第22回(H26年)柔道整復師国家試験 解説【午後106~110】

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問題106.30歳の女性。ソフトボールで捕球の際に右環指PIP関節部が過伸展され負傷し、直ちに来所した。PIP関節は弾発性に固定され、屈曲は著しく制限されている。
 正しいのはどれか。

1.ボタン穴変形を呈している。
2.整復は長軸方向への牽引が有効である。
3.PIP関節は伸展位で固定する。
4.側副靭帯損傷を合併する際は隣接指と固定する。

解答

解説

本症例のポイント

・30歳の女性。
・ソフトボールで捕球:右環指PIP関節部が過伸展され負傷。
・PIP関節は弾発性に固定屈曲は著しく制限
→本症例は、PIP関節背側脱臼が疑われる。

→PIP関節背側脱臼とは、背側脱臼が多く、掌側板の断裂や中節骨基部掌側顆部骨折を伴う。簡単に整復された場合や裂離した骨片が大きくなく転位や回転がほとんどない場合は保存的に治療するが、それ以外は早期に手術を行う。長軸方向への牽引は整復障害を助長するため行わない。背側脱臼では、掌側板損傷を合併しやすい。

1.× ボタン穴変形を呈している「とはいえない」。なぜなら、本症例のPIP関節は、弾発性に固定され屈曲が著しく制限されている状況であるため。
・ボタン穴変形(ホール変形)は、MP関節過伸展、PIP関節屈曲、DIP過伸展、中央索の伸長・断裂が起こる。

2.× 整復は長軸方向への牽引が有効である「とはいえない」。なぜなら、長軸方向への牽引は、かえって伸筋腱や靭帯の離開を助長し、損傷を悪化させる可能性があるため。

3.× PIP関節は、「伸展位」ではなく軽度屈曲位で固定する。

4.〇 正しい。側副靭帯損傷を合併する際は隣接指と固定する。なぜなら、隣接指と固定することで、安全な固定が可能となるため。

PIP関節脱臼について

【種類】
①背側脱臼:掌側板損傷する
②掌側脱臼:正中索損傷する(ボタン穴変形)
③側方脱臼:側副靱帯損傷する(側方動揺性)

【固定法】
①DIP・PIP関節:軽度屈曲位
②正中索損傷の場合:PIP伸展位
側副靭帯損傷の場合:隣接指間にパットを挟み固定

※示指PIP関節背側脱臼で正中索損傷を合併している稀な症例であるが、基本的に正中索損傷する(ボタン穴変形)に対する固定方法を行う。

 

 

 

 

 

問題107.50歳の女性。3週前に高い所にあるものを取ろうとして右肩に疼痛が出現した。日常生活で外旋、内旋、挙上、水平伸展などの肩関節の運動制限が生じ、洗髪や衣服の着脱が不便となった。夜間は寝返りによる痛みで目が覚めてしまう。肩の変形や筋萎縮は認められず、腫脹や熱感もない。
 適切でないのはどれか。

1.温熱療法
2.自動運動
3.他動的矯正術
4.保温用サポーター装着

解答

解説

本症例のポイント

・50歳の女性。
・3週前:高い所にあるものを取ろうとして右肩に疼痛が出現。
・日常生活:外旋、内旋、挙上、水平伸展などの肩関節の運動制限。
・洗髪や衣服の着脱が不便。
夜間:寝返りによる痛みで目が覚めてしまう。
・肩の変形や筋萎縮は認められず、腫脹や熱感もない。
→本症例は、五十肩(肩関節周囲炎)の痙縮期が疑われる。

1.〇 正しい。温熱療法は適応となる。なぜなら、温熱により血流が改善し、筋緊張が緩和し、疼痛軽減と可動域改善が期待できるため。

2.〇 正しい。自動運動は適応となる。なぜなら、痛みのない範囲での自動運動を行うことで、肩関節の拘縮(関節可動域制限)の進行を防ぐことができるため。

3.× 他動的矯正術は適応とはいえない。なぜなら、本症例は、五十肩(肩関節周囲炎)の痙縮期が疑われるため。急性炎症期に強制的に軟部組織(関節包や筋)を伸ばすと、炎症が悪化し痛みが増し、症状が長引くことが多い。

4.〇 正しい。保温用サポーター装着は適応となる。なぜなら、肩周囲を保温することにより血流が改善し、痛みの軽減や筋のこわばり軽減につながるため。

肩関節周囲炎とは?

