第27回(H31年)柔道整復師国家試験 解説【午後21~25】

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問題21 45歳の男性。高所からの転落で頸髄損傷を受傷した。職業はパソコン操作によるデスクワークだが、自家用車での通勤が必要である。
 改造自動車を用いた運転が可能な損傷レベルはどれか。

1.第4頸髄節残存
2.第5頸髄節残存
3.第6頸髄節残存
4.第7頸髄節残存

答え.4

解説

(※引用:Zancolli E : Functional restoration of the upper limbs in traumatic quadriplegia. in Structural and Dynamic Basis of Hand Surgery. 2nd ed, Lippincott, Philadelphia, p229-262, 1979)

1.× 第4頸髄節残存
第4頸髄節の運動機能は、吸気・肩甲骨挙上が可能である。また、横隔膜の動きは障害されていないため、自発呼吸が行える。したがって、人工呼吸器は不必要である。移動は、下顎などを用いて電動車いす(チンコントロール電動車椅子の適応)を操作する必要がある。

2.× 第5頸髄節残存
第5頸髄節の運動機能は、肩関節:屈曲・伸展、外転、内外旋、肘関節:屈曲・回外が行える。そのため、ハンドリムに工夫を行うことによって平地自走は可能である。ただし、プッシュアップ動作はできないため、平地では車椅子や電動車椅子を使用する。

3.× 第6頸髄節残存
第6頸髄節の運動機能は、手関節背屈が可能である。したがって、手関節背屈による把持作用をテノデーシスアクション(腱固定作用)が可能である。肩関節の動作は保たれ、肘関節は屈曲のみ可能で、上腕三頭筋による肘関節伸展動作はできない。トランスファーボードの利用などにより移乗ができ更衣・整容・食事も自助具を使用し自立可能である。

4.〇 正しい。第7頸髄節残存は、改造自動車を用いた運転が可能な損傷レベルである。
第7頸髄節の運動機能は、上腕三頭筋と橈側手根屈筋まで可能である。移動は車椅子駆動で、自動車の運転も可能となる。プッシュアップとベッドの側方移動が可能となり、車椅子にて日常生活のほとんどが自立まで至る。

 

 

 

 

 

問題22 関節の屈曲と頭部前屈による前かがみ姿勢を特徴とするのはどれか。

1.破傷風
2.被殻出血
3.クッシング(Cushing)病
4.パーキンソン(Parkinson)病

答え.4

解説
1.× 破傷風
破傷風とは、破傷風菌により発生し、主に傷口に菌が入り込んで感染を起こし毒素を通して、さまざまな神経に作用する。感染して3日から3週間からの症状のない期間があった後、口を開けにくい、首筋が張る、体が痛いなどの症状があらわれる。その後、体のしびれや痛みが体全体に広がり、全身を弓なりに反らせる姿勢(後弓反張姿勢)や呼吸困難が現れたのちに死亡する。

2.× 被殻出血
被殻とは、大脳の中央部に左右1対あり、身体の運動調節や筋緊張、学習や記憶などの役割を持っている。したがって、被殻出血とは、頭痛や麻痺(片麻痺や顔面神経麻痺)、病側の共同偏視、優位半球障害時に運動失語、劣位半球障害時に失行・失認などがみられる。

3.× クッシング(Cushing)病
クッシング症候群は、副腎皮質ホルモンであるコルチゾールの過剰分泌により起こる内分泌系疾患である。満月様顔貌や中心性肥満などの特徴的な症状を呈する。主に、副腎腺腫、副腎癌、副腎過形成、ACTH産生下垂体腺腫などによりコルチゾールの過剰分泌が起こる。したがって、副腎皮質ホルモンであるコルチゾールと同様の働きをもつ副腎皮質ステロイド薬の副作用にも見られる。副腎皮質ステロイドの副作用は、易感染、中心性肥満、満月様顔貌、高血糖、筋萎縮、赤色皮膚線条、多毛症、精神症状などがみられる。

4.〇 正しい。パーキンソン(Parkinson)病は、関節の屈曲と頭部前屈による前かがみ姿勢を特徴とする。
パーキンソン病とは、黒質のドパミン神経細胞の変性を主体とする進行性変成疾患である。4大症状として①安静時振戦、②筋強剛(筋固縮)、③無動・寡動、④姿勢反射障害を特徴とする。また、自律神経障害による便秘や起立性低血圧、排尿障害、レム睡眠行動障害などが起こる。レム睡眠行動障害とは、レム睡眠の時期に体が動き出してしまう睡眠障害の1つである。 睡眠時随伴症に分類される。

