第25回(H29年)はり師きゅう師国家試験 解説【午前76~80】

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次の文で示す症例について、問題75、問題76の問いに答えよ。
「7歳の女児。主訴は歩行異常。トレンデレンブルグ徴候がみられた。」

問題76 本症例で筋力低下をきたした筋の主な運動はどれか。

1.罹患関節の伸展
2.罹患関節を屈曲しながらの外転
3.罹患関節の内旋
4.罹患関節の外転

解答

解説

トレンデレンブルグ徴候とは?

トレンデレンブルグ徴候とは、患肢で片脚立ちをしたとき、健肢側の骨盤が下がる現象である。中殿筋が麻痺や筋力低下などの機能不全が生じているときに、患側での立脚期において健側の骨盤が下がる現象である。大腿骨頭すべり症は、大腿骨の成長板の弱さにより大腿骨頭が後方へ滑る疾患であり、大腿骨頭の異常な位置の偏位により、中殿筋の緊張が変化し筋発揮に障害をきたす。

中殿筋の【起始】腸骨翼の外面で前および後殿筋線の間、腸骨稜外唇および殿筋筋膜、【停止】大転子の外側面、【作用】股関節外転、前部:内旋、後部:外旋、【支配神経】上殿神経:L4~S1である。

1.× 罹患関節の伸展は、主にハムストリングスや大殿筋が行う。

2.× 罹患関節を屈曲しながらの外転は、主に縫工筋が行う。

3.△ 罹患関節の内旋は、主に小殿筋、中殿筋の前部線維である。中殿筋単体でみた場合、中殿筋の主動作が股関節外転であるため、選択肢3.罹患関節の内旋も間違ってはいないが優先順位の観点から△とした。

4.〇 正しい。罹患関節の外転は、本症例で筋力低下をきたした筋の主な運動である。中殿筋の【起始】腸骨翼の外面で前および後殿筋線の間、腸骨稜外唇および殿筋筋膜、【停止】大転子の外側面、【作用】股関節外転、前部:内旋、後部:外旋、【支配神経】上殿神経:L4~S1である。

 

 

 

 

 

 

次の文で示す症例について、問題77、問題78の問いに答えよ。
「78歳の男性。手がふるえ、動作が緩慢で、表情がなく、前かがみになりやすく、筋肉がこわばる。」

問題77 本症例でみられる症状と所見の組合せで正しいのはどれか。

1.手がふるえる:企図振戦
2.表情がない:満月様顏貌
3.前かがみになる:起坐位
4.筋肉がこわばる:固縮

解答

解説

本症例のポイント

・78歳の男性。
・手がふるえ(振戦)、動作が緩慢。
・表情がなく(仮面様顔貌
・前かがみになりやすく、筋肉がこわばる(固縮)。
→本症例は、パーキンソン病が疑われる。パーキンソン病とは、黒質のドパミン神経細胞の変性を主体とする進行性変成疾患である。4大症状として①安静時振戦、②筋強剛(筋固縮)、③無動・寡動、④姿勢反射障害を特徴とする。また、自律神経障害による便秘や起立性低血圧、排尿障害、レム睡眠行動障害などが起こる。仮面様顔貌とは、表情が乏しく、仮面をつけているような顔のこと。

1.× 手がふるえることは、「企図振戦」ではなく安静時振戦である。企図振戦とは、安静時にはほとんど生じないが、運動時、特に運動終了直前に生じる律動的な運動疾患である。小脳の障害が疑われる。

2.× 表情がないことは、「満月様顏貌」ではなく仮面様顔貌である。満月様顏貌は、クッシング症候群でみられる。ちなみに、クッシング症候群とは、副腎皮質ホルモンであるコルチゾールの過剰分泌により起こる内分泌系疾患である。満月様顔貌や中心性肥満などの特徴的な症状を呈する。主に、副腎腺腫、副腎癌、副腎過形成、ACTH産生下垂体腺腫などによりコルチゾールの過剰分泌が起こる。

3.× 前かがみになることは、「起坐位」ではなく姿勢反射障害と固縮の影響が強い。健常人は、姿勢反射によって、体が傾いたときに、重心を移動してバランスを取る。それでも耐えきれないときは、足を踏み出して転倒を防ぐ(立ち直り反射)。 これらが障害されて転倒し易くなった状態を姿勢反射障害と呼ぶ。

4.〇 正しい。筋肉がこわばることは、固縮である。固縮は、筋肉がこわばり、関節が曲げにくくなる現象のことである。特に、パーキンソン病では、歯車様固縮がと特徴である。歯車様固縮とは、関節を一定速度で動かしたときに歯車のような抵抗が生じるものである。

 

 

 

 

 

