊婦健康診査を受けており、妊娠経過は順調であった。胎盤の位置異常はなかった。妊娠33週2日、トイレで子宮収縮の自覚とともに少量の出血と液体の流出感があり、来院した。卵膜は保たれているが、破水検査は陽性であった。診察時には両児の羊水量に差はなく、どちらの児の卵膜が破綻したか不明であった。子宮口1cm開大、子宮頸管長は26mmであった。先進児は頭位で推定体重2,000g、後続児は骨盤位で推定体重1,500gであった。抗菌薬の点滴静脈内注射が開始された。このときの胎児心拍数陣痛図を下図に示す。
 Aさんに行われると予想される治療はどれか。

1.人工羊水の子宮腔内注入
2.後続児に対する胎児外回転術
3.子宮収縮抑制薬の点滴静脈内注射
4.胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術

解答

解説

本症例のポイント

・妊娠経過:順調
・胎盤の位置:異常なし。
妊娠33週2日:子宮収縮の自覚、少量の出血と液体の流出感があり。
・卵膜:保たれている。
破水検査:陽性
・診察時:両児の羊水量に差はなく、どちらの児の卵膜が破綻したか不明。
・子宮口1cm開大、子宮頸管長26mm。
・先進児:頭位で推定体重2,000g
・後続児:骨盤位で推定体重1,500g
抗菌薬の点滴静脈内注射:開始
→本症例は、①妊娠33週2日、②破水検査:陽性であることから、高位破水(前期破水)が疑われる。高位破水とは、子宮口より離れた部位で卵膜が破れ、羊水が少ない量で流出することをいう。完全破水は子宮口からの破水のため大量の羊水が流出するが、高位破水の場合、チョロチョロと少量であるため、おりものや、尿漏れと間違える妊婦さんも多い。

(※図引用:「産婦人科診療ガイドライン―産科編 2020 P186」公益社団法人 日本産科婦人科学会より)

1.× 人工羊水の子宮腔内注入は不要である。なぜなら、本症例は妊娠33週2日であるため。の適応として、①妊娠26週未満、②陣痛発来していない、③臨床的絨毛膜羊膜炎がない、④胎児機能不全がない、⑤インフォームドコンセントが得られているの 5条件を満たすものがあげられる(※参考:「羊水補充療法」日産婦誌59巻9号より)。また、人工羊水注入の妊娠中の効果として、①超音波診断精度を向上させる可能性がある、②羊水過少児に対する中・長期の予後改善効果を示す高いエビデンスは認めないことがあげられる。
2.× 後続児に対する胎児外回転術の優先度が低い。なぜなら、外回転術とは、用手的に児を骨盤位から頭位へ変える処置で、一般的に36週以降で陣痛発来前の骨盤位妊婦に行われるため。また、36週以降に行われる理由として、胎児心拍異常や、破水、胎盤早期剝離などで緊急の帝王切開術が行われる可能性を考慮しているためである。
3.〇 正しい。子宮収縮抑制薬の点滴静脈内注射が予想される治療である。なぜなら、本症例は高位破水(前期破水)が疑われるため。破水後まもなく陣痛が開始しない場合や妊娠34週以降の場合、または胎児の肺が成熟している場合には通常、人工的に陣痛を開始させる。一方、妊娠34週未満の場合、分娩を遅らせる必要がある。妊婦は安静にし、できるだけ活動を制限する。体温の上昇や脈拍数の増加は、感染の初期徴候である可能性があるため、感染を起こした場合は速やかに陣痛を誘発し、胎児を分娩させる。破水が確認された時点から抗菌薬の投与を始める。通常、抗菌薬(エリスロマイシン、アンピシリン、およびアモキシシリン)は静脈内投与し、その後の数日間は内服する。子宮収縮抑制薬(子宮鎮痙薬とも)の臨床応用としては、切迫早産や切迫流産の際に子宮収縮(陣痛)を抑制するのに用いられる。主な副作用として、動悸、振戦(手足の震え)、吐き気、発疹などが報告されている。作用機序として、β受容体刺激剤の中でも強いβ2選択性により、細胞内c-AMPを上昇させ、子宮収縮抑制効果を示す。
4.× 胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術の優先度は低い。なぜなら、胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術は双胎間輸血症候群の治療に用いられるため。双胎間輸血症候群とは、この胎盤の吻合血管により双胎間に慢性の血流アンバランス(不均衡)が生じ引き起こされる病態である。一絨毛膜二羊膜双胎の約10%に起こるとされる。双胎間輸血症候群の診断は超音波検査で行う。一絨毛膜二羊膜双胎で、供血児は羊水過少(最大羊水深度2cm以下)で膀胱が小さく、受血児は羊水過多(最大羊水深度8cm以上)で膀胱が大きいという所見があると診断する。供血児は発育不全となり、両児に著明な体重差を認めることが多いが、認めない場合もある。双胎間輸血症候群の治療法として、①羊水吸引除去術、②胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(レーザー手術)があり、安静により病状の進行をおくらせることが可能な場合がある。

