第24回(H28年)柔道整復師国家試験 解説【午後56~60】

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問題56.アキレス腱断裂で正しいのはどれか。

1.下腿三頭筋の遠心性収縮時に生じる。
2.アキレス腱周囲炎から移行する。
3.好発年齢は20歳代である。
4.断裂後は歩行できない。

解答

解説

アキレス腱断裂とは?

アキレス腱断裂は、完全断裂と部分断裂にわけられる。したがって、断裂の程度に応じて保存療法と手術療法のどちらかに選択される。
【保存療法の治療】最大6週間、アキレス腱にストレスが加わらないようにする。大腿中央から足MP関節手前まで副子固定を行い、膝関節:90°屈曲位、足関節:最大底屈位または自然下垂位にする。このときに、踵部は、アキレス腱断裂の固定において圧迫がかかりやすい部位である。固定装置が踵部に適切な圧力を与えることで、アキレス腱の治療に必要な安定性が確保されるが、その反面、皮膚障害が生じやすい。

1.〇 正しい。下腿三頭筋の遠心性収縮時に生じる。アキレス腱断裂の最も多い受傷機転は、「スポーツ中の急な踏み込みや方向転換、ジャンプの着地動作(遠心性収縮時)」である。特に、テニスやバスケットボールなどで地面を強く蹴った瞬間に起こりやすい。
・遠心性収縮とは、筋は収縮しても筋長は伸びている収縮様式である。これは最大張力の場合だけでなく、種々の筋張力レベルで起こる。日常の運動動作は、重力方向との関係で身体の種々の部分で遠心性収縮が起きている。筋力増強効果が大きいとされるが、筋の損傷も大きい。筋力増強効果は、遠心性→等尺性→求心性の順に大きい。

2.× 一概に、アキレス腱周囲炎から移行する「わけではない」。なぜなら、周囲炎と急性の断裂とは病態が異なるため。
・アキレス腱周囲炎とは、アキレス腱を覆うパラテノンと呼ばれる組織に炎症が生じた状態を指す。スポーツなどで走ったり、ジャンプしたりすることにより、アキレス腱周囲が過度に引っ張られることなどが原因で発症する。高校生から社会人までの幅広い年代で発生がみられるが、比較的若い世代に多い。

3.× 好発年齢は、「20歳代」ではなく30〜40歳代である。なぜなら、加齢により腱の弾力性が低下し始めている一方で、まだスポーツ活動を活発に行う世代であるため。

4.× 一概に、断裂後は歩行できない「とはいえない」。なぜなら、下腿三頭筋(足関節底屈筋)は、アキレス腱(腓腹筋・ヒラメ筋)のほかに、後脛骨筋など代償する足関節底屈筋が存在するため。断裂後は、足関節底屈筋(特に、蹴り出し)が弱くなるが、歩行は可能である。
・後脛骨筋の【起始】下腿骨間膜の後面上半、下腿骨間膜に接する脛骨と腓骨、【停止】舟状骨粗面、内側、中間、外側楔状骨、立方骨、第2~3中足骨底、【作用】足関節底屈、内返し、【支配神経】脛骨神経(L5~S2)である。

 

 

 

 

 

問題57.骨系統疾患で常染色体劣性遺伝はどれか。

1.軟骨無形成症
2.モルキオ(Morquio)病
3.骨形成不全症1型
4.マルファン(Marfan)症候群

解答

解説

常染色体劣性遺伝とは?

常染色体劣性遺伝とは、常染色体上の遺伝子の変異が2つある場合に発症する遺伝形式である。男性と女性の両方に現れる。

1.× 軟骨無形成症とは、先天異常(常染色体優性遺伝)で、成長軟骨と言われる部分の変化により、低身長や四肢の短さ、指の短さ、特異顔貌が引き起こされる病気である。合併症である肥満、水頭症、閉塞性睡眠時無呼吸、中耳炎、脊柱管狭窄症などの治療または予防が必要になる場合がある。軟骨無形成症の人の平均寿命は健常者の平均寿命より約10年で短いといわれている。

2.〇 正しい。モルキオ(Morquio)病は、骨系統疾患で常染色体劣性遺伝である。
・モルキオ(Morquio)病とは、骨の変形が非常に強く、重症の方は身長も100cm前後となる特徴を持つ。ちなみに、知能は障害されません。幼児期から手足の変形、背骨のゆがみ、短い首と胴、X脚、低身長が観察される。また、背骨が強く変形して扁平になるために胴が短くなる。関節の靱帯が弛緩するために、関節がぐらぐらと不安定となる。