マン・ウェルニッケ姿勢とは、

マン・ウェルニッケ姿勢とは、Wernicke-Mann肢位(ウェルニッケマン肢位)ともいい、大脳皮質から大脳脚の間(脳幹より上位)で運動制御系が片側性に障害されたときに、病巣の対側上肢が屈曲位、下肢が伸展位を呈する肢位のことをいう。脳血管障害の後遺症としてしばしば認められる。

【上肢】肩関節内旋・内転位、肘関節屈曲位、手関節掌屈位、手指屈曲位

【下肢】股関節伸展・内旋・内転位、膝関節伸展位、足関節内反尖足位

 

 

 

 

 

問題23 栄養状態で正しいのはどれか。

1.肥満はBMI25以上である。
2.標準体重は身長×身長×23である。
3.悪体質は極端にやせが進行した状態である。
4.肥満度は(実測体重-標準体重)÷実測体重×100である。

答え.1

解説
1.〇 正しい。肥満はBMI25以上である
BMIとは、体重(㎏) ÷ 身長の2乗(m) で計算される体格指数のことである。日本肥満学会の基準では、18.5以下:低体重、25以下:普通、30以下:肥満Ⅰ度、35以下:肥満Ⅱ度、40以下:肥満Ⅲ度、40以上:肥満Ⅳ度である。

2.× 標準体重は身長×身長×「23」ではなく22である。
標準体重とは、BMIを22としたときの体重のことである。したがって、計算方法は、[身長(m)]2 × 22である。

3.× 「悪体質」ではなく悪液質が極端にやせが進行した状態である。
悪液質とは、全身衰弱を起こした状態で、脱水により皮膚は乾燥し、眼窩・頬のくぼみなどを認め、癌や肺結核の末期に生じることが多い。

4.× 肥満度は(実測体重-標準体重)÷「実測体重」ではなく標準体重×100である。

 

 

 

 

 

問題24 意識状態で皮膚をつれるなどの強い刺激のみに少し反応するのはどれか。

1.傾眠
2.昏睡
3.昏迷
4.せん妄

答え.3

解説

意識レベルの明瞭度

①明識困難状態とは、ごく軽い意識混濁。外界の認知は保たれているが、正常よりやや不活発でぼんやりしている。
②昏蒙とは、軽度の意識混濁。覚醒はしているが、精神活動は浅い眠りに近い状態。外界の認知に混乱が生じ、見当識が障害される。
③傾眠とは、放置すれば眠りに落ちてしまうような状態。刺激されれば容易に覚醒し、短時間なら合目的的な行動もできる。
④嗜眠とは、傾眠よりやや強い意識混濁。強く刺激すれば覚醒し、食事のような合目的的行動も可能。
⑤昏迷とは、中等度の意識混濁。閉眼、横臥し、強い刺激をしなければ覚醒しない。眼球運動も少なくなり失禁がみられる。強い刺激に反応しても発語ははっきりしない。見当識は失われ、健忘が残る。
⑥昏睡とは、重篤な意識混濁。強い刺激に対してもほとんど反応がない。自発運動はなく、深部腱反射・対光反射なども減弱ないし消失する。筋緊張が緩み、失禁状態となる。除脳硬直が起こることもある。呼吸、循環、体温調節などの植物機能にも変化が起こる。

1.× 傾眠
傾眠とは、意識障害(意識混濁)の程度の一つで、声かけや肩を叩くなど、外部からの軽い刺激で目を覚ます状態である。したがって、外からの刺激がない状態で放っておくと眠ってしまう。

2.× 昏睡
昏睡とは、意識障害(意識混濁)の程度の一つで、覚醒させることができず、閉眼した状態が続く無反応状態である。

3.〇 正しい。昏迷は、意識状態で皮膚をつれるなどの強い刺激のみに少し反応する。
昏迷とは、大声での呼びかけや、体を揺するなどの強い刺激に対して反応する状態である。

4.× せん妄
せん妄とは、疾患や全身疾患・外因性物質などによって出現する軽度~中等度の意識障害であり、睡眠障害や興奮・幻覚などが加わった状態をいう。高齢者は薬剤によってせん妄が引き起こされる場合も多い。

せん妄とは?