 

 

 

 

 

次の文を読み41〜43の問いに答えよ。
 Aさん(28歳、初妊婦、会社員)。自然妊娠し、妊娠7週で診療所を受診し、多胎妊娠と診断された。妊娠11週日、大学病院の産婦人科を紹介され受診した。

43 入院時の腟分泌物の細菌培養検査の結果、B群溶血性レンサ球菌<GBS>が検出された。入院後も羊水流出は続いていた。妊娠34週4日、Aさんに38.2℃の発熱と子宮に軽度の圧痛を認め、子宮口は1cm開大、子宮口から少量の混濁した羊水の流出がみられた。出血傾向はない。脈拍102/分、血圧132/86mmHg。血液検査データは、白血球16,500/μL、Hb 10.5g/dL、血小板40万/μL、CRP 4.2mg/dLであった。緊急帝王切開術による分娩の方針となった。
 Aさんへの説明内容で適切なのはどれか。2つ選べ。

1.絨毛膜羊膜炎となっている。
2.古典的帝王切開術となる。
3.子宮体部は摘出となる。
4.産科DICの状態である。
5.児はNICUでの管理が必要となる。

解答1・5

解説

本症例のポイント

・入院時の細菌培養検査:B群溶血性レンサ球菌が検出。
・入院後:羊水流出は続く。
・妊娠34週4日:Aさんに38.2℃の発熱子宮に軽度の圧痛を認める。
・子宮口:1cm開大、子宮口から少量の混濁した羊水流出、出血傾向はない。
脈拍102/分、血圧132/86mmHg。
・血液検査データ:白血球16,500/μL、Hb 10.5g/dL、血小板40万/μL、CRP 4.2mg/dL
・緊急帝王切開術による分娩の方針となった。
→本症例は、絨毛膜羊膜炎が疑われる。絨毛膜羊膜炎とは、腟からの上行性感染により細菌が絨毛膜羊膜に至り、そこに止まっている状態を指す。この細菌が、破水などにより子宮腔内へ波及した状態が子宮内感染症である。したがって、子宮内感染症では、胎児感染も引き起こされている可能性がある。症状としては、発熱、子宮圧痛、悪臭のある羊水、膿性の頸管分泌物、母体または胎児の頻脈などがある。診断には母体の発熱、頻脈や白血球 15000/μL以上などがあげられる。

1.〇 正しい。絨毛膜羊膜炎となっている。絨毛膜羊膜炎とは、腟からの上行性感染により細菌が絨毛膜羊膜に至り、そこに止まっている状態を指す。この細菌が、破水などにより子宮腔内へ波及した状態が子宮内感染症である。したがって、子宮内感染症では、胎児感染も引き起こされている可能性がある。症状としては、発熱、子宮圧痛、悪臭のある羊水、膿性の頸管分泌物、母体または胎児の頻脈などがある。診断には母体の発熱、頻脈や白血球 15000/μL以上などがあげられる。【Lenckiらによる臨床的絨毛膜羊膜炎の診断基準】母体に38.0℃以上の発熱が認められ、 かつ ①母体頻脈≧100回/分、②子宮の圧痛、③腟分泌物・羊水の悪臭、④母体白血球数≧15,000/μLのうち、1項目以上を認めるか、母体体温が38.0℃未満あっても①から④すべてを認める場合、臨床的絨毛膜羊膜炎と診断するものである。(※参考:「子宮内感染について」より)
2.× 古典的帝王切開術が適応とはなりにくい。古典的帝王切開とは、子宮縦切開のことで、妊娠中期の帝王切開は子宮下部が厚くまた展退していないため頸部横切開が困難な時に適応となる。具体的な古典的帝王切開術の適応として、子宮筋腫合併や、胎位・胎盤の位置異常などである。また、超未熟児の帝王切開は、古典的帝王切開にて卵膜胎盤を大きく剝離し被膜児でだすのが児の管理上望ましい(※参考:「帝王切開術」日産婦誌60巻5号より)。
3.× 子宮体部は摘出にはならない。子宮頸部を残し、子宮体部のみ摘出する手術は、腟上部切断術(子宮亜全摘)といい子宮筋腫など良性疾患が対象である。時折、産後多量出血のため、子宮摘出しなければならないときにも行われることがある。子宮摘出より手術としては簡便で費用も安いなどのメリットはあるが、子宮頸部が残るので子宮頚がんになる可能性はあり健診は必要である。
4.× 産科DICの状態とはいえない。産科DICスコアは8点以上で、産科危機的出血の定義に当てはまる。7点以下でその時点でDICとはいえない。8点~12点以下で「DICに進展する可能性が高い(DICとしての治療を開始する目安)」。13点以上で「DICとしてよい」ことになっている。ちなみに、DIC(播種性血管内凝固症候群:disseminated intravascular coagulation)とは、本来血液が凝固しないはずの血管内で、何らかの原因により血液が固まってしまい、全身の細小血管に細かな血栓が次々と作られてしまう症候群である。血栓が臓器の血管中に発生すると腎不全などの臓器障害を引き起こす。
5.〇 正しい。児はNICUでの管理が必要となる。NICU(略:Neonatal Intensive Care Unit)とは、新生児集中治療室のことである。呼吸管理が必要な赤ちゃん、チアノーゼ(血流が悪く顔色や全身が紫色になっている状態)や先天性の異常やさまざまな病気を抱えた赤ちゃん、超・極低出生体重児たちが保育器の中で、呼吸、心拍、体温、栄養を管理して育てられる。NICU部門が対象とする疾患は、早産・低出生体重児のみならず、先天奇形などの外科疾患など多岐にわたる。【主な対象疾患】早産児、低出生体重児、呼吸障害、心疾患、新生児感染症、低酸素性虚血性脳症、染色体異常、先天異常、外科疾患などである。