3.× 骨形成不全症1型は、先天異常(常染色体優性遺伝)で、1型は軽症で、骨折しやすいが寿命は正常に近い。
・骨形成不全症とは、易骨折性・進行性の骨変形などの骨脆弱性を示す病状に加え、様々な程度の結合組織の病状を示す先天性の疾患である。具体的な症状として、易骨折性、骨変形などの長管骨の骨脆弱性と脊椎骨の変形に加え、成長障害、青色強膜、歯牙(象牙質)形成不全、難聴、関節皮膚の過伸展などがみられる。さらに、脊柱変形による呼吸機能障害、心臓弁(大動脈弁、僧帽弁に多い)の異常による心不全などが引き起こされることがある。骨折は、乳児期や歩行の不安定な1~2歳ごろと運動をする機会が増える小学生で多いとされている。

4.× マルファン(Marfan)症候群は、先天異常(常染色体優性遺伝)である。
・マルファン(Marfan)症候群とは、全身の結合組織の働きが体質的に変化しているために、骨格の症状(高身長・細く長い指・背骨が曲がる・胸の変形:漏斗胸など)、眼の症状(水晶体(レンズ)がずれる・強い近視など)、心臓血管の症状(動脈がこぶのようにふくらみ、裂けるなど)などを起こす病気である。

 

 

 

 

 

問題58.骨粗鬆症の危険因子でないのはどれか。

1.肥満
2.糖尿病
3.胃切除
4.関節リウマチ

解答

解説

骨粗鬆症とは?

骨粗鬆症とは、骨量が減って骨が弱くなり、骨折しやすくなる病気である。原因として、閉経による女性ホルモンの低下や運動不足・喫煙・飲酒・栄養不足・加齢などである。骨粗鬆症の患者は、わずかな外力でも容易に圧迫骨折(特に胸腰椎)、大腿骨頚部骨折、橈骨遠位端骨折を起こしやすい(※参考:「骨粗鬆症」日本整形外科学会様HPより)。

1.× 肥満は、骨粗鬆症の危険因子でない。肥満は、むしろ骨粗鬆症に対して防御的に働くことが多い。なぜなら、脂肪組織から分泌されるエストロゲンや、体重増加による骨への機械的負荷が骨量保持に寄与するため。閉経後女性においても、肥満はある程度骨量を守る効果があるとされる(エストロゲンの減少は、骨粗鬆症の危険因子である)。

2.〇 糖尿病は、骨粗鬆症の危険因子である。なぜなら、慢性的な高血糖は骨質劣化を招くため。さらに、骨を作る細胞(骨芽細胞)の働きが弱まり、骨を壊す細胞(破骨細胞)の働きが強まることもある。その結果、骨折しやすくなる

3.〇 胃切除は、骨粗鬆症の危険因子である。なぜなら、胃を切除すると カルシウムやビタミンDの吸収不良を生じるため。したがって、慢性的に骨量が減少する。

4.〇 関節リウマチは、骨粗鬆症の危険因子である。なぜなら、慢性炎症ステロイド使用により骨代謝が障害されるため。炎症性サイトカインは、破骨細胞を活性化し、骨吸収を亢進させる。また、炎症を抑えるために使うステロイド薬も骨を作る力を弱める。

ステロイドの副作用

【ステロイドの機序】
ステロイドは細胞の中に入った後にグルココルチコイド受容体に結合する。ステロイドの結合したグルココルチコイド受容体は、細胞の核内へ移行し、炎症に関与する遺伝子の発現を調節すると言われている。 この結果として強力な抗炎症作用と免疫抑制作用が発揮される。

【ステロイドの副作用】
軽度:中心性肥満、体重増加、満月様顔貌
重度:消化管潰瘍、糖尿病、感染症、骨粗鬆症・骨壊死、筋炎、精神症状(抑うつ、せん妄)

ステロイドを長期的に内服した場合、体内でステロイドホルモンが分泌されなくなることがある。そのため、急に薬の内服を止めると体内のステロイドホルモンが不足し、倦怠感や血圧低下、吐き気、低血糖などの症状が起こることがある。これをステロイド離脱症候群という。

(※参考:「副腎皮質ステロイド」日本リウマチ学会様HP)

 

 

 

 

 

問題59.筋萎縮性側索硬化症でみられないのはどれか。

1.病的反射
2.嚥下障害
3.感覚障害
4.呼吸障害

解答

解説

”筋萎縮性側索硬化症とは?”