肩関節周囲炎(五十肩)は、慢性炎症に分類される。肩関節周囲炎(五十肩)は、肩関節とその周辺組織(肩峰下滑液包や腱板など)の退行性変性が原因となり肩関節の痛みと運動の制限を伴うものである。加齢による退行変性を基盤に発症し、疼痛(運動時痛、夜間時痛)と運動障害を主徴とする。肩関節周囲炎は痙縮期、拘縮期、回復期と分けられ、筋萎縮は拘縮期に肩甲帯筋の廃用性萎縮としてみられる。リハビリとして、Codman体操(コッドマン体操)を実施する。肩関節周囲炎の炎症期に使用する運動であり、肩関節回旋筋腱板の強化や肩関節可動域拡大を目的に使用する。患側の手に1~1.5㎏の重錘を持ち、振り子運動を行う。

①痙縮期(約2~9か月):急性期で疼痛が主体となる。明らかな誘因はなく、肩の違和感や痛みで出現。運動時痛や安静時・夜間時痛が出現し、急速に関節が硬くなる。局所の安静、三角巾固定痛みの出る動作は避ける。

②拘縮期(約4~12か月):亜急性期で拘縮が主体となる。徐々に安静時痛・夜間痛は軽減しますが、肩関節は拘縮し、可動域制限が残りやすくなる。過度に動かすと強いつっぱり感が出現する。徐々に運動範囲を広げる(お風呂やホットパックでの保温、愛護的に関節可動域の拡大)

③回復期(約6~9か月):慢性期で、症状は徐々に改善する。可動域制限も徐々に回復し、運動時痛も消失する。積極的な運動(ストレッチング)を実施する。

 

 

 

 

 

問題108.40歳の男性。泥酔して自宅のソファーで肘枕をして寝てしまった。翌朝、写真に写すような状態で来所した。手関節の自動背屈運動を指示したができない。写真を下に示す。
 この患者でみられるのはどれか。

1.母指・示指中手骨間手背部の感覚は正常である。
2.母指MP関節の橈側外転は可能である。
3.母指と小指の対立運動は可能である。
4.ティアドロップサインがみられる。

解答

解説

本症例のポイント

・40歳の男性。
・泥酔して自宅のソファーで肘枕をして寝てしまった。
・翌朝の写真:下垂手
・手関節の自動背屈運動できない。
→本症例は、橈骨神経麻痺(いわゆるハネムーン症候群やサタデーナイト現象)が疑われる。橈骨神経麻痺とは、母指背側の感覚障害と上腕三頭筋・腕橈骨筋・長、短橈側手根伸筋、総指伸筋などの伸筋群の麻痺(下垂手)を認める。

1.× 母指・示指中手骨間手背部の感覚は、「正常」ではなく異常(鈍麻)である。なぜなら、橈骨神経麻痺の感覚の支配領域であるため。

2.× 母指MP関節の橈側外転は、「可能」ではなく低下する。母指の橈側外転に寄与する筋肉は、①長母指外転筋、②短母指外転筋である。
・長母指外転筋の【起始】尺骨と橈骨の中部背側面、前腕骨間膜背面、【停止】第1中手骨底背面外側付近、【作用】母指外転、【支配神経】橈骨神経深枝:C6~C8である。
・短母指外転筋の【起始】舟状骨結節、屈筋支帯の橈側端前面、【停止】種子骨、母指基節骨底、一部は指背腱膜、【作用】母指外転、屈曲、【支配神経】正中神経:C8,T1である。

