第33回(R7年)はり師きゅう師国家試験 解説【午前86~90】

 

次の症例について、問題 85、86 の問いに答えよ。
「30歳の男性。右手小指のしびれを主訴に受診。手関節の可動域制限はないが、右肘関節の屈曲可動域は120度であった。幼少期に右肘関節骨折の治療歴がある。」

問題86 障害神経はどれか。

1.筋皮神経
2.橈骨神経
3.正中神経
4.尺骨神経

解答

解説

本症例のポイント

・30歳の男性(主訴:右手小指のしびれ)。
・手関節の可動域制限はない。
・右肘関節の屈曲可動域は120度
・幼少期に右肘関節骨折の治療歴がある。
→本症例は、遅発性尺骨神経麻痺が疑われる。尺骨神経麻痺では、Froment徴候陽性や鷲手がみられる。Froment徴候(フローマン徴候)とは、母指の内転ができなくなり、母指と示指で紙片を保持させると母指が屈曲位をとることである。

1.× 筋皮神経より優先されるものが他にある
・筋皮神経とは、頚から出た腕神経の束から枝分かれした神経である。主に、上腕二頭筋と前腕外側の感覚を司る。

2.× 橈骨神経より優先されるものが他にある
・橈骨神経とは、頸神経(C5~T1)の前枝に由来する。母指背側の感覚と上腕三頭筋・腕橈骨筋・長、短橈側手根伸筋、総指伸筋などの伸筋群を支配する。感覚領域は、親指から中指の背側、手背の橈側(親指側)、前腕の背側、上腕の背側と外側である。

3.× 正中神経より優先されるものが他にある
・正中神経とは、腕神経叢を出たのち上腕骨に沿って走り、前腕では橈骨と尺骨の間を走り、手根管をくぐりぬけて、主に手の親指側に分布する。支配する感覚の領域は手のひら側の親指から薬指の半分とその下の手のひら、手背側では親指から薬指の半分の指先である。

4.〇 正しい。尺骨神経が障害神経である。
・尺骨神経とは、上腕の内側から前腕の内側を通る。小指側の感覚と手指・手首の運動を支配する。尺骨神経麻痺の症状として、Froment徴候陽性や鷲手がみられる。ちなみに、鷲手とは、尺骨神経麻痺により手内筋が萎縮し、とくに環指と小指の付け根の関節(MP関節、中手指骨関節)が過伸展する一方、指先の関節(DIP関節、遠位指節間関節)と中央の関節(PIP関節、近位指節間関節)が屈曲した状態である。

 

 

 

 

 

 

次の症例について、問題 87、88 の問いに答えよ。
 「78歳の肥満女性。以前から腰痛があった。3日前から左膝内側の痛みが出現。市販の外用薬を使用して様子をみていたが、歩行時痛が増強してきたため来院した。」

問題87 診断に有用性が最も低いのはどれか

1.間欠跛行の聴取
2.膝蓋跳動
3.スパーリングテスト
4.下肢伸展挙上テスト

解答

解説

本症例のポイント

・78歳の肥満女性(以前から腰痛あり)。
・3日前から左膝内側の痛みが出現。
・市販の外用薬を使用して様子をみていた。
歩行時痛が増強してきたため来院した。
→本症例は、変形性膝関節症がもっとも疑われるが、「以前から腰痛もある」とのことから、腰椎の疾患が関連している可能性も考慮する必要がある。

1.〇 間欠跛行の聴取は、診断に有用性が高い。なぜなら、本症例は「以前から腰痛もある」とのことから、腰椎の疾患が関連している可能性も考慮する必要があるため。
・腰部脊柱管狭窄症とは、脊柱管が腰部で狭くなる病気である。そのため、腰から下の神経に関連する症状(しびれや疼痛、脱力など)が出現する。歩行時には腰痛があまり強くならない事が多く、歩行と休息を繰り返す間歇性跛行が特徴である。間欠性跛行とは、歩行を続けると下肢の痛みと疲労感が強くなり、足を引きずるようになるが、休むと再び歩けるというものである。体幹前傾ではなく、休むと改善する。

2.〇 膝蓋跳動は、診断に有用性が高い。なぜなら、変形性膝関節症で炎症が強い場合や、半月板損傷などの他の膝関節疾患がある場合に関節液が貯留するため。
・膝蓋跳動とは、関節貯留液の有無の検査である。膝蓋骨を押すと大腿骨に衝突してコツコツと音がすると陽性である。

3.× スパーリングテストは、診断に有用性が最も低い。なぜなら、本症例の症状は主に、膝と腰であるため。
・Spurlingテスト(スパーリングテスト)は、頚椎の椎間孔圧迫試験である。方法は、頭部を患側に傾斜したまま下方に圧迫を加える。患側上肢に疼痛やしびれを認めれば陽性である。陽性の場合、椎間板ヘルニアや頚椎症による椎間孔狭窄(頚部神経根障害)などが考えられる。