DIC

(※図引用:「表II-3 DIC診断基準」一般社団法人日本血栓止血学会より)

 

 




 

 

次の文を読み44〜46の問いに答えよ。
 Aさん(22歳、1回経産婦)。妊娠初期のスクリーニング検査で甲状腺機能の異常を指摘されたため、妊娠12週で大学病院の産科に紹介された。前回の妊娠中はほとんどつわりを感じなかったが、今回は妊娠9週ころからつわり症状が強く、毎日夕方になると数回嘔吐している。水分は何とか摂れているという。既往歴、生活歴および家族歴に特記すべきことはない。身長160cm、体重50kg(非妊時体重52kg)。脈拍90/分、血圧120/70mmHg。初診時、経腹超音波検査にて児の発育は週数相当で、羊水は中等量、胎児異常を認めない。甲状腺刺激ホルモン<TSH>0.01μIU/mL(成人女性基準値0.39〜3.98 μIU/mL)、遊離サイロキシン<FT4>3.84ng/dL(成人女性基準値1.00〜1.70ng/dL)。抗TSH受容体抗体<TRAb>陽性。尿ケトン体+。

44 Aさんに関する判断で正しいのはどれか。

1.甲状腺クリーゼの状態である。
2.一過性甲状腺機能亢進症である。
3.体重減少が重度になるおそれがある。
4.甲状腺シンチグラフィを勧める必要がある。
5.ヨウ素を多く含む食品の摂取を勧める必要がある。

解答

解説

本症例のポイント

・Aさん(22歳、1回経産婦、既往歴・生活歴・家族歴:特記なし)。
・妊娠初期:甲状腺機能異常を指摘。
・妊娠12週:大学病院産科へ紹介。
・前回の妊娠中:ほとんどつわりを感じなかった。
・今回の妊娠9週:つわり症状が強く、毎日夕方になると数回嘔吐(水分の摂取可)
・身長160cm、体重50kg(非妊時体重52kg)、脈拍90/分、血圧120/70mmHg。
・初診時の経腹超音波検査:児の発育は週数相当、羊水:中等量、胎児異常なし。
甲状腺刺激ホルモン:0.01μIU/mL、遊離サイロキシン:3.84ng/dL。
抗TSH受容体抗体:陽性、尿ケトン体+。
→本症例は、妊娠初期に甲状腺機能異常を指摘され、甲状腺刺激ホルモン低値、遊離サイロキシン高値、抗TSH受容体抗体陽性であることから「バセドウ病」が疑われる。甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の症状として、発汗や食欲亢進、体重減少、下痢、振戦、メルセブルグ3徴(眼球突出、甲状腺腫、頻脈)がみられる。