3.〇 正しい。母指と小指の対立運動は可能である。なぜなら、母指と小指の対立運動は、正中神経麻痺によって起こるため。
・正中神経麻痺とは、tear drop sign(ティア ドロップ サイン)または、perfect O(パーフェクト Oテスト)や、Phalen(ファレンテスト)が陽性となる麻痺である。特徴的な症状として、①猿手変形(母指対立障害による)、②母指球筋の萎縮、手指の感覚障害(母指~環指橈側)がみられる。ちなみに、ファーレン徴候(Phalen徴候)とは、手首を曲げて症状の再現性をみる検査である。perfect O(パーフェクト Oテスト)とは、親指と人差し指の先端をくっつけて丸形を作る検査である。

4.× ティアドロップサインがみられるのは、「正中神経麻痺」である。

 

 

 

 

 

問題109.12歳の男児。体重80kg。2か月前、マット運動で股関節に痛みを感じた。その後、徐々に跛行を呈するようになり、改善しないので来所した。股関節から大腿前面にかけての疼痛を訴え、股関節の可動域制限を認める。股関節を屈曲すると外旋して大腿部が腹部につかない。
 考えられる疾患はどれか。

1.鼠径部痛症候群
2.弾発股
3.ペルテス(Pertehes)病
4.大腿骨頭すべり症

解答

解説

本症例のポイント

12歳の男児体重80kg)。
・2か月前:マット運動で股関節に痛みを感じた。
・その後:徐々に跛行を呈し改善しない。
股関節から大腿前面にかけての疼痛。
・股関節の可動域制限を認める。
・股関節を屈曲すると外旋して大腿部が腹部につかない(Drehmann徴候)。
→ほかの選択肢が消去できる理由もあげられるようにしよう。

1.× 鼠径部痛症候群より優先されるものが他にある。なぜなら、鼠径部痛症候群は、慢性的なオーバーユースに伴う鼠径部の痛みであり、肥満児や成長期の股関節疾患、外旋拘縮を生じる病態ではないため。
・鼠径部痛症候群とは、ランニングや起き上がり、キック動作など腹部に力を入れたときに鼠径部やその周辺に痛みが生じものをさす。他の競技と比べサッカー選手に多く見られ、一度なると治りにくいのが特徴である。体幹から股関節周辺の筋や関節の柔軟性(可動性)の低下による拘縮や骨盤を支える筋力(安定性)低下による不安定性、体幹と下肢の動きが効果的に連動すること(協調性)が出来ず不自然な使い方によって、これらの機能が低下し、痛みと機能障害の悪循環が生じて症状が慢性化する。

2.× 弾発股より優先されるものが他にある。なぜなら、跛行はきたしにくいため。
・弾発股とは、股関節の回りの筋肉や腱が、骨(大転子)に引っ掛かり、ポキッと音がする症状をさす。股関節運動時にこの大転子の上を腸脛靭帯という靭帯が滑るように通るが、何らかの原因で正常に動かなくなり引っ掛かり感や音、痛みが発生する。腸脛靭帯に移行していく大腿筋膜張筋の影響と、同じく腸脛靭帯に入り込む大殿筋の影響が大きい。主な原因は、①スポーツや仕事など日常生活の中で姿勢や習慣、②年齢による筋力低下、③股関節や仙腸関節の機能障害などがあげられる。

3.× ペルテス(Pertehes)病より優先されるものが他にある。なぜなら、ペルテス病は、小柄な男児に多く見られるため。
・ペルテス病とは、小児期における血行障害による大腿骨頭・頚部の阻血性壊死(虚血と阻血は同義であり、動脈血量の減少による局所の貧血のこと)が原因で骨頭・頚部の変形が生じる骨端症である。初期症状は、跛行と股関節周囲の疼痛(大腿部にみられる関連痛)、股関節の可動域制限である。治療は、大腿骨頭壊死の修復が主な目標である。治療後は歩容の異常がなく、通常の日常生活を送れるようになることが多い。

