問題166 鍼刺激後に生じる有害事象で、失神の原因として最も考えられるのはどれか。
1.違和感覚
2.気胸
3.低血糖
4.脳貧血
解答4
解説
有害事象とは、あらゆる好ましくない・あるいは意図しない徴候や症状を示す。いわゆる薬の副作用であることを薬の有害事象と呼ぶことがある。治験薬や医薬品などの薬物を投与された被験者・患者に生じる、薬物の投与と時間的に関連した、好ましくないまたは意図しないあらゆる医療上の事柄のことである。
1.× 違和感覚は、鍼が刺入された部位やその周囲に感じる、しびれ、ピリピリ感、重い感じ、ズーンとした感じといった感覚の異常である。
2.× 気胸は、気胸は胸部(特に背部や胸部の上部)への刺鍼によって肺に穴が開き、肺を覆う胸膜腔に空気が貯留する病態である。症状として、呼吸困難、胸痛、咳、チアノーゼなどを引き起こす。
3.× 低血糖は、主に糖尿病に起こり、血糖値が正常値よりも著しく低下した状態であり、めまい、冷や汗、動悸、手足の震えといった症状を経て、意識障害や失神を引き起こすことがある。ただし、鍼刺激そのものが直接的に血糖値を低下させて低血糖を引き起こすことは考えにくい。
4.〇 正しい。脳貧血は、鍼刺激後に生じる有害事象で、失神の原因として最も考えられる。脳貧血(脳虚血)の原因は、精神的緊張や不安状態がある患者への座位・立位での刺鍼、全身状態の良くない患者への粗暴な施術、などである。症状として、顔面蒼白、冷や汗、悪心・嘔吐、血圧低下、失神などがあげられる。処置として、仰臥位で頭を低くして安静にさせる、返し鍼(合谷、足三里などの四肢末端に近い部位への刺鍼)、などがあげられる。
問題167 副腎髄質の受容体で、刺鍼により交感神経節前線維から遊離されるアセチルコリンが結合するのはどれか。
1.α受容体
2.β受容体
3.ニコチン受容体
4.ムスカリン受容体
解答3
解説
・α1作用:主に血管収縮
・α2作用:ノルアドレナリン放出抑制によるネガティブフィードバック
・β1作用:心臓の陽性変性作用
・β2作用:血管、気管支の弛緩
1.× α受容体とは、神経伝達物質であるアドレナリンを受容するタンパク質の1つである。主に、平滑筋に存在するα1受容体(血管収縮、瞳孔散大、皮膚立毛など)と、中枢神経に存在するα2受容体(α1受容体の拮抗的な作用)に大別される。
2.× β受容体とは、カテコラミンの作用を発現するための受容体の1つであり、主に、平滑筋の弛緩や、心筋収縮を行っている。
3.〇 正しい。ニコチン受容体は、副腎髄質の受容体で、刺鍼により交感神経節前線維から遊離されるアセチルコリンが結合する。
・ニコチン受容体は、アセチルコリン受容体の1種である。ニコチン性アセチルコリン受容体(ニコチン受容体)に作用してアセチルコリンと同様の効果をしめす。
4.× ムスカリン受容体には、①イオンチャネル型のニコチン受容体と②代謝型受容体であるムスカリン受容体がある。副交感神経性の反応に関与している。
問題168 青班核からニューロンが放出する物質で、脊髄後角において侵害受容体情報を阻害するのはどれか。
1.グルタミン酸
2.ノルアドレナリン
3.エンケファリン
4.βエンドルフィン
解答2
解説
青斑核とは、脳幹にあり、覚醒、注意、情動に関与する。
1.× グルタミン酸は、温熱刺激情報を二次ニューロンへ伝達する。グルタミン酸は、非必須アミノ酸の1つで、体内ではアラニン、アスパラギン酸、セリンをつくる際に必要なアミノ酸である。また、グルタミン酸はグルタチオンやガンマアミノ酪酸(GABA)の原料となる。脳内ではアンモニアと結合し、グルタミンとしてアンモニアを無毒化する。
2.〇 正しい。ノルアドレナリンは、青班核からニューロンが放出する物質で、脊髄後角において侵害受容体情報を阻害する。
・ノルアドレナリンとは、激しい感情や強い肉体作業などで人体がストレスを感じたときに、交感神経の情報伝達物質として放出されたり、副腎髄質からホルモンとして放出される物質である。ノルアドレナリンが交感神経の情報伝達物質として放出されると、交感神経の活動が高まり、その結果、血圧が上昇したり心拍数が上がったりして、体を活動に適した状態となる。副腎髄質ホルモンとして放出されると、主に血圧上昇と基礎代謝率の増加をもたらす。副腎髄質から分泌されるホルモンは、①アドレナリン、②ノルアドレナリン、③ドーパミンがあり、これらを総称してカテコールアミンという。
3.× エンケファリンは、内因性オピオイドのひとつである。ちなみに、内因性オピオイドとは、体内で作られ、生理的な状況や危機が迫ったときに放出される物質され、脳や脊髄に存在するオピオイド受容体に作用し、鎮痛作用をもたらす。主に、エンドルフィン、エンケファリン、ダイノルフィン、エンドモルフィンなどあげられる。また、痛みによる不快な感覚の抑制、下降性抑制神経系の賦活化、恐怖という情動の抑制、脳内報酬系における重要な伝達物質でもある。
4.× βエンドルフィンは、主に視床下部や下垂体で合成される内因性オピオイドである。主に視床下部や下垂体に多く含まれる。