1.× 甲状腺クリーゼの状態は、「甲状腺中毒症」でみられる。甲状腺クリーゼとは、甲状腺中毒症(甲状腺ホルモン高値)の治療が不十分であったり治療を受けていない場合に、肺炎などの感染症や大怪我・手術などのストレスをうけると、甲状腺ホルモンの過剰な状態に耐え切れなくなり、複数の臓器の機能が低下し、死の危険が切迫した状態になることを指す。症状として、高熱、頻脈、意識朦朧、心臓や肝臓の急速な機能低下、呼吸停止、全身性の黄疸がみられる。生命が危険な状態にあるため、入院し呼吸や血圧の管理、血中の甲状腺ホルモンを減らす必要がある。
2.× 一過性甲状腺機能亢進症とは考えにくい。なぜなら、本症例の抗TSH受容体抗体<TRAb>は陽性であるため。一方、一過性甲状腺機能亢進症の抗TSH受容体抗体<TRAb>は陰性となる。妊娠時一過性甲状腺機能亢進症とは、妊娠初期(10週位)に、hCG(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン)が過剰分泌され、hCG(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン)が甲状腺を刺激されている状態である。悪阻(つわり)がひどいのが特徴である。 治療方針は、安静にして、hCG(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン)の値が落ち着くのを待つ。つわりがおさまる頃(妊娠14~15週まで)には甲状腺ホルモンも正常になり改善されることが多い。
3.〇 正しい。体重減少が重度になるおそれがある。なぜなら、本症例は、妊娠初期に甲状腺機能異常を指摘され、甲状腺刺激ホルモン低値、遊離サイロキシン高値、抗TSH受容体抗体陽性であることから「バセドウ病」が疑われるため。甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の症状として、発汗や食欲亢進、体重減少、下痢、振戦、メルセブルグ3徴(眼球突出、甲状腺腫、頻脈)がみられる。また、妊娠によるつわり症状が同時にあるため、一般的な体重減少より重度になる恐れが高い。
4.× 甲状腺シンチグラフィを勧める必要はない。なぜなら、甲状腺腫瘍の可能性は低く、被ばくを避ける必要があるため。甲状腺機能に異常があるかどうかは、甲状腺ホルモンと甲状腺刺激ホルモンの血中濃度を測定する。ただし、病因を特定するには自己抗体検査が必要である。甲状腺腫瘍が良性か悪性かきちんと鑑別するには、超音波・シンチグラフィー・CTなどの画像検査や甲状腺腫瘍の細胞検査である穿刺吸引細胞診を行う必要がある。ちなみに、シンチグラフィーとは、ヨードを服用すると甲状腺に集まる特性を利用して、ヨード服用後、甲状腺にどのくらい放射能が集まったかを調べると、甲状腺の機能がわかるものとなっている。
5.× ヨウ素を多く含む食品の摂取を勧める必要はない。むしろ制限することが多い。なぜなら、甲状腺の病気の検査や治療に放射性ヨウ素が使われることがあり、甲状腺がヨウ素を取り込むという特性を利用しているため。食事からヨウ素を摂取してしまうと甲状腺に放射性ヨウ素が取り込まれにくくなり、治療効果が下がってしまう。したがって、、食事からのヨウ素摂取を制限する。ちなみに、ヨウ素は、海藻(ケルプ、のり、昆布およびワカメなど)に含まれ、他にも魚やその他の魚介類、卵などがある。ヨウ素は甲状腺ホルモンであるサイロキシン(thyroid hormones thyroxine:T4)とトリヨードサイロニン(triiodothyronine:T3)の産生に欠かせない物質である。甲状腺ホルモンは、タンパク質合成や酵素活性などの多数の生化学反応を調節しており、代謝活性の決定に非常に重要な役割を果たしている。また、胎児および乳児の骨格系および中枢神経系の正常な発達に必要な物質でもある。

 

 

 

 

 

次の文を読み44〜46の問いに答えよ。
 Aさん(22歳、1回経産婦)。妊娠初期のスクリーニング検査で甲状腺機能の異常を指摘されたため、妊娠12週で大学病院の産科に紹介された。前回の妊娠中はほとんどつわりを感じなかったが、今回は妊娠9週ころからつわり症状が強く、毎日夕方になると数回嘔吐している。水分は何とか摂れているという。既往歴、生活歴および家族歴に特記すべきことはない。身長160 cm、体重50 kg(非妊時体重52 kg)。脈拍90/分、血圧120/70 mmHg。初診時、経腹超音波検査にて児の発育は週数相当で、羊水は中等量、胎児異常を認めない。甲状腺刺激ホルモン<TSH>0.01 μIU/mL(成人女性基準値0.39〜3.98 μIU/mL)、遊離サイロキシン<FT4>3.84 ng/dL(成人女性基準値1.00〜1.70 ng/dL)。抗TSH受容体抗体<TRAb>陽性。尿ケトン体+。

