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146.刺鍼局所に起こる神経原性炎症について正しいのはどれか。
1.ノルアドレナリンが関与する。
2.単シナプス反射によって起こる。
3.血漿蛋白が漏出する。
4.皮膚のみで起こる。
解答3
解説
サブスタンスPは、広作動域ニューロンのひとつである。広作動域ニューロンとは、非侵害刺激を含めた色々の種類の刺激を受け入れるC線維(ポリモーダル受容器)が受けた刺激を脳へ中継する神経細胞のことである。脊髄Ⅴ層に存在する。一次感覚細胞から広作動域ニューロンへの痛みの信号はサブスタンスPやグルタミン酸などの興奮性アミノ酸によって伝達される。ポリモーダル受容器の興奮で放出されたCGRP・サブスタンスPは血管拡張や血漿蛋白の漏出を生じさせ、結果として神経原性炎症を起こす。
1.× 「ノルアドレナリン」ではなくCGRPやサブスタンスPが関与する。ちなみに、CGRPとは、カルシトニン遺伝子関連ペプチドのことで、片頭痛の痛みの直接の原因とされているタンパク質である。脊髄後根神経節で産生され、中枢および末梢の両側性に作用する。末梢血管を著しく拡張させ、血管透過性を亢進させる働きを持つ。鍼刺激ではCGRPを含む知覚神経が刺激され、軸索反射によりコリン作動性神経の末端に働いて血管が拡張するとされる。ポリモーダル受容器の興奮で放出されたCGRP・サブスタンスPは血管拡張や血漿蛋白の漏出を生じさせ、結果として神経原性炎症を起こす。
2.× 「単シナプス反射」ではなく軸索反射によって起こる。単シナプス反射は、伸張反射のことで筋紡錘に存在する一次終末からのIa線維を介してα運動ニューロンにシナプスを形成するもので、単シナプス性の反射経路をとる。筋を伸張すると筋紡錘も引き伸ばされ、感覚神経の終末が変形する。この機械的刺激が感覚神経に求心性発射活動を引き起こす。
3.〇 正しい。血漿蛋白が漏出する。軸索反射により、神経ペプチドが放出され、皮膚発赤(血管拡張、血流増加)、平滑筋収縮(気管支収縮、気道収縮)、粘膜浮腫(血管透過性亢進による血漿蛋白漏出)、粘液分泌亢進が起こる。
4.× 「皮膚のみ」ではなく平滑筋や粘膜でも起こる。つまり、全身に作用する。
軸索反射とは、末梢神経の軸索上で起こる反射様現象である。神経末端に生じた興奮が神経の分枝に沿って逆行性に伝播する現象のことをさす。したがって、鋮刺激によりポリモーダル受容器が興奮すると、軸索反射によって受容器末端から神経伝達物質が放出され、コリン作動性神経の末梢血管に働いて(血管拡張(フレア)、膨疹(浮腫))が生じる。※神経伝達物質には(CGRP、サブスタンスP)が考えられている。
147.下行性痛覚抑制系による鍼鎮痛の特徴について正しいのはどれか。
1.発現までに時間がかかる。
2.大脳皮質感覚野で起こる。
3.効果は刺激周囲に限られる。
4.刺激終了後すぐに消失する。
解答1
解説
下行性疼痛抑制系とは、脳幹部から神経線維が脊髄後角に下行し、そこで痛みの伝達を遮断するシステムである。下行性疼痛抑制線維は、主にノルアドレナリンやセロトニンなどである。
1.〇 正しい。発現までに時間がかかる。反射に至っても、わずかな時間経過は必ず起こるもので、時間がかからない反応はないと考えられる。とはいえ、下行性痛覚抑制系による鍼鎮痛の発現には、10~30分の潜伏期を必要とする。
2.× 「大脳皮質感覚野」ではなく脳幹部で起こる。
3.× 効果は、「刺激周囲」ではなく脊髄全体に寄与する。下行性疼痛抑制系とは、脳幹部から神経線維が脊髄後角に下行し、そこで痛みの伝達を遮断するシステムである。
4.× 刺激終了後、「すぐに消失」ではなく20~30分は効果が持続する。
ケミカルメディエーターとは、化学伝達物質ともいい、細胞間の情報伝達に作用する化学物質のことである。肥満細胞が放出するケミカルメディエーターは、さまざまなアレルギー反応(血管透過性の亢進、血流の増加、炎症細胞の遊走など)を起こす。
【例】
・ヒスタミン
・ロイコトリエン
・トロンボキサン
・血症板活性化因子
・セロトニン
・ヘパリンなど。
148.中脘への鍼刺激で胃運動が抑制される機序に関与するのはどれか。
1.下腹神経
2.大内臓神経
3.骨盤神経
4.迷走神経
解答2
解説
・胃の募穴
・上腹部、前正中線上、臍中央の上方4寸に位置する。
1.× 下腹神経とは、腰部神経節から出る交感神経で、大腸、直腸の情報や動き、内肛門括約筋の動きを支配する。
2.〇 正しい。大内臓神経は、中脘への鍼刺激で胃運動が抑制される機序に関与する。大内臓神経とは、主にT6~T9(またはT5~T10)からおこる自律神経(交感神経)の節前繊維である。
3.× 骨盤神経とは、仙骨から出る副交感神経であり、膀胱や尿道に分布し、排尿を促す働きがある。
4.× 迷走神経とは、感覚神経・運動神経の一つである。嚥下運動や声帯の運動、耳介後方の感覚などに作用する。内臓(胃、小腸、大腸や心臓、血管など)に多く分布し、体内の環境をコントロールしている。刺激すると徐脈、咳、嘔吐などを生じる。強い痛みや精神的ショックなどが原因で、迷走神経が過剰に反応すると、心拍数や血圧の低下、失神などを引き起こす(迷走神経反射)。
