第32回(R6年)柔道整復師国家試験 解説【午後96~100】

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問題96 外傷性腕神経叢麻痺で正しいのはどれか。

1.上位型麻痺ではウエイターズチップポジションがみられる。
2.下位型では橈骨神経、筋皮神経が傷害される。
3.節後損傷は全型で多くみられる。
4.節前損傷は予後良好である。

解答

解説

(※図引用:日本整形外科学会様HPより)

腕神経叢麻痺とは?

腕神経叢とは、頚髄から分枝した神経が鎖骨や肋骨の間を通り、腋窩付近を走行する際に形成する神経の束のことである。腕神経叢麻痺は、腕神経叢の過伸展によって引き起こされることが多い。
・上位型:C5~6神経根
・下位型:C8~T1神経根
・全型:C5~T1神経根

1.〇 正しい。上位型麻痺ではウエイターズチップポジションがみられる。ウエイターズチップポジションとは、(waiter’s tip positionとは)、上位型麻痺の典型的な肢位で、肘関節伸展、前腕回内位、手関節屈曲位、手指屈曲位を示した肢位である。

2.× 下位型(C8~T1神経根)では「橈骨神経、筋皮神経」ではなく正中神経と尺骨神経が傷害される。ちなみに、橈骨神経はC8~T1神経根であるが、筋皮神経は、C5~6である。

3.× 全型で多くみられるのは、節後損傷ではなく節前損傷である。腕神経叢損傷は、①節前損傷と②節後損傷に大別される。節前損傷は、後根神経節より中枢での損傷で、神経根の引き抜き損傷のことである。したがって、節前損傷の機能回復は期待できない。一方、節後損傷は、後根神経節より末梢に発生した末梢神経障害であり、その損傷および術後の経過はSeddon分類に従う。節後損傷であればある適度の機能回復が期待できる。

4.× 予後良好であるのは、「節前損傷」ではなく節後損傷である。節前損傷の機能回復は期待できないが、節後損傷であればある適度の機能回復が期待できる。

 

 

 

 

 

問題97 仙腸関節の検査法はどれか。

1.WLR
2.Kemp
3.Newton
4.Bowstring

解答

解説
1.× WLRテスト(Well leg raising:神経伸長検査)は、腰部椎間板ヘルニアの検査である。SLR(下肢伸展挙上テスト)テストが陽性の場合、その反対側の「健側下肢に SLRテスト」を行って、患側下肢に誘発痛が認められるときは、腰椎椎間板ヘルニアの存在の可能性は極めて高い。

2.× Kempテスト(ケンプテスト)の陽性は、脊椎管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアを疑う。検者は患者の両肩に手を置き、患者の体幹を回旋しながら左右の斜め後方に伸展させる。

3.〇 正しい。Newtonは、仙腸関節の検査法である。ニュートンテスト(Newton test)は、仙腸関節炎を検査する。腹臥位で仙腸関節部を上から押して、仙腸関節の圧痛を確認する。

4.× Bowstringテスト(ボウストリング徴候)は、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症の検査である。SLR(下肢伸展挙上テスト)の後、検査者が患者の膝の裏側を圧迫する。痛みがある場合、腰椎椎間板ヘルニアの可能性がある。

 

 

 

 

 

問題98 リトルリーガー肩で正しいのはどれか。

1.大結節部に圧痛がある。
2.サルカス徴候が陽性となる。
3.ソルター・ハリスのⅡ型である。
4.内反変形を残すことがある。

解答

解説

リトルリーガー肩とは?

リトルリーガー肩とは、野球肩のひとつで、反復した投球動作によって起こる。使いすぎ障害として徐々に発症する場合が多い。リトルリーガー肩とは、成長過程にある少年、中学生前後では腕の骨の付け根に骨が伸びるための成長線が残っており、繰り返しの投球による牽引と回旋の力がかかることで、成長線を損傷することをいう。症状は、投球時の肩付近の痛みで発症する。痛みは投げるたびに徐々に強くなり、じっとしていても痛みを感じることがある。肩全体の痛みを訴えることが多いが、診察すると腕の付け根の外側に押すと痛い場所がある。ちなみに、野球肩は、滑液包炎、棘上筋腱炎、上腕二頭筋腱炎、肩甲上神経麻痺による棘下筋萎縮、インピンジメント症候群、上腕骨骨端線障害(リトルリーグ肩)など多くが含まれる。

1.× 「大結節部」ではなく成長板(骨端線)に圧痛がある。

2.× サルカス徴候が陽性となるのは、「反復性肩関節脱臼」である。サルカスサインとは、反復性肩関節脱臼などの肩関節不安定性を評価する検査である。肩関節外転外旋位で、上腕骨頭を後方から前方へ押し出すストレスをかけた際の不安感を確認する。ストレスをかけた際に不安感や怖さを感じたら陽性である。

3.× ソルター・ハリスの「Ⅱ型」ではなくⅠ型である。

4.〇 正しい。内反変形を残すことがある。なぜなら、投球時に、腕を振り下ろし動作(強い内旋)が、内反変形を助長させるため。末梢方向への牽引と内旋のねじれが繰り返されることにより、骨端線の離開と内反変形に寄与する。

Salter-Harris分類とは?

