第20回(H24年)はり師きゅう師国家試験 解説【午後131~135】

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131.次の文で示す患者に対する治療方針で最も適切なのはどれか。
 「21歳の女性。2か月前から就職活動がうまくいかず、腹部膨満感がある。食後すぐに便意を催し、1日に5回以上の水様性の下痢が続く。病院での検査所見では異常はみられなかった。」

1.迷走神経の機能抑制
2.大内臓神経の機能抑制
3.内臓知覚神経の機能亢進
4.腸骨下腹神経の機能亢進

解答

解説

本症例のポイント

・21歳の女性。
・2か月前:就職活動がうまくいかず、腹部膨満感。
・食後:すぐに便意、1日に5回以上の水様性の下痢
・病院の検査所見:異常なし。
→本症例は、過敏性腸症候群が疑われる。過敏性腸症候群とは、通常の検査では腸に炎症・潰瘍・内分泌異常などが認められないにも関わらず、慢性的に腹部の膨張感や腹痛を訴えたり、下痢や便秘などの便通の異常を感じる症候群である。腸の内臓神経が何らかの原因で過敏になっていることにより、引き起こされると考えられている。それぞれタイプが存在し、①下痢型(ストレスや緊張などのわずかなきっかけによって腹痛と激しい便意とともに下痢を生じる)、②便秘型(便秘に伴ってお腹の張りなどの症状が起こる)、③混合型(便秘と下痢が交互に繰り返すもの)がある。

1.〇 正しい。迷走神経の機能抑制は、この患者に対する治療方針である。なぜなら、迷走神経は副交感神経であり、消化管の蠕動亢進や分泌促進などを担うため。

2.× 大内臓神経の機能抑制の優先度が低い。大内臓神経とは、主にT6~T9(またはT5~T10)からおこる自律神経(交感神経)の節前繊維である。

3.× 内臓知覚神経の機能亢進の優先度が低い。内臓知覚神経とは、腸管の伸展や刺激を脳へ伝える役割を持つ感覚神経である。

4.× 腸骨下腹神経の機能亢進の優先度が低い。腸骨下腹神経とは、体幹や下腹部体壁の知覚・運動を担う体性神経である。

腰神経叢

腹部から下肢に分布する脊髄神経は、腰神経叢と仙骨神経叢とを形成する。腰神経叢は、T12~L4の前枝で構成され、その枝は腹部から大腿前面に分布する。一方、仙骨神経叢は、L4~S4前枝から構成され、その枝は腰部~大腿後面と下肢~足部に分布する。

腰神経叢:①腸骨下腹神経、②腸骨鼠経神経、③外側大腿皮神経、④大腿神経、⑤陰部大腿神経、⑥閉鎖神経

仙骨神経叢:①上殿神経、②下殿神経、③坐骨神経、④後大腿皮神経、⑤陰部神経

 

 

 

 

 

132.スポーツ傷害と罹患筋に対する経穴との組合せで適切なのはどれか。

1.足関節内がえし捻挫:三陰交
2.ジャンパー膝:足三里
3.アキレス腱炎:懸鍾
4.シンスプリント:漏谷

解答

解説
1.× 足関節内がえし捻挫:三陰交
・足関節内がえし捻挫とは、足を内側に捻って捻挫したものをさす。スポーツ(着地をした瞬間や切り返し動作などで足をついた瞬間)、歩行時や走行時で足をついた瞬間などに起こしやすい。足関節内反捻挫の場合は、外側の前距腓靭帯や前脛腓靭帯が損傷しやすい。したがって、外返しの作用を持つ筋肉を鍛えることが予防につながる。ちなみに、内がえし(内反)とは、内転・回外・底屈が組み合わされている運動のことである。
・三陰交は、下腿内側(脛側)、脛骨内縁の後側、内果尖の上方3寸に位置する。

2.× ジャンパー膝:足三里
・ジャンパー膝とは、大腿四頭筋腱炎膝蓋靭帯炎ともいい、反復したジャンプ動作によって起こる。バレーボール・バスケットボールの選手などに多く発症し、膝蓋骨遠位部に圧痛を認める。
・足三里は、下腿前面、犢鼻と解渓を結ぶ線上、犢鼻の下方3寸に位置する。