次の文で示す症例について、問題77、問題78の問いに答えよ。
「78歳の男性。手がふるえ、動作が緩慢で、表情がなく、前かがみになりやすく、筋肉がこわばる。」

問題78 本症例の原因で適切なのはどれか。

1.錐体路障害
2.炎症性脱髄
3.ドパミン欠乏
4.アセチルコリン受容体障害

解答

解説

本症例のポイント

・78歳の男性。
・手がふるえ(振戦)、動作が緩慢。
・表情がなく(仮面様顔貌)
・前かがみになりやすく、筋肉がこわばる(固縮)。
→本症例は、パーキンソン病が疑われる。パーキンソン病とは、黒質のドパミン神経細胞の変性を主体とする進行性変成疾患である。4大症状として①安静時振戦、②筋強剛(筋固縮)、③無動・寡動、④姿勢反射障害を特徴とする。また、自律神経障害による便秘や起立性低血圧、排尿障害、レム睡眠行動障害などが起こる。仮面様顔貌とは、表情が乏しく、仮面をつけているような顔のこと。

1.× 錐体路障害は、脳卒中などで生じる。錐体路とは、主に随意運動を制御する神経経路で、障害があると痙性麻痺や筋力低下が起こる。大脳皮質運動野―放線冠―内包後脚―大脳脚―延髄―脊髄交叉―脊髄前角細胞という経路をたどる。一方、パーキンソン病は錐体外路系の異常による疾患である。ちなみに、錐体外路とは、錐体路以外の運動指令を行うための経路を総称したものである。錐体外路中枢や、大脳基底核、視床腹部、脳幹などと微調整しながら姿勢や運動に対する指令を骨格筋へ伝える。

2.× 炎症性脱髄は、主に多発性硬化症である。多発性硬化症は、中枢神経系の慢性炎症性脱髄疾患であり、時間的・空間的に病変が多発するのが特徴である。病変部位によって症状は様々であるが、視覚障害(視神経炎)を合併することが多く、寛解・増悪を繰り返す。視力障害、複視、小脳失調、四肢の麻痺(単麻痺、対麻痺、片麻痺)、感覚障害、膀胱直腸障害、歩行障害、有痛性強直性痙攣等であり、病変部位によって異なる。寛解期には易疲労性に注意し、疲労しない程度の強度及び頻度で、筋力維持及び強化を行う。脱髄部位は視神経(眼症状や動眼神経麻痺)の他にも、脊髄、脳幹、大脳、小脳の順にみられる。有痛性強直性痙攣(有痛性けいれん)やレルミット徴候(頚部前屈時に背部から四肢にかけて放散する電撃痛)、ユートホフ現象(体温上昇によって症状悪化)などが特徴である。若年成人を侵し再発寛解を繰り返して経過が長期に渡る。視神経や脊髄、小脳に比較的強い障害 が残り ADL が著しく低下する症例が少なからず存在する長期的な経過をたどるためリハビリテーションが重要な意義を持つ(参考:「13 多発性硬化症/視神経脊髄炎」厚生労働省様HPより)。

3.〇 正しい。ドパミン欠乏が本症例の原因である。パーキンソン病とは、黒質のドパミン神経細胞の変性を主体とする進行性変成疾患である。4大症状として①安静時振戦、②筋強剛(筋固縮)、③無動・寡動、④姿勢反射障害を特徴とする。また、自律神経障害による便秘や起立性低血圧、排尿障害、レム睡眠行動障害などが起こる。仮面様顔貌とは、表情が乏しく、仮面をつけているような顔のこと。ちなみに、ドパミンとは、運動調節や意欲・学習などに関わる脳内の神経伝達物質である。脳内のドパミン量が不足するとパーキンソン病になり、過剰になると統合失調症になると考えられている。 統合失調症の治療薬は、ドパミンD2受容体に結合して不活性化させる。

4.× アセチルコリン受容体障害は、主に重症筋無力症である。重症筋無力症とは、末梢神経と筋肉の接ぎ目(神経筋接合部)において、筋肉側の受容体が自己抗体により破壊される自己免疫疾患のこと。全身の筋力低下、易疲労性が出現し、特に眼瞼下垂、複視などの眼の症状をおこしやすいことが特徴(眼の症状だけの場合は眼筋型、全身の症状があるものを全身型と呼ぶ)。嚥下が上手く出来なくなる場合もある。重症化すると呼吸筋の麻痺をおこし、呼吸困難を来すこともある。日内変動が特徴で、午後に症状が悪化する。クリーゼとは、感染や過労、禁忌薬の投与、手術ストレスなどが誘因となって、急性増悪し急激な筋力低下、呼吸困難を呈する状態のことである。
【診断】テンシロンテスト、反復誘発検査、抗ACh受容体抗体測定などが有用である。
【治療】眼筋型と全身型にわかれ、眼筋型はコリンエステラーゼ阻害 薬で経過を見る場合もあるが、非有効例にはステロイド療法が選択される。胸腺腫の合併は確認し、胸腺腫合併例は、原則、拡大胸腺摘除術を施行する。難治例や急性増悪時には、血液浄化療法や免疫グロブリン大量療法、ステロイド・パルス療法が併用 される。(※参考「11 重症筋無力症」厚生労働省HPより)

錐体路とは

錐体路とは、大脳皮質運動野―放線冠―内包後脚―大脳脚―延髄―錐体交叉―脊髄前角細胞という経路をたどる。障害されることで片麻痺などの症状をきたす。

【錐体路徴候】
・深部腱反射亢進
・病的反射(+)
・表在反射(消失)
・痙性麻痺

【錐体外路症状】
・深部腱反射正常
・表在反射(+)
・病的反射(-)
・不随意運動の出現

 

