第32回(R6年)柔道整復師国家試験 解説【午後101~105】

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問題101 疾患と徴候の組合せで正しいのはどれか。

1.腸腰筋短縮-ドレーマン徴候
2.ペルテス(Perthes)病-ルドロフ徴候
3.股関節インピンジメント-尻上がり徴候
4.大腿骨頭すべり症-トレンデレンブルグ徴候

解答

解説
1.× ドレーマン徴候は、「腸腰筋短縮」ではなく大腿骨頭すべり症である。ドレーマン徴候(Drehmann徴候)とは、股関節を他動的に屈曲すると外転・外旋する徴候である。大腿骨頭すべり症でみられる。ちなみに、腸腰筋短縮は、尻上がり徴候やトーマス徴候である。ちなみに、トーマステストの方法として、被験者は背臥位で、検者が被験者の検査側下肢の股関節を最大屈曲する。反対側の下肢の挙上があれば腸腰筋の短縮があると判断する。

2.× ルドロフ徴候は、「ペルテス(Perthes)病」ではなく裂離骨折である。ルドロフ徴候とは、大腿骨の小転子が腸腰筋の収縮によって引きちぎられる「裂離骨折」をしたときに起こる徴候である。イスなどに座ったときに、膝関節以上に足を上げることができなくなるが、あおむけになった場合は可能となる所見である。

3.× 尻上がり徴候は、「股関節インピンジメント」ではなく大腿直筋短縮である。Elyテスト(エリーテスト)は、大腿直筋の短縮のテストである。短縮していた場合、腹臥位で膝関節を最大屈曲した際に、股関節が屈曲し、殿部が持ち上がる(尻上がり現象)。

4.〇 正しい。大腿骨頭すべり症は、トレンデレンブルグ徴候が起こる。トレンデレンブルグ徴候とは、患肢で片脚立ちをしたとき、健肢側の骨盤が下がる現象である。中殿筋が麻痺や筋力低下などの機能不全が生じているときに、患側での立脚期において健側の骨盤が下がる現象である。大腿骨頭すべり症は、大腿骨の成長板の弱さにより大腿骨頭が後方へ滑る疾患であり、大腿骨頭の異常な位置の偏位により、中殿筋の緊張が変化し筋発揮に障害をきたす。ちなみに、大腿骨頭すべり症とは、大腿骨近位骨端軟骨の脆弱化、体重負荷により、大腿骨頭が頚部に対して、後下方に転位する疾患である。原因として、肥満と成長期のスポーツ活動による力学的負荷が大腿骨に加わるために生じる。成長ホルモンと性ホルモンの異常で発症することもある。歳から15歳頃の股関節の成長軟骨板(成長線)が力学的に弱い時期に発症する。

ペルテス病とは?

 男女比は4:1で、小柄な男児に多く見られる。小児期における血行障害による大腿骨頭・頚部の阻血性壊死(虚血と阻血は同義であり、動脈血量の減少による局所の貧血のこと)が原因で骨頭・頚部の変形が生じる骨端症である。初期症状は、跛行と股関節周囲の疼痛(大腿部にみられる関連痛)、股関節の可動域制限である。治療は、大腿骨頭壊死の修復が主な目標である。治療後は歩容の異常がなく、通常の日常生活を送れるようになることが多い。

 

 

 

 

 

問題102 ジャンパー膝で正しいのはどれか。

1.膝蓋跳動がみられる。
2.膝蓋骨下極部に圧痛がみられる。
3.グラスピングテストが陽性となる。
4.膝関節屈伸でクリックを触知する。

解答

解説

ジャンパー膝とは?