4.〇 正しい。大腿骨頭すべり症が最も考えられる疾患である。なぜなら、股関節を屈曲すると外旋して大腿部が腹部につかない(ドレーマン徴候)ことは、大腿骨頭すべり症で陽性になるため。
・Drehmann徴候とは、大腿骨頭すべり症を発症した際、股関節屈曲を行うと開排して患肢の大腿前面を腹につけられない状態のことをいう。
・大腿骨頭すべり症とは、大腿骨近位骨端軟骨の脆弱化、体重負荷により、大腿骨頭が頚部に対して、後下方に転位する疾患である。原因として、肥満と成長期のスポーツ活動による力学的負荷が大腿骨に加わるために生じる。成長ホルモンと性ホルモンの異常で発症することもある。9歳から15歳頃の股関節の成長軟骨板(成長線)が力学的に弱い時期に発症する。

 

 

 

 

 

問題110.16歳の女子。昨日のバスケットボールの練習中、シュートで着地したときに右膝がガクッとなり、痛くて動かしにくくなったと訴え来所した。膝蓋跳動がみられるが、以前に疼痛が出現したことはないという。
  考えにくいのはどれか。

1.膝蓋骨亜脱臼
2.前十字靭帯損傷
3.離断性骨軟骨炎
4.内側側副靭帯損傷

解答

解説

本症例のポイント

・16歳の女子。
・バスケットボールのシュートで着地:右膝がガクッとなり、痛くて動かしにくくなった。
膝蓋跳動がみられる。
・以前に疼痛が出現したことはない。
→本症例は、急性外傷性膝関節内血腫が疑われる。膝の解剖学を復習しておこう。

→膝蓋跳動は、関節貯留液の有無の検査である。膝蓋骨を押すと大腿骨に衝突してコツコツと音がすると陽性である。

1.〇 膝蓋骨亜脱臼は十分考えられる。なぜなら、ジャンプ後の着地動作で膝関節に外反・回旋ストレスが加わると、膝蓋骨は外側へ外れかけやすく、これにより急性の関節血腫が起き、膝蓋跳動も陽性になり得るため。

2.〇 前十字靭帯損傷は十分考えられる。なぜなら、「着地時の膝崩れ(ガクッ)」「急性の膝蓋跳動(関節血腫)」は、前十字靭帯損傷の最も典型的な初期所見であるため。
・前十字靭帯とは、膝関節の中で、大腿骨と脛骨をつないでいる強力な靭帯である。役割は、主に①大腿骨に対して脛骨が前へ移動しないような制御(前後への安定性)と、②捻った方向に対して動きすぎないような制御(回旋方向への安定性)である。
・前十字靭帯損傷とは、スポーツによる膝外傷の中でも頻度が高く、バスケットボールやサッカー、スキーなどでのジャンプの着地や急な方向転換、急停止時に発生することが多い非接触損傷が特徴的な靭帯損傷である。Lachman test(ラックマンテスト)/軸移動テスト(pivot shift test:ピポットシフトテスト)/Jerkテスト(ジャークテスト)は、膝前十字靭帯損傷を検査する。

3.× 離断性骨軟骨炎が最も考えにくい。なぜなら、典型的に慢性の繰り返し負荷により発症するため。本症例のように、急性のガクッとした受傷や急激な関節血腫(膝蓋跳動)は起こさない。
・離断性骨軟骨炎とは、血流が悪くなることによって軟骨の下にある骨(軟骨下骨)が壊死し、膝関節の軟骨の一部が骨ごと剥がれてしまう病気である。これを、関節遊離体といい(関節ねずみともいい)、肘や膝などの関節部分にある骨や軟骨がはがれ落ち、関節内を動き回る物をいう。これが膝関節内に浮遊すると、嵌頓症状を引き起こす可能性があり、ロッキングは、膝が一定の角度で屈伸不能(特に完全伸展不能)になることである。原因として、半月板損傷後や関節遊離体などが断裂し、顆間窩に挟まれることによって生じる。

4.〇 内側側副靭帯損傷は十分考えられる。なぜなら、着地時の外反ストレスは、内側側副靭帯に強い負荷がかかる動きであるため。とはいえ、単独の内側側副靭帯損傷の場合は、血腫が起きにくい。優先順位をつけるなら、前十字靭帯損傷→膝蓋骨亜脱臼→内側側副靭帯損傷と考えられる疾患といえる。

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