3.× アキレス腱炎:懸鍾
・アキレス腱炎とは、その名の通り、アキレス腱が延焼している状態である。スポーツや日常生活など様々な動作が原因となる。
・懸鍾は、下腿外側、腓骨の前方、外果尖の上方3寸に位置する。

4.〇 正しい。シンスプリント:漏谷
・シンスプリントとは、脛骨過労性骨膜炎ともいい、脛骨に付着している骨膜(筋肉)が炎症している状態である。運動中や運動後にすねの内側に痛みが出る。超音波にて治療を行う際は、下腿中央から遠位1/3部の脛骨後内方、前脛骨筋部、骨間膜などに照射する。
・漏谷は、下腿内側(脛側)、脛骨内縁の後側、内果尖の上方6寸に位置する。

 

 

 

 

 

133.次の文で示す患者の病態に対し、施術対象となる罹患神経根として最も適切なのはどれか。
 「45歳の男性。荷物の搬送作業中に急に腰に激痛が走り、右下腿の前側から足背にしびれが出てきた。右足関節背屈時の筋力低下と足背に知覚鈍麻がみられる。膝蓋腱反射とアキレス腱反射は正常。」

1.L3神経根
2.L4神経根
3.L5神経根
4.S1神経根

解答

解説

本症例のポイント

・45歳の男性。
・荷物の搬送作業中に急に腰に激痛。
右下腿の前側から足背にしびれが出てきた。
右足関節背屈時の筋力低下足背に知覚鈍麻がみられる。
・膝蓋腱反射とアキレス腱反射は正常。
→本症例は、椎間板ヘルニアが疑われる。椎間板は、外縁部分を構成する線維輪という靱帯様の構造物と、中心部に含まれる軟らかい髄核という構造物から成り立っているが、外縁部分の椎間板の線維輪が弱くなって膨隆したり、線維輪が断裂して中心部の髄核が脱出したりすると、近傍にある神経を圧迫している状態のことを腰椎椎間板ヘルニアという。L4/5とL5/S1が好発部位である。

・L3‒L4間(支配神経根L4):膝蓋腱反射低下、大腿~下腿内側の感覚麻痺、大腿四頭筋力低下。
・L4‒L5間(支配神経根L5):下腿外側~母趾の感覚麻痺、前脛骨筋、長母指伸筋、長趾伸筋の筋力低下。
・L5‒S1間(支配神経根S1):アキレス腱反射低下、足部尺側側の感覚麻痺、下腿三頭筋、長母指屈筋、長趾屈筋の筋力低下。

1.× L3神経根
・L2‒L3間(支配神経根L3):大腿前面の感覚麻痺、大腿四頭筋力低下。

2.× L4神経根
・L3‒L4間(支配神経根L4):膝蓋腱反射低下、大腿~下腿内側の感覚麻痺、大腿四頭筋力低下。

3.〇 正しい。L5神経根は、この患者の病態に対し、施術対象となる罹患神経根である。
・L4‒L5間(支配神経根L5):下腿外側~母趾の感覚麻痺、前脛骨筋、長母指伸筋、長趾伸筋の筋力低下。

4.× S1神経根
・L5‒S1間(支配神経根S1):アキレス腱反射低下、足部尺側側の感覚麻痺、下腿三頭筋、長母指屈筋、長趾屈筋の筋力低下。

 

 

 

 

 

134.下腿の慢性コンパートメント障害で障害部位と局所治療穴との組合せで正しいのはどれか。

1.前方コンパートメント:外丘
2.外側コンパートメント:豊隆
3.浅後方コンパートメント:漏谷
4.深後方コンパートメント:三陰交

解答

解説

コンパートメント症候群とは?