4.〇 下肢伸展挙上テストは、診断に有用性が高い。なぜなら、本症例は「以前から腰痛もある」とのことから、腰椎の疾患が関連している可能性も考慮する必要があるため。
・SLRテスト(下肢伸展挙上テスト)は、脊髄後根で圧迫を受ける疾患(坐骨神経痛、椎間板ヘルニアなど)の有無、ハムストリングス損傷や短縮をみる。背臥位で、下肢を挙上し痛みが生じたら陽性である。

 

 

 

 

 

次の症例について、問題 87、88 の問いに答えよ。
「78歳の肥満女性。以前から腰痛があった。3日前から左膝内側の痛みが出現。市販の外用薬を使用して様子をみていたが、歩行時痛が増強してきたため来院した。」

問題88 運動療法で適切でないのはどれか

1.水中ウォーキング
2.体幹筋訓練
3.大腿四頭筋訓練
4.長距離歩行

解答

解説

本症例のポイント

・78歳の肥満女性(以前から腰痛あり)。
・3日前から左膝内側の痛みが出現。
・市販の外用薬を使用して様子をみていた。
歩行時痛が増強してきたため来院した。
→本症例は、変形性膝関節症がもっとも疑われるが、「以前から腰痛もある」とのことから、腰椎の疾患が関連している可能性も考慮する必要がある。

1.〇 水中ウォーキングは、本症例の運動療法で実施する。なぜなら、水中ウォーキングは、膝に負担がかからず実施できるため。また、本症例は高齢で肥満である。陸上での歩行は、体重が直接膝関節にかかるため負担が大きいが、水中では浮力によって体重が軽減されるため、膝関節や腰への負担を大幅に減らして運動することができる。

2.〇 体幹筋訓練は、本症例の運動療法で実施する。なぜなら、本症例は、「以前から腰痛もある」と言っているため。体幹の筋肉(お腹や背中の筋肉)を鍛えることは、体の軸を安定させ、腰への負担が軽減できる(特に、)。

腰痛体操

McKenzie体操(マッケンジー法):ニュージーランドの理学療法士「ロビン・マッケンジー氏」により考案された、腰部の伸展を主に行う運動である。脊柱の生理的前弯の減少に対し、関節可動域を改善することで脊柱前弯を獲得させ、椎間板内の髄核を前方に移動させることを目的に行う。

Williams体操(ウィリアムス体操):目的は、腰痛症に対して腰部の負担を軽減することである。方法として、腹筋・大殿筋・ハムストリングス・背筋群のストレッチングを行う。

3.〇 大腿四頭筋訓練は、本症例の運動療法で実施する。なぜなら、大腿四頭筋(膝関節伸展筋群)は、膝関節の安定性に寄与し、歩行時の痛みの軽減、膝折れ(急に膝がカクッと曲がる)の予防など期待できるため。

4.× 長距離歩行は、運動療法で適切でない。なぜなら、本症例にとって負担が大きすぎるため。本症例は、高齢かつ肥満で、膝・腰痛が認められる。長距離歩行は、膝関節への機械的な負担が増大し、関節の炎症が悪化したり、痛みがさらに増強したりする可能性がある。

変形性膝関節症とは?

変形性膝関節症は、①疼痛、②可動域制限、③腫脹、④関節変形などがみられる。進行度にかかわらず、保存療法が第一選択となる。減量や膝に負荷のかかる動作を回避するような日常生活動作指導、筋力トレーニングやストレッチなどの運動療法、装具や足底板などの装具療法、鎮痛薬や関節内注射などの薬物療法が行われる。

 

 

 

 

 

 

次の症例について、問題89、90の問いに答えよ。
 「55歳の男性。夕食にしめさばを食べ就寝したところ1時間半後に強い心窩部痛で覚醒、救急搬送された。下痢は認められなかった。」

問題89 本症例の発症について正しいのはどれか。

1.イカの生食では発症しない。
2.一度発症したら二度と罹患しない。
3.食材の-20℃、48時間冷凍で予防できる。
4.細菌感染症である。

解答

解説

本症例のポイント

・55歳の男性。
・夕食にしめさばを食べ就寝
・1時間半後に強い心窩部痛で覚醒、救急搬送。
・下痢は認められなかった。
→本症例は、アニサキス症が最も疑われる。アニサキス症とは、アニサキスという寄生虫が海産魚介類に寄生しており、ヒトがその魚介類を生(不十分な冷凍や加熱をしたものも含む)で食べることで引き起こされる食品媒介寄生虫症である。アニサキスとは、寄生虫(線虫)の一種である。アニサキス幼虫は、長さ2~3cm、幅は0.5~1mmくらいで、白色の少し太い糸のように見える。生の魚介類を摂取した際に、消化器系に寄生することがあり、アニサキス症と呼ばれる感染症を引き起こすことがある。症状として、食後数時間後から十数時間後に、みぞおちの激しい痛み、悪心、嘔吐を生じる。食後十数時間後から数日後に、激しい下腹部痛、腹膜炎症状を生じる。