ソルター・ハリス分類(Salter-Harris分類)とは、成長板(骨端線)の骨折を評価するための一般的な分類法である。小児は大人と違って骨端に軟骨が挟まっており、そこから骨が成長する。タイプⅡは最も一般的なタイプで、成長板と骨端の一部が関与するが、多くの場合、完全に治癒し、長期的な成長障害を引き起こすことは少ない。Salter-Harris法では異なる型に分類される。骨折がⅠ型からⅤ型に進むに従い、成長障害のリスクが高まる。

タイプⅠ:骨折線が成長板をまっすぐ通って進む。骨端線の完全分離である。
タイプⅡ:骨折線が成長板の上方へ伸びる、または成長板から離れて伸びる。骨端線の完全分離と骨幹端の三角骨片である。
タイプⅢ:骨折線が成長板の下方へ伸びる。骨端線の分離と骨端の骨片である。
タイプⅣ:骨折線が骨幹端、成長板、および骨端を通過して伸びる。骨幹端から関節軟骨にわたり縦断されたものである。
タイプⅤ:成長板が押しつぶされている。骨端軟骨が圧挫されたものである。
成長板だけでなく骨端も含む損傷(タイプⅢ~Ⅳ)または成長板を圧縮する損傷(タイプⅤ)は、予後不良である。

 

 

 

 

 

問題99 腱交叉症候群に関与しないのはどれか。

1.長母指伸筋
2.長母指外転筋
3.長橈側手根伸筋
4.短橈側手根伸筋

解答

解説

腱交叉症候群とは?

腱交叉症候群(インターセクション症候群)とは、手首より少し肘側で交叉している部分に起こる腱鞘炎である。手関節から5cm近位部で短母指伸筋と長母指外転筋の深層を長・短橈側手根伸筋が交叉する部位の機械的炎症である。集中的に手を酷使する職業(大工仕事や手作業の多いデスクワーク、野球やテニス、バイクの運転など)に好発しやすく、好発年齢は30~50代である。治療法としては、炎症が起きているため、まず安静である。

1.× 長母指伸筋は、腱交叉症候群に関与しない。長母指伸筋の【起始】尺骨体中部背面、前腕骨間膜背面、【停止】母指の末節骨底の背側、【作用】母指の伸展、内転である。

2.〇 長母指外転筋は、腱交叉症候群に関与する。長母指外転筋の【起始】尺骨と橈骨の中部背側面、前腕骨間膜背面、【停止】第1中手骨底背面外側付近、【作用】母指外転である。

3.〇 長橈側手根伸筋は、腱交叉症候群に関与する。長橈側手根伸筋の【起始】上腕骨外側縁、外側上顆および外側上腕筋間中隔、【停止】第2中手骨底の背面橈側、【作用】手関節の背屈、橈屈である。

4.〇 短橈側手根伸筋は、腱交叉症候群に関与する。短橈側手根伸筋の【起始】上腕骨外側上顆、橈骨輪状靭帯、総指伸筋との間の腱膜、【停止】第3中手骨底の背面橈側、【作用】手関節の背屈、橈屈である。

(※図引用:「The Bone Identity ~整形外科医のブログ~様HPより」)

 

 

 

 

 

問題100 表に示す徒手筋力検査(MMT)の結果から考えられる神経絞扼部位はどれか。

1.回外筋腱弓
2.四辺形間隙
3.ストラザーズ腱弓
4.上腕骨橈骨神経溝

解答

解説

本症例のポイント

【各支配神経】
長橈側手根伸筋:橈骨神経(C5),C6,C7
尺側手根伸筋:橈骨神経深枝C6~C8
総指伸筋:橈骨神経深枝C6~C8
小指伸筋:橈骨神経深枝C6~C8
長母指伸筋:橈骨神経深枝C6~C8
示指伸筋:橈骨神経深枝C6~C8
→本症例は、橈骨神経深枝C6~C8が障害されていると考えられる。

1.〇 正しい。回外筋腱弓が考えられる神経絞扼部位である。なぜなら、本症例は、橈骨神経深枝C6~C8が障害されていると考えられるため。ちなみに、回外筋腱弓とは、フローセ腱弓ともいい、回外筋が橈骨神経深枝を包むように覆う構造(トンネルのような構造)のことである。回外筋の【起始】上腕骨外側上顆、尺骨の回外筋稜、肘関節包後面、橈骨輪状靭帯、【停止】橈骨上部外側面、【作用】前腕回外、【支配神経】橈骨神経深枝:C5~C7である。

2.× 四辺形間隙が絞扼されることで障害されるのは腋窩神経である。小円筋と大円筋と上腕三頭筋の長頭と上腕骨で囲まれた四角形の隙き間を外側腋窩隙と呼ぶ。腋窩神経や後上腕回旋動静脈が通る。このすき間が狭くなると、腋窩神経の障害から、支配筋である三角筋の筋力低下が起こり、上腕挙上困難(四辺形間隙症候群)になる。

3.× ストラザーズ腱弓が絞扼されることで障害されるのは尺骨神経である。ストラザーズ腱弓(Struthers’ arcade)とは、①上腕三頭筋内側頭と②上腕遠位深筋膜、③上腕内側筋間中隔、④内側上腕靭帯で構成される上腕骨内側上顆より近位に存在する筋膜様トンネルである(※参考:「Struthers’arcadeでの尺骨神経絞扼により肘内側部痛を呈した一症例」愛知県理学療法学会誌 第 29 巻)。

4.× 上腕骨橈骨神経溝が絞扼されることで障害されるのは橈骨神経の高位である。本症例の場合、長橈側手根伸筋が機能しているため、橈骨神経の高位の障害は考えにくい。ちなみに、橈骨神経溝とは、上腕骨体後面を上内側から下外側に斜めに走る浅い溝である。橈骨神経が通る。他にも、上腕三頭筋外側頭の付着面と上腕三頭筋内側頭の付着面の境界である。

 

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