コンパートメント症候群とは、骨・筋膜・骨間膜に囲まれた「隔室」の内圧が、骨折や血腫形成、浮腫、血行障害などで上昇して、局所の筋・神経組織の循環障害を呈したものをいう。症状として6P【①pain(痛み)、②pallor(蒼白)、③paresthesia(知覚障害)、④paralysis(運動麻痺)、⑤pulselessiiess(末梢動脈の拍動の消失)、⑥puffiniss(腫脹)】があげられ、それらを評価する。

①前方コンパートメント症候群:前脛骨筋、長趾伸筋、長母趾伸筋
②外側コンパートメント症候群:長・短腓骨筋
③浅後方コンパートメント症候群:腓腹筋、ヒラメ筋、足底筋
④深後方コンパートメント症候群:後脛骨筋、長母趾屈筋、長趾屈筋

1.× 前方コンパートメント:外丘
・外丘は、下腿外側、腓骨の前方、外果尖の上方7寸に位置する。陽交と下巨虚(胃経)との間にあたる。

2.× 外側コンパートメント:豊隆
・豊隆は、下腿前外側、前脛骨筋の外縁、外果尖の上方8寸に位置する。

3.× 浅後方コンパートメント:漏谷
・漏谷は、下腿内側(脛側)、脛骨内縁の後側、内果尖の上方6寸に位置する。

4.〇 正しい。深後方コンパートメント:三陰交
・三陰交は、下腿内側(脛側)、脛骨内縁の後側、内果尖の上方3寸に位置する。

 

 

 

 

 

135.「18歳の男子学生。小学生の頃からバスケットボールを10年間続けている。1年前から腰痛がある。下肢症状はないが、L4-L5の棘突起間に階段状変形を認める。」
 最も考えられる疾患はどれか。

1.腰部脊柱管狭窄症
2.腰椎分離すべり症
3.梨状筋症候群
4.腰椎椎間板ヘルニア

解答

解説

本症例のポイント

・18歳の男子学生。
・小学生の頃からバスケットボールを10年間続けている。
・1年前から腰痛がある。
下肢症状はないが、L4-L5の棘突起間に階段状変形を認める。
→本症例は、腰椎分離すべり症が疑われる。それぞれの消去できる理由もしっかりおさえておこう。

1.× 腰部脊柱管狭窄症は考えにくい。なぜなら、「L4-L5の棘突起間に階段状変形」が見られているため。また、中高年以降に多く、特徴的な間欠跛行もみられていないため。ちなみに、腰部脊柱管狭窄症とは、脊柱管が腰部で狭くなる病気である。そのため、腰から下の神経に関連する症状(しびれや疼痛、脱力など)が出現する。歩行時には腰痛があまり強くならない事が多く、歩行と休息を繰り返す間歇性跛行が特徴である。

2.〇 正しい。腰椎分離すべり症が最も考えられる疾患である。腰椎分離すべり症とは、脊椎分離症から、さらに分離した椎体が前方に転位したものをいう。脊椎分離症とは、疲労骨折などにより、椎骨が椎弓の関節突起間部で分離したものをいう。日本人男性の約8%にみられ、また成長期のスポーツ選手の腰痛の原因の30~40%を占める。L5に好発し、腰部から殿部の痛みと圧痛・叩打痛がみられる。

3.× 梨状筋症候群は考えにくい。なぜなら、「L4-L5の棘突起間に階段状変形」が見られているため。また、特徴的な大腿後面のしびれもみられていないため。梨状筋症候群とは、坐骨神経が大坐骨切痕と梨状筋との間で圧迫を受ける絞扼性神経障害で、大腿後面のしびれを生じる。代表的な症状は坐骨神経痛、梨状筋部の痛みや圧痛、足首・足指が動きにくくなるなどである。

4.× 腰椎椎間板ヘルニアは考えにくい。なぜなら、「L4-L5の棘突起間に階段状変形」が見られているため。また、特徴的な下肢の症状もみられていないため。ちなみに、腰椎椎間板ヘルニアとは、外縁部分の椎間板の線維輪が弱くなって膨隆したり、線維輪が断裂して中心部の髄核が脱出したりすると、近傍にある神経を圧迫している状態である。L4/5とL5/S1が好発部位である。
・L3‒L4間(支配神経根L4):膝蓋腱反射低下、大腿~下腿内側の感覚麻痺、大腿四頭筋力低下。
・L4‒L5間(支配神経根L5):下腿外側~母趾の感覚麻痺、前脛骨筋、長母指伸筋、長趾伸筋の筋力低下。
・L5‒S1間(支配神経根S1):アキレス腱反射低下、足部尺側側の感覚麻痺、下腿三頭筋、長母指屈筋、長趾屈筋の筋力低下。

 

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