第25回(H29年)はり師きゅう師国家試験 解説【午前61~65】

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問題61 肺癌患者にみられる所見と浸潤部位の組合せで正しいのはどれか。

1.嗄声:交感神経
2.顔面浮腫:上大静脈
3.固縮:反回神経
4.腰痛:横隔神経

解答

解説
1.× 嗄声は、「交感神経」ではなく反回神経の浸潤で起こる。嗄声とは、声帯を振動させて声を出すとき、声帯に異常が起こり「かすれた声」になっている状態である。嗄声の原因は、①声帯自体に問題がある場合と、②声帯を動かす神経に問題がある場合がある。反回神経は、運動神経、知覚神経を含む混合神経で声帯や嚥下機能を司っている。前枝は喉頭粘膜、声帯裂、甲状披裂筋、外側輪状披裂筋に分布する。後枝は後輪状披裂筋、横披裂筋、斜披裂筋に分布する。喉から胸にかけて走行する。反回神経の枝は喉頭や声帯に分布し、障害により嗄声を生じる。反回神経は、右が鎖骨下動脈を、左が大動脈弓を前方から後方へ回り、この周囲に癌が浸潤することで嗄声が生じる。

2.〇 正しい。顔面浮腫は、上大静脈の浸潤で起こる。上大静脈への圧迫または浸潤を呈した場合、上大静脈症候群という。上大静脈症候群とは、上大静脈への圧迫または浸潤に起因し、頭痛または頭部充満感、顔面または上肢の腫脹、仰臥位での息切れ、頸、顔、および体幹上部の静脈怒張、ならびに顔面および体幹の紅潮(多血)を引き起こす。

3.× 固縮は、「反回神経の浸潤」ではなくパーキンソン病症状である。パーキンソン病とは、黒質のドパミン神経細胞の変性を主体とする進行性変成疾患である。4大症状として①安静時振戦、②筋強剛(筋固縮)、③無動・寡動、④姿勢反射障害を特徴とする。また、自律神経障害による便秘や起立性低血圧、排尿障害、レム睡眠行動障害などが起こる。レム睡眠行動障害とは、レム睡眠の時期に体が動き出してしまう睡眠障害の1つである。 睡眠時随伴症に分類される。

4.× 横隔神経の浸潤により、「腰痛」ではなく呼吸障害が起こる。なぜなら、横隔神経は横隔膜の運動を支配するため。横隔神経への浸潤による横隔膜麻痺に起因する呼吸困難および低酸素症を引き起こすことがある。

 

 

 

 

 

問題62 歯周病の増悪因子でないのはどれか。

1.喫煙
2.舌炎
3.妊娠
4.糖尿病

解答

解説

歯周病とは?

歯周病とは、歯と歯ぐき(歯肉)のすきま(歯周ポケット)から侵入した細菌が、歯肉に炎症を引き起こし、さらには歯を支える骨(歯槽骨)を溶かしてグラグラにさせてしまう病気である。プラーク(歯垢)を除去するには、毎日の歯みがきが重要である。よく磨いたつもりでも、歯と歯の間は磨き残しが多く、大部分にプラークが残っている。これらのプラーク(歯垢)を除去するためには、ハブラシに加えて、歯間クリーナー(歯間ブラシやデンタルフロス)の使用が効果的と言われている。

1.〇 正しい。喫煙は、歯周病の増悪因子である。なぜなら、タバコの成分が歯周組織の免疫反応を抑制し、歯周組織の回復を妨げるため。たばこは、肺がんをはじめとして喉頭がん、口腔・咽頭がん、食道がん、胃がん、膀胱がん、腎盂・尿管がん、膵がんなど多くのがんや、虚血性心疾患、脳血管疾患、慢性閉塞性肺疾患、歯周疾患など多くの疾患、低出生体重児や流・早産など妊娠に関連した異常の危険因子である。喫煙者の多くは、たばこの害を十分に認識しないまま、未成年のうちに喫煙を開始しているが、未成年期に喫煙を開始した者では、成人になってから喫煙を開始した者に比べて、これらの疾患の危険性はより大きい。さらに、本人の喫煙のみならず、周囲の喫煙者のたばこ煙による受動喫煙も、肺がんや虚血性心疾患、呼吸器疾患、乳幼児突然死症候群などの危険因子である。また、たばこに含まれるニコチンには依存性があり、自分の意志だけでは、やめたくてもやめられないことが多い。しかし、禁煙に成功すれば、喫煙を継続した場合に比べて、これらの疾患の危険性は減少する(※一部引用:「たばこ」厚生労働省HPより)。