 

 

 

 

次の文で示す症例について、問題79、問題80の問いに答えよ。
「45歳の男性。最近、心窩部から背中の皮膚にかけて痛みが起きる。胸やけ、食欲不振もある。上部消化管内視鏡検査では、胃角部に潰瘍を認め、ヘリコバクター・ピロリの感染を疑った。」

問題79 本症例の背中の皮膚の痛みで最も適切なのはどれか。

1.空腹時に起こる。
2.関連痛である。
3.体性痛である。
4.内臓痛である。

解答

解説

本症例のポイント

・45歳の男性。
・最近、心窩部から背中の皮膚にかけて痛みが起きる。
・胸やけ、食欲不振もある。
・上部消化管内視鏡検査:胃角部に潰瘍を認める。
ヘリコバクター・ピロリの感染を疑った。
→本症例は、胃潰瘍が疑われる。胃潰瘍とは、胃粘膜が炎症を起こし、粘膜の一部が欠損している状態である。症状として、みぞおちを中心とした鋭い痛み、吐き気、嘔吐、胸やけ、頻繁なげっぷ、食欲不振などである。

1.× 空腹時に起こるのは、お腹の上のほうみぞおちのあたりに鈍い痛みを感じることが多くみられる。空腹時に痛みが強くなることが多く、食事をとることで軽くなる。

2.〇 正しい。本症例の背中の皮膚の痛みは、関連痛である。関連痛とは、神経線維の走行の関係で生じる痛みである。つまり、原因とは離れた部位に感じる痛みである。心筋梗塞では左肩・上腕部痛などとして自覚される。

3.× 体性痛とはいえない。体性痛とは、体性疼痛ともいい、皮膚・骨格筋・関節・腹膜・胸膜などが物理的に刺激されて起こる痛みのことである。部位が不明瞭な持続する鋭い痛みが特徴である。持続的な鋭い痛みで圧痛点と患部が一致する。筋性防御などの腹膜刺激症状を伴うこともあり、身体を動かすことにより痛みが増強されることがある。

4.× 内臓痛とはいえない。内臓痛とは、内臓が何らかのダメージを受けることによって生じる痛みのことである。痛む部位がはっきりせず、鈍い痛みや押されるような痛みとして表現されることが特徴である。原因として、管腔臓器の腫瘍圧迫による閉塞、消化管内圧の上昇、固形臓器の被膜伸展により生じる。

(※引用:「イラスト素材:関連痛」illustAC様HPより)

 

 

 

 

 

次の文で示す症例について、問題79、問題80の問いに答えよ。
「45歳の男性。最近、心窩部から背中の皮膚にかけて痛みが起きる。胸やけ、食欲不振もある。上部消化管内視鏡検査では、胃角部に潰瘍を認め、ヘリコバクター・ピロリの感染を疑った。」

問題80 ヘリコバクター・ピロリの検査はどれか。

1.尿素呼気検査
2.胃液測定
3.尿沈渣検査
4.血清ペプシノーゲン測定

解答

解説

ヘリコバクター・ピロリ菌とは?

ヘリコバクター・ピロリ菌は、慢性胃炎・胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胃癌などに関与している菌である。ヘリコバクター・ピロリ菌は、井戸水などにより経口感染するヒトなどの胃に生息するらせん型のグラム陰性微好気性細菌である。単にピロリ菌と呼ばれることもある。アンモニアを遊離し、局所をアルカリ化することによって胃粘膜の障害をきたす病原菌である。胃炎や胃潰瘍の発生に関与する。

1.〇 正しい。尿素呼気検査は、ヘリコバクター・ピロリの検査である。尿素呼気検査とは、診断薬を服用し、服用前後の呼気を集めて診断する、簡単に行える精度の高い診断法である。ピロリ菌は、胃内で尿素を分解し、二酸化炭素を生成するため、標識された尿素を摂取した後の呼気中の二酸化炭素を測定することで感染の有無を判定できる。非侵襲的で簡便な検査法である。

2.× 胃液測定とは、胃分泌機能や酸の分泌量を目的に行う。胃液の分泌量、酸度、ペプシン濃度を測定し、上部消化管(食道、胃、十二指腸)の出血性疾患(潰瘍、癌)および萎縮性胃炎の補助診断に用いられる。

3.× 尿沈渣検査とは、尿を遠心分離機にかけ、集められた沈殿物を顕微鏡で調べる検査方法である。尿中の赤血球や白血球、細菌などを確認でき、主に泌尿器系の疾患(腎臓、膀胱、尿道などの異常)の診断に使用される。

4.× 血清ペプシノーゲン測定とは、血液中のペプシノーゲンという物質の量を測定することで、胃粘膜の老化(萎縮)の程度を調べる検査である。したがって、胃がんの早期発見に寄与する。ちなみに、胃主細胞から分泌されたペプシノーゲンは、壁細胞が分泌する塩酸によりペプシンとなる。ペプシンは、胃底腺の主細胞の分泌物に由来するタンパク分解酵素である。

 

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