腹部から下肢に分布する脊髄神経は、腰神経叢と仙骨神経叢とを形成する。腰神経叢は、T12~L4の前枝で構成され、その枝は腹部から大腿前面に分布する。一方、仙骨神経叢は、L4~S4前枝から構成され、その枝は腰部~大腿後面と下肢~足部に分布する。
腰神経叢:①腸骨下腹神経、②腸骨鼠経神経、③外側大腿皮神経、④大腿神経、⑤陰部大腿神経、⑥閉鎖神経
仙骨神経叢:①上殿神経、②下殿神経、③坐骨神経、④後大腿皮神経、⑤陰部神経
149.鍼治療による生体防御反応に最も関係するのはどれか。
1.アセチルコリン遊離
2.体性―内臓反射
3.サイトカイン産生
4.パチニ小体興奮
解答3
解説
フレア現象とは、お灸の熱刺激によって細胞レベルで微細な火傷が起こり、神経から脳に「ここにケガがあるから治すために血液を送ってください」と連絡が入ることで起こる軸索反射のこと。軸索反射とは、末梢神経の軸索上で起こる反射様現象である。神経末端に生じた興奮が神経の分枝に沿って逆行性に伝播する現象のことをさす。したがって、鋮刺激によりポリモーダル受容器が興奮すると、軸索反射によって受容器末端から神経伝達物質が放出され、コリン作動性神経の末梢血管に働いて(血管拡張(フレア)、膨疹(浮腫))が生じる。※神経伝達物質には(CGRP、サブスタンスP)が考えられている。
1.× アセチルコリン遊離(の増加)は、軸索反射に関与する。アセチルコリンとは、代表的な神経伝達物質であり、①運動神経の神経筋接合部、②交感神経および副交感神経の節前線維の終末、副交感神経の節後線維の終末などのシナプスで放出される。アセチルコリンは、中枢神経で働く場合と末梢神経で働く場合で作用が異なる。①運動神経の神経筋接合部では、筋収縮に作用する。
2.× 体性―内臓反射とは、【求心路】が体性感覚神経、【遠心路】が自律神経系からそれぞれ構成される反射機構である。これは、皮膚に侵害性刺激(いわゆる痛み刺激)を加えると交感神経系の機能が亢進し、心拍数の増大、血圧の増加等が生じる反射である。つまり、鍼灸刺激が内臓に及ぼす作用に関与する。
3.〇 正しい。サイトカイン産生は、鍼治療による生体防御反応に最も関係する。サイトカインとは、細胞から分泌される低分子のタンパク質で生理活性物質の総称のことで、 生理活性蛋白質とも呼ばれ、細胞間相互作用に関与し周囲の細胞に影響を与える。
4.× パチニ小体興奮は、ゲートコントロール説(鎮痛)に関与する。ちなみに、パチニ小体とは、振動や圧力の感覚受容器である。ゲートコントロール理論とは、高頻度刺激によって、脊髄の触・圧・振動覚などの低閾値感覚を伝える太い神経線維を刺激することで、脊髄後角の感覚神経を活性化させ、痛みの信号通路のゲートを閉ざし疼痛を抑制させる理論である。脳と脊髄は痛みやその他の接触刺激などを同時に感じ取らないように働いているため、このような理論が提唱されている。
150.ストレス学説において初めに加えられたストレッサーに対してのみ有効な抵抗を現す時期はどれか。
1.ショック相
2.反ショック相
3.交絡感作期
4.疲憊期
解答3
解説
汎適応症候群(ストレス学説)とは、ハンス・セリエが提唱した。ストレッサーの種類に関係なく、心身に同じ反応が起きること、また、その症状が全身に及ぶことから、「汎適応症候群」という。ちなみに、ストレス学説とは、ストレスに対する適応症候群(防御反応)である。発生機序として、ストレスが人体に加わると適応ホルモンとして脳の下垂体から副腎に副腎皮質刺激ホルモンが分泌され、さらに副腎は副腎皮質ホルモンを分泌して人体を保護する。人体にストレス刺激が加わりストレス状態が続くと、副腎皮質が肥大する。第1期(警告反応期)→第2期(抵抗期)→第3期(疲憊期)という過程をたどる。
1.× ショック相は、第1期(警告反応期)の前半である。生体がストレッサーに直面した直後で、刺激に対する抵抗性が低下している時期である。 体温や血圧の低下、毛細血管の透過性亢進、筋緊張の低下がみられる。
2.× 反ショック相(交絡抵抗期)は、第1期(警告反応期)の後半である。生体が積極的な防衛反応を示し始める時期である。 副腎皮質が肥大して副腎皮質ホルモンの分泌が増加し、体温や血圧の上昇、筋の緊張、血糖値の上昇などがみられ、与えられたストレッサー以外の刺激に対しても抵抗を示す。
3.〇 正しい。交絡感作期は、ストレス学説において初めに加えられたストレッサーに対してのみ有効な抵抗を現す時期である。交絡感作期は、第2期(抵抗期)に該当する。警告反応期よりも刺激に順応して、身体内部は安定した状態になるが、与えられたストレッサーに対してのみ有効な抵抗を示し、それ以外の刺激に対する抵抗力は弱まっている。
4.× 疲憊期は、第3期である。刺激が長く続いたり、強かったりして、生体が適応の反応を維持できなくなった状態である。ショック相の状況とよく似た変化をあらわし、抵抗力を失うことが多い。