1.× イカの生食で「発症する」。アニサキスは、サバだけでなく、サケ、イワシ、カツオ、アジ、サンマ、そしてイカなど、様々な海産魚介類に寄生している幼虫である。

2.× 一度発症「しても」二度、三度罹患する。なぜなら、アニサキス症は、アニサキスという寄生虫に感染することで起こる病気であるため。したがって、一度アニサキス症にかかったとしても、体の中にアニサキスに対する免疫ができるわけではない。

3.〇 正しい。食材の-20℃、48時間冷凍で予防できる。なぜなら、アニサキスの幼虫は、熱に弱い(70℃以上で死滅)だけでなく、低温にも弱い性質があるため。「アニサキス食中毒に関するQ&A(厚生労働省HP)」にも、「アニサキスによる食中毒を予防するための措置として、中心温度が-20℃以下で24時間以上冷凍することが有効である」と記載されている。

4.× 「細菌感染症」ではなく寄生虫症である。細菌性食中毒は通常、食後数時間から数日後に発熱や下痢が起こることが多いが、アニサキス症は食後比較的短時間で激しい腹痛が特徴である。
・食中毒の原因となる細菌としては、カンピロバクターやサルモネラなどがある。

 

 

 

 

 

次の症例について、問題 89、90 の問いに答えよ。
「55歳の男性。夕食にしめさばを食べ就寝したところ1時間半後に強い心窩部痛で覚醒、救急搬送された。下痢は認められなかった。」

問題90 本疾患について正しいのはどれか。

1.胃内視鏡治療を行う。
2.アナフィラキシーは発症しない。
3.胃潰瘍を認める。
4.抗菌薬投与が有効である。

解答

解説

本症例のポイント

・55歳の男性。
・夕食にしめさばを食べ就寝
・1時間半後に強い心窩部痛で覚醒、救急搬送。
・下痢は認められなかった。
→本症例は、アニサキス症が最も疑われる。アニサキス症とは、アニサキスという寄生虫が海産魚介類に寄生しており、ヒトがその魚介類を生(不十分な冷凍や加熱をしたものも含む)で食べることで引き起こされる食品媒介寄生虫症である。アニサキスとは、寄生虫(線虫)の一種である。アニサキス幼虫は、長さ2~3cm、幅は0.5~1mmくらいで、白色の少し太い糸のように見える。生の魚介類を摂取した際に、消化器系に寄生することがあり、アニサキス症と呼ばれる感染症を引き起こすことがある。症状として、食後数時間後から十数時間後に、みぞおちの激しい痛み、悪心、嘔吐を生じる。食後十数時間後から数日後に、激しい下腹部痛、腹膜炎症状を生じる。

1.〇 正しい。胃内視鏡治療を行う
・胃アニサキス症の場合、最も効果的で一般的な治療法は、胃カメラ(内視鏡)を使って、胃の粘膜に食いついているアニサキスの幼虫を直接見つけ出し、鉗子などの器具を用いて摘出することである。これを胃内視鏡治療という。幼虫を摘出すると、通常、激しい腹痛などの症状は劇的に改善する。

2.× アナフィラキシーを「発症することもある」。なぜなら、アニサキス症では、アニサキスの成分に対するアレルギー反応としてみられるため。アレルギー反応は、皮膚の蕁麻疹(じんましん)、血管性浮腫(まぶたや唇の腫れ)、そしてアナフィラキシー(全身性の重篤なアレルギー反応で、呼吸困難、血圧低下、意識障害などを伴い、生命に関わることもある)を発症する可能性がある。
・アナフィラキシーとは、アレルギー反応で起こるショックのことである。主にⅠ型アレルギー反応の結果、血管拡張や血管透過性の亢進による血漿漏出が生じ、循環血液量の減少をきたすことで起こる。アナフィラキシーショックの症状として(頻脈、血圧低下、意識障害、喉頭浮腫、呼吸困難)を引き起こす。

3.× 胃潰瘍は「認めないことが多い」。なぜなら、アニサキスの幼虫は、胃の粘膜に頭を突き刺して食いつき、その周囲に炎症やむくみを引き起こすものであるため。つまり、胃潰瘍のような胃の粘膜が深くえぐれてしまうような潰瘍を形成するわけではない。
・胃潰瘍とは、胃粘膜が炎症を起こし、粘膜の一部が欠損している状態である。症状として、みぞおちを中心とした鋭い痛み、吐き気、嘔吐、胸やけ、頻繁なげっぷ、食欲不振などである。

4.× 抗菌薬投与は、「有効とはいえない」。なぜなら、アニサキス症は、細菌が原因で起こる病気ではなく、アニサキスという寄生虫が原因で起こる寄生虫症であるため。
・抗菌薬とは、細菌を壊したり、増えるのを抑えたりする薬のことである。抗菌薬の不適正使用により、薬剤耐性菌の出現が問題となっている。適正に感染症診断を行なったうえで必要時に内服を行う。

 

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