2.× 舌炎は、歯周病の増悪因子でない。舌炎は、舌の炎症のことで、一般的な原因として、ビタミン不足や感染症などがあげられる。

3.〇 正しい。妊娠は、歯周病の増悪因子である。なぜなら、妊娠中はホルモンバランスの変化により歯周組織が炎症を起こしやすいため。特にプロゲステロンの増加により、歯肉が腫れやすくなる。

4.〇 正しい。糖尿病は、歯周病の増悪因子である。なぜなら、糖尿病患者は高血糖の影響で免疫機能が低下し、歯周病が進行しやすく、治りにくくなるため。

 

 

 

 

 

問題63 汎血球減少症をきたすのはどれか。

1.腎性貧血
2.溶血性貧血
3.鉄欠乏性貧血
4.再生不良性貧血

解答

解説

汎血球減少とは?

汎血球減少(※読み:はんけっきゅうげんしょう)とは、血液中の赤血球、白血球、血小板のすべての血中細胞成分が全体的に減少する症候である。ヘモグロビン:男12.0g/dL未満、女 11.0g/dL未満、白血球:4000/μL未満、血小板:10万/μL未満を指す。 骨髄穿刺所見では、有核細胞数の減少、特に巨核球の減少とリンパ球比率の増加が特徴的である。血球の形態には、異形成を認めない。(※参考:「重篤副作用疾患別対応マニュアル」厚生労働省様)

1.× 腎性貧血とは、腎臓病が原因で起こる貧血のことである。主にエリスロポエチンの欠乏または、エリスロポエチンに対する反応性の低下より、赤血球を産生能力が低下する。

2.× 溶血性貧血とは、血管の中を流れる赤血球が破壊される(溶血)ことにより起こる貧血の一種である。これにより、血液中の赤血球の数が減少し、貧血状態になる。溶血性貧血は、血液中のビリルビン(赤血球の分解産物)の量が増加することで黄疸となる。

3.× 鉄欠乏性貧血とは、体内に流れている赤血球に多く含まれるヘモグロビンと鉄分が欠乏する事により、酸素の運搬能力が低下し全身に十分な酸素が供給されず倦怠感や動悸、息切れなどの症状がみられる貧血の種類の中でも最も多く特に女性に多い疾患である。原因としては、栄養の偏りなどによる鉄分の摂取不足、消化性潰瘍やがん、痔などの慢性出血による鉄の喪失、腸管からの鉄吸収阻害などがあげられる。

4.〇 正しい。再生不良性貧血は、汎血球減少症をきたす。再生不良性貧血とは、骨髄の造血幹細胞の減少と、それによる末梢血の汎血球減少を主徴とする症候群で、骨髄で血液が造られないために血液中 の赤血球、白血球、血小板のすべての血球が減ってしまう病気である。白血球(Tリンパ球)の働きが何らかの原因で異常をきたし、自分自身の造血幹細胞を攻撃して壊してしまうことが原因と考えられている。医療費助成の対象となる疾患は、300以上あるため、以前にも出題された病気を中心に覚えていく。このほかにも、パーキンソン病、全身性エリテマトーデス、潰瘍性大腸炎などが指定されている。

 

 

 

 

 

問題64 成人の気管支喘息について正しいのはどれか。

1.患者数は減少傾向にある。
2.症状は昼間に起こりやすい。
3.治療は吸入ステロイド薬が中心である。
4.治療率は50%である。

解答

解説

気管支喘息とは?