せん妄とは、疾患や全身疾患・外因性物質などによって出現する軽度~中等度の意識障害であり、睡眠障害や興奮・幻覚などが加わった状態をいう。高齢者は薬剤によってせん妄が引き起こされる場合も多い。
【原因】脳疾患、心疾患、脱水、感染症、手術などに伴って起こることが多い。他にも、心理的因子、薬物、環境にも起因する。

【症状】
①意識がぼんやりする。
②その場にそぐわない行動をする。
③夜間に起こることが多い。 (夜間せん妄)
④通常は数日から1週間でよくなる。

【主な予防方法】
①術前の十分な説明や家族との面会などで手術の不安を取り除く。
②昼間の働きかけを多くし、睡眠・覚醒リズムの調整をする。
③術後早期からの離床を促し、リハビリテーションを行う。

 

 

 

 

 

問題25 不随意運動で誤っている組合せはどれか。

1.脳性麻痺:手関節のアテトーゼ
2.重症な肝疾患:羽ばたくような振戦
3.甲状腺機能低下症:振幅の小さな手指の振戦
4.ハンチントン(Huntington)病:踊るような動作

答え.3

解説
1.〇 正しい。脳性麻痺:手関節のアテトーゼ
脳性麻痺とは、お腹の中にいる間から、生後4週間までの間に発生した脳への損傷によって引き起こされる運動機能の障害を指す。失調型やアテトーゼ型などのタイプがある。アテトーゼとは、顔や手足をゆっくりと動かしてしまうものである。身体が突っ張ったり捻じれたりするジストニア、顔や手足をゆっくりと動かしてしまうアテトーゼ、踊るように身体を振ってしまう舞踏運動、上肢や下肢をいきなり大きく振り回してしまうバリズムなどがある。

2.〇 正しい。重症な肝疾患:羽ばたくような振戦
肝不全や肝性脳症などの重症な肝疾患は、羽ばたき振戦がみられる。羽ばたき振戦とは、手関節を背屈させたまま手指と上肢を伸展させ、その姿勢を保持するように指示すると、「手関節及び中指関節が急激に掌屈し、同時に、元の位置に戻そうとして背屈する運動」が認められる。手関節や手指が速くゆれ、羽ばたいているようにみえるので、このように呼ばれる。肝性脳症やウィルソン病、呼吸不全(CO2ナルコーシス)など代謝性神経疾患で出現する。肝性脳症とは、重度の肝疾患がある人において、正常なら肝臓で除去されるはずの有害物質が血液中に蓄積して脳に達することで、脳機能が低下する病気である。長期にわたる(慢性の)肝疾患がある患者に発生する。 原因として、消化管での出血、感染症、処方薬を正しく服用しないこと、その他のストレスによって誘発される。正常な肝なら代謝されるはずの有害物質(アンモニアなど)が脳に達することによって生じる。肝性脳症は多くの場合、治療により予後良好である。主に、①ラクツロース、②抗菌薬が用いられる。①合成糖であるラクツロースは、下剤として作用し、食物が腸を通過する速度を速めることで、体に吸収されるアンモニアの量が減少させる。②口から投与しても腸から吸収されない抗菌薬(リファキシミンなど)を処方することにより、腸に残り、消化中に毒素を作り出す細菌の数を減らす効果が期待できる。(※参考「肝性脳症」MSDマニュアル家庭版)

3.× 振幅の小さな手指の振戦は、「甲状腺機能低下症」ではなく甲状腺機能亢進症でみられる。
甲状腺ホルモンとは、サイロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(T3)があり、新陳代謝を調節しているため。脈拍数や体温、自律神経の働きを調節し、エネルギーの消費を一定に保つ働きがある。したがって、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の症状として、発汗や食欲亢進、体重減少、下痢、振戦、メルセブルグ3徴(眼球突出、甲状腺腫、頻脈)がみられる。放射線性ヨウ素内用療法は、バセドウ病(甲状腺機能亢進症)や甲状腺がんに対して行われる治療のひとつである。甲状腺機能亢進症では、放射性ヨウ素から放出されるベーター線で正常な甲状腺細胞を破壊し、甲状腺機能亢進症を改善させる。

4.〇 正しい。ハンチントン(Huntington)病:踊るような動作
舞踏運動とは、中枢神経の異常(錐体外路障害が原因)によって起こる不随意運動の一つである。手をチョコチョコと動かしたりすることが多い。代表疾患としては脳性麻痺、ハンチントン舞踏病(Huntington病)がある。

甲状腺機能低下症とは?

橋本病とは、甲状腺に炎症が引き起こされることによって徐々に甲状腺が破壊され、甲状腺ホルモンの分泌が低下していく病気のことである。慢性甲状腺炎とも呼ばれる。甲状腺機能低下症になると、全身の代謝が低下することによって、無気力、疲れやすさ、全身のむくみ、寒がり、体重増加、便秘、かすれ声などが生じる。

 

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