45 Aさんは甲状腺疾患の専門医を受診し、プロピルチオウラシルとヨウ化カリウムの内服を開始した。つわりは妊娠17週ころから軽快した。その後は特に異常なく経過していたが、妊娠28週3日、周期的な腹部の張りを自覚し来院した。来院時、体温36.2℃、呼吸数16/分、脈拍80/分、血圧122/78mmHgであった。経腟超音波検査の写真および胎児心拍数陣痛図を下に示す。
 Aさんに行われると予想される治療はどれか。

1.マグネシウム硫酸塩の点滴静脈内注射
2.リトドリン塩酸塩の点滴静脈内注射
3.抗甲状腺薬の中止
4.子宮頸管縫縮術

解答

解説

本症例のポイント

・プロピルチオウラシルとヨウ化カリウムの内服開始。
・つわり:妊娠17週ころから軽快。
・その後:異常なく経過。
妊娠28週3日:周期的な腹部の張りを自覚、来院。
・来院時:体温36.2℃、呼吸数16/分、脈拍80/分、血圧122/78mmHg
・経腟超音波検査:頸管長の短縮
・胎児心拍数陣痛図:約3分間周期に子宮収縮
→本症例は、妊娠28週3日頸管長の短縮約3分間周期に子宮収縮が観察されることから、「切迫早産」の恐れが疑われ、子宮収縮抑制剤を使用する必要がある。

(※図引用:「産婦人科診療ガイドライン―産科編 2020 P136」公益社団法人 日本産科婦人科学会より)

1.〇 正しい。マグネシウム硫酸塩の点滴静脈内注射が予想される治療である。本症例は、妊娠28週3日頸管長の短縮約3分間周期に子宮収縮が観察されることから、「切迫早産」の恐れが疑われ、子宮収縮抑制剤を使用する必要がある。選択肢2.リトドリン塩酸塩も子宮収縮抑制剤であるが本症例には禁忌であるため。甲状腺機能には影響しないマグネシウム硫酸塩を使用する。
2.× リトドリン塩酸塩の点滴静脈内注射は禁忌である。本症例は、重篤な甲状腺機能亢進症に当てはまる。ちなみに、塩酸リトドリンは子宮収縮抑制薬(子宮鎮痙薬とも)である。臨床応用としては、切迫早産や切迫流産の際に子宮収縮(陣痛)を抑制するのに用いられる。主な副作用として、動悸、振戦(手足の震え)、吐き気、発疹などが報告されている。作用機序として、β受容体刺激剤の中でも強いβ2選択性により、細胞内c-AMPを上昇させ、子宮収縮抑制効果を示す。
3.× 抗甲状腺薬の中止の優先度は低い。本症例は、妊娠初期に甲状腺機能異常を指摘され、甲状腺刺激ホルモン低値、遊離サイロキシン高値、抗TSH受容体抗体陽性である。抗甲状腺薬とは、甲状腺ホルモンの合成を抑える薬で、過剰な甲状腺ホルモンをそれ以上作らないようにホルモンバランスを改善する。甲状腺ホルモンの量が正常になるにつれ、少なくなっていた甲状腺刺激ホルモンが増え、自己抗体(TRAb)の値も正常の範囲に戻っていく。つまり、抗甲状腺薬は甲状腺が亢進した際に用いられる。
4.× 子宮頸管縫縮術の優先度は低い。なぜなら、子宮頸管縫縮術とは、子宮頚管を縫い縮める方法で子宮頸管無力症などで早産予防のために行われるため。シロッカー手術、マクドナルド手術がある。子宮頸管無力症とは、陣痛などの下腹部痛や性器出血などの症状がないが子宮頸管が開いてきてしまう状態のことを言い、流産や早産の原因となってしまうことがある。頸管の開大がある場合は、流産のリスクが低下する妊娠12~16週程度で行うことが多い。本症例は、経腟超音波検査から頸管長の短縮が確認できる。

リトドリン塩酸塩の禁忌

・強度の子宮出血、子癇、前期破水例のうち子宮内感染を合併する症例、常位胎盤早期はく離、子宮内胎児死亡、その他妊娠の継続が危険と判断される者
重篤な甲状腺機能亢進症
・重篤な高血圧症
・重篤な心疾患
・重篤な糖尿病
・重篤な肺高血圧症
・妊娠16週未満の妊婦
・本剤の成分に対し重篤な過敏症の既往歴のある患者

 

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