内因性オピオイドは、体内で作られ、生理的な状況や危機が迫ったときに放出される物質され、脳や脊髄に存在するオピオイド受容体に作用し、鎮痛作用をもたらす。主に、エンドルフィン、エンケファリン、ダイノルフィン、エンドモルフィンなどあげられる。また、痛みによる不快な感覚の抑制、下降性抑制神経系の賦活化、恐怖という情動の抑制、脳内報酬系における重要な伝達物質でもある。
問題169 下行性抑制系について最も適切なのはどれか。
1.侵害受容ニューロンの興奮により賦活する。
2.中脳水道周囲灰白質のGABA作動性ニューロンの興奮により賦活する。
3.脊髄前側索を下行する。
4.ヒスタミンが関与する。
解答1
解説
鎮痛作用とは、内因性モルヒネ様物質、下行性抑制系などによる鎮痛をあたえるものを指す。
1.〇 正しい。侵害受容ニューロンの興奮により賦活する。なぜなら、下行性疼痛抑制系は、体が痛みを感じたときに、その痛みを和らげようとする生体防御システムであるため。痛みの刺激は、体の末梢にある侵害受容体(痛みのセンサー)を興奮させ、その情報が侵害受容ニューロンを通って脊髄へと送られる。この痛みの情報が脊髄から脳に伝達される過程で、脳内の特定の中枢(例えば、中脳水道周囲灰白質など)が痛みの情報を感知し、その情報によって下行性疼痛抑制系が活性化(賦活)される。
2.× 中脳水道周囲灰白質のGABA作動性ニューロンの興奮を賦活ではなく「抑制する」。なぜなら、中脳水道周囲灰白質は、下行性抑制系の出力ニューロンを抑制するGABA作動性の介在ニューロンが存在しているため。
・水道周囲灰白質とは、中脳水道の周囲に広がる細胞集団で、大脳辺縁系や視床下部などから情動やそれに伴う自律神経性の入力を、脳幹や脊髄からは感覚性入力を受け、これらの情報を統合して、適切な行動や自律神経系活動の発現に関与する。
3.× 脊髄「前側索」ではなく後側索を下行する。
・脊髄前側索は、痛覚の二次性ニューロンが上行する。外側脊髄視床路(温痛覚・粗大触圧覚)は、感覚神経→脊髄後角→(交叉)→脊髄側索→視床→後脚→大脳皮質体性知覚野の経路をたどる。
4.× ヒスタミンは「関与しない」。
・ヒスタミンとは、酸素が不足すると細胞から放出される「発痛物質」の1つである。また、アレルギー様症状を呈する化学物質である。組織周辺の肥満細胞や血中の好塩基球がアレルギー反応の際に分泌される。血圧降下血管透過性亢進、血管拡張作用がある。
ケミカルメディエーターとは、化学伝達物質ともいい、細胞間の情報伝達に作用する化学物質のことである。肥満細胞が放出するケミカルメディエーターは、さまざまなアレルギー反応(血管透過性の亢進、血流の増加、炎症細胞の遊走など)を起こす。
【例】
・ヒスタミン
・ロイコトリエン
・トロンボキサン
・血症板活性化因子
・セロトニン
・ヘパリンなど。
問題170 刺鍼により痛みの悪循環を最も改善させるのはどれか。
1.α運動ニューロンの興奮
2.NOによる血管拡張
3.プロスタグランジンの産生促進
4.交感神経の興奮
解答2
解説
「痛みの悪循環」とは、痛みが生じると、それによって筋肉が緊張し、血行が悪くなり、その結果、発痛物質や疲労物質が蓄積され、さらに痛みが強まるという、痛みと筋緊張、血行不良の負の連鎖のことである。鍼治療は、この悪循環の様々な要素に作用することで、痛みを和らげると考えられている。
1.× α運動ニューロンの興奮より優先されるものが他にある。なぜなら、α運動ニューロンは脳や脊髄からの指令を受けて骨格筋を収縮させる神経であるため。したがって、α運動ニューロンの興奮は筋肉の緊張を高める方向に働く。
2.〇 正しい。NOによる血管拡張は、刺鍼により痛みの悪循環を最も改善させる。なぜなら、NOは、鍼刺激による皮膚の血流増加に関係するため。NOによる血管拡張により、鍼刺激部位とその周囲の血行を改善し、痛みの原因となる発痛物質や炎症物質、疲労物質などを速やかに運び去るとともに、組織への酸素供給を増加させることができる。
・NOとは、一酸化窒素のことで、窒素(N)と酸素(O)が結合した物質である。常温では無色・無臭の気体で、水に溶けにくく、空気よりやや重い。血管の内皮細胞から放出される物質で、血管を拡張してしなやかにして、血圧を安定させる働きを持つ。
3.× プロスタグランジンの産生促進は、炎症や痛みを引き起こす生理活性物質の一つである。したがって、産生が促進されると痛みが強まる。
・一般的に、プロスタグランジンとは、細菌感染による急性炎症反応で増加する。プロスタグランジンは、①血管拡張、②気管支平滑筋収縮、③急性炎症時の起炎物質で発痛作用がある。非ステロイド性抗炎症薬<NSAIDs>は、炎症などを引き起こすプロスタグランジンの生成を抑え、抗炎症作用や解熱、鎮痛に働く。副作用として、消化器症状(腹痛、吐き気、食欲不振、消化性潰瘍)、ぜんそく発作、腎機能障害が認められる。したがって、非ステロイド性抗炎症薬が効果的であるのは、侵害受容性疼痛である。
4.× 交感神経の興奮は、血管を収縮させたり、筋緊張を高めたりする作用を持つ。したがって、交感神経の過度な興奮は血行不良や筋緊張亢進を招き、痛みの悪循環をさらに助長する可能性がある。