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、主に中年以降に発症し、一次運動ニューロン(上位運動ニューロン)と二次運動ニューロン(下位運動ニューロン)が選択的にかつ進行性に変性・消失していく原因不明の疾患である。病勢の進展は比較的速く、人工呼吸器を用いなければ通常は2~5年で死亡することが多い。男女比は2:1で男性に多く、好発年齢は40~50歳である。
【症状】3型に分けられる。①上肢型(普通型):上肢の筋萎縮と筋力低下が主体で、下肢は痙縮を示す。②球型(進行性球麻痺):球症状(言語障害、嚥下障害など)が主体、③下肢型(偽多発神経炎型):下肢から発症し、下肢の腱反射低下・消失が早期からみられ、二次運動ニューロンの障害が前面に出る。
【予後】症状の進行は比較的急速で、発症から死亡までの平均期間は約 3.5 年といわれている。個人差が非常に大きく、進行は球麻痺型が最も速いとされ、発症から3か月以内に死亡する例もある。近年のALS患者は人工呼吸器管理(非侵襲的陽圧換気など)の進歩によってかつてよりも生命予後が延長しており、長期生存例ではこれらの徴候もみられるようになってきている。ただし、根治療法や特効薬はなく、病気の進行に合わせて薬物療法やリハビリテーションなどの対症療法を行うのが現状である。全身に筋萎縮・麻痺が進行するが、眼球運動、膀胱直腸障害、感覚障害、褥瘡もみられにくい(4大陰性徴候)。終末期には、眼球運動と眼瞼運動の2つを用いたコミュニケーション手段が利用される。

(※参考:「2 筋萎縮性側索硬化症」厚生労働省様HPより)

1.〇 病的反射(Babinski反射など)は、出現する。なぜなら、上位運動ニューロン障害(錐体路障害)を伴うため。したがって、反射亢進や病的反射がみられる。
・上位運動ニューロンとは、大脳皮質から内包、脳幹、脊髄を経て脊髄前角細胞に至る経路のことである。
・下位運動ニューロンとは、脊髄前角細胞から末梢部で筋に至るまでの経路のことである。

2.〇 嚥下障害は、出現する。なぜなら、延髄の運動ニューロン(舌咽神経・迷走神経・舌下神経など)が障害されるため。構音障害や嚥下障害が出現する(球麻痺)。

3.△ 感覚障害は、筋萎縮性側索硬化症でみられにくい(4大陰性徴候)。※選択肢の中では、陰性徴候であるため最も優先し選択できるが、「みられないものは?」と断定して問いていいものかは疑問である。筋萎縮性側索硬化症は、「運動ニューロン疾患」であり、感覚を司る後索や脊髄後根、視床・大脳皮質の感覚領域は障害されない。ただし、終末期に合併する別の要因(廃用性変化など)で軽度の感覚異常を訴える例もある。

4.〇 呼吸障害は、出現する
なぜなら、進行により横隔膜や肋間筋など呼吸筋が障害され、換気不全を起こすため。

球麻痺とは?

延髄にある神経核が障害された状態を指し、舌咽・迷走・舌下神経が障害される。

したがって、嚥下・構音障害、舌萎縮、線維束攣縮などがみられる。

 

 

 

 

 

問題60.化膿性脊椎炎で正しいのはどれか。

1.頚椎ではまれである。
2.小児に多い。
3.流注膿瘍が合併する。
4.疼痛は軽度である。

解答

解説

化膿性脊椎炎とは?

化膿性脊椎炎とは、背骨の骨やその間にある組織に細菌が入り込み、うみがたまって炎症を起こす病気である。高熱や強い背中の痛みが特徴で、動くと痛みが増すことが多い。原因は血液を通じて細菌が広がる場合が多く、早めの抗菌薬治療が大切である。

1.〇 正しい。頚椎ではまれである。なぜなら、化膿性脊椎炎は血行性感染が主因であり、血流の豊富な胸椎・腰椎に好発するため。

2.× 「小児」ではなく高齢者(50〜70歳)に多い。なぜなら、主なリスク因子は免疫低下(糖尿病・慢性腎不全・免疫不全など)であるため。

3.× 流注膿瘍が合併するのは、「脊椎カリエス(結核性脊椎炎)」である。なぜなら、結核菌感染では慢性的に膿瘍が形成され、筋肉間を伝って遠隔部にまで及ぶため(流注膿瘍)。一方、化膿性脊椎炎は急性経過で、膿瘍はあっても限局性(硬膜外膿瘍など)が多い。
・脊椎カリエスとは、一種の骨関節感染症で、結核性脊椎炎ともいう。結核菌が脊椎へ感染した病気である。
・流注膿瘍とは、腰椎カリエスの膿瘍において、重力により組織間隙を伝わって遠隔部に膿瘍を形成することである(※読み:りゅうちゅうのうよう)。

4.× 一概に、疼痛は軽度である「とはいえない」。むしろ、疼痛は強いことが多い。なぜなら、感染により椎体・椎間板が破壊され、神経や周囲組織を刺激するため。したがって、安静時も持続する強い痛みが特徴である(鎮痛薬で改善しにくく、夜間痛を伴うことも多い)。

 

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