【症状】
喘鳴、呼吸困難、呼気延長など(1秒率の低下)、アレルギー反応やウイルス感染が誘引となる。

【治療】気道の炎症を抑えて、発作が起きない状態にする。発作を繰り返すと、気道の粘膜が徐々に厚くなり、狭くなった気道が元に戻らなくなるため治療が難しくなる。そのため、日頃から気道の炎症を抑える治療を行い、喘息をコントロールすることが重要である。

1.× 患者数は、「減少」ではなく増加傾向にある。なぜなら、家屋構造の変化によるアレルゲンの増加、排気ガスや工場排煙などによる大気汚染、食品や住宅建材などの化学物質、長時間勤務による過労やストレスが増えたこと、清潔すぎる環境(衛生仮説)などが要因としてあげられるため。

2.× 症状は、「昼間」ではなく夜間・早朝に起こりやすい。なぜなら、特定のトリガー(例えば、運動、冷たい空気、アレルゲン)によって引き起こされるため。したがって、夜間、特に早朝悪くなることが多く、日中は症状が良くなることが多い。また、風邪をひくと発作が起こりやすくなる。

3.〇 正しい。治療は吸入ステロイド薬が中心である。気道の炎症を抑えて、発作が起きない状態にする。発作を繰り返すと、気道の粘膜が徐々に厚くなり、狭くなった気道が元に戻らなくなるため治療が難しくなる。そのため、日頃から気道の炎症を抑える治療を行い、喘息をコントロールすることが重要である。

4.× 治療率は、「50%」ではなく、標準治療で症状がコントロールできるのが90%、残りの10%は難治性である。ちなみに、治療率とは、がん患者に対し便宜上用いられることが多く、5年生存率のことをいう。

 

 

 

 

 

問題65 肺抗酸菌症について正しいのはどれか。

1.結核患者は届け出る必要はない。
2.咳が4週間以上持続している場合は肺結核を考慮する。
3.抗結核薬は1剤を投与する。
4.非結核性抗酸菌症も結核と同様に隔離する必要がある。

解答

解説

肺抗酸菌症とは?

肺抗酸菌症とは、結核菌以外の抗酸菌が肺に感染して起こる呼吸器感染症である。非結核性抗酸菌症とも呼ばれる。

1.× 結核患者は届け出る必要「がある」。なぜなら、肺結核は2類感染症に分類されているため。
【保健所への届出期間】
1~3類感染症:診断後ただちに届け出を行う。
4類感染症:原則、診断後7日以内に届け出を行う。
5類感染症(全数把握):原則、診断後7日以内に届け出を行う。
5類感染症(定点把握):次の月曜日まで、または翌月初日まで。

2.〇 正しい。咳が4週間以上持続している場合は肺結核を考慮する。肺結核とは、結核菌による感染症で、体の色々な臓器に起こることがあるが多くは肺のことである。結核菌は、喀痰の中に菌が出ている肺結核の患者と密閉空間で長時間(一般的には数週間以上)接触することにより空気感染でうつる。リンパ節結核や脊椎カリエス(骨の結核)など、肺に病気のない結核患者からはうつらない。また肺結核でも、治療がうまくいって喀痰の中に菌が出ていない患者さんからはうつることはない。また、たとえ感染しても、発病するのはそのうち1割ぐらいといわれており、残りの9割の人は生涯何ごともなく終わる。感染してからすぐに発病することもあるが、時には感染した後に体の免疫が働いていったん治癒し、その後数ヶ月から数十年を経て、免疫が弱ったときに再び結核菌が増えて発病することもある。結核の症状には、咳、痰、血痰、熱、息苦しさ、体のだるさなどがある。

3.× 抗結核薬は、「1剤」ではなく複剤を投与する。治療は抗結核薬の多剤併用療法(3~4種類)が基本となり、治療期間は約6カ月である。2ヶ月治療したら2種類の治療薬に減ることが多い。

4.× 非結核性抗酸菌症も結核と同様に隔離する「必要はない」。なぜなら、非結核性抗酸菌症は、一般的にヒトからヒトへの感染はほとんどないため。非結核性抗酸菌とは、細菌の1グループである抗酸菌のうち、結核菌とらい菌以外の菌のことをいう。非結核性抗酸菌による肺感染症のことを肺非結核性抗酸菌症という。多くの人が日常的に菌を吸い込んでおり通常は病気になることはないが、一部の人で肺に定着して肺非結核性抗酸菌症を発症する。その原因は不明である。結核とは異なり、人から人への感染は基本的に起きない。症状は、長引く咳・痰・血痰・喀血・体重減少である。現在、日本は、増加傾向で、特に中高年のやせ型の女性に多くみられる。(※参考:「非結核性抗酸菌(NTM)症とは」近畿中央呼吸器センター 診療部様HPより)

 

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