ジャンパー膝とは、ジャンピングなどの繰り返し行動による過度のストレスが膝蓋腱に与えられることにより、膝蓋骨周囲の疼痛や腫脹を生じている状態を指す。バスケットボールやバレーボールなどのスポーツによる膝伸展機構の使いすぎによって起こる。

1.× 膝蓋跳動がみられるのは、関節貯留液の著明な場合である膝蓋跳動は、関節貯留液の有無の検査である。膝蓋骨を押すと大腿骨に衝突してコツコツと音がすると陽性である。

2.〇 正しい。膝蓋骨下極部に圧痛がみられる。なぜなら、膝蓋骨下極は、膝関節屈曲時(ジャンプ動作時)に、膝蓋骨下極と膝蓋腱の近位後面が衝突して損傷が誘発されるため。ちなみに、膝蓋骨下極とは、膝蓋骨の下極部後面の腱線維を指す。

3.× グラスピングテストが陽性となるのは、「腸脛靱帯炎」である。腸脛靱帯炎(ランナー膝)とは、膝の屈伸運動を繰り返すことによって腸脛靱帯が大腿骨外顆と接触して炎症(滑膜炎)を起こし、疼痛が発生している状態を指す。特にマラソンなどの長距離ランナーに好発し、ほかにバスケットボール、水泳、自転車、エアロビクス、バレエ等にも多い。ちなみに、Graspingテスト(グラスピングテスト)は、腸脛靭帯を圧迫してテンションをかけた状態で、膝の曲げ伸ばしで症状が再現されるかどうかで判断する。

4.× 膝関節屈伸でクリックを触知するのは、「半月板損傷」である。McMurrayテスト(マックマリーテスト)の陽性は、半月板損傷を疑う。①背臥位で膝を完全に屈曲させ片手で踵部を保持する。②下腿を外旋させながら膝を伸展させたときに痛みやクリックを感じれば内側半月の損傷、下腿を内旋させながら膝を伸展させたときに生じるならば外側半月の損傷を示唆する。

 

 

 

 

 

問題103 60歳の女性。自宅の庭で転倒し受傷した。医科にて橈骨遠位端骨折と診断され固定を行った。固定除去後、手部に疼痛、腫脹、熱感が生じてきた。
 考えられるのはどれか。

1.骨化性筋炎
2.阻血性壊死
3.脂肪塞栓症候群
4.複合性局所性疼痛症候群

解答

解説

本症例のポイント

・60歳の女性(転倒し受傷)。
・診断:橈骨遠位端骨折と固定。
・固定除去後:手部に疼痛腫脹熱感が生じてきた。
→本症例は、複合性局所性疼痛症候群が疑われる。複合性局所疼痛症候群(CRPS)は、軟部組織もしくは骨損傷後(Ⅰ型:反射性交感神経性ジストロフィー)または神経損傷後(Ⅱ型:カウザルギー)に発生して、当初の組織損傷から予測されるより重度で長期間持続する、慢性の神経障害性疼痛である。その他の症状として、自律神経性の変化(例:発汗、血管運動異常)、運動機能の変化(例:筋力低下、ジストニア)、萎縮性の変化(例:皮膚または骨萎縮、脱毛、関節拘縮)などがみられる。疼痛をコントロールしながら、左手(疼痛側)の使用機会を増やす介入が必要である。

1.× 骨化性筋炎は考えにくい。なぜなら、固定除去後に発症する関連性は低いため。骨化性筋炎とは、打撲などの外傷によって、筋肉の中に骨と同じような組織ができてしまう疾患のことである。外傷性骨化性筋炎、骨化性筋炎とも言う。 損傷を受けた筋肉が出血して血腫ができたところに、カルシウムが沈着し、石灰化しておこる。大腿部前面に強い打撲を受けた後によくみられる。

2.× 阻血性壊死は考えにくい。なぜなら、阻血性壊死は、明らかな誘因がないことが発症条件であるため。本症例は、橈骨遠位端骨折の固定が起点として、手部に疼痛腫脹熱感が生じている。ちなみに、骨壊死には①症候性(外傷や塞栓症などによる血流途絶が原因)と②特発性(明らかな誘因がない阻血性壊死)がある。血行不良のため骨折後の再生が困難となる。症候性骨壊死が生じやすい部位:①上腕骨解剖頸、②舟状骨、③大腿骨頸部、④大腿骨顆部、⑤距骨である。

3.× 脂肪塞栓症候群は考えにくい。なぜなら、手部の局所的な疼痛、腫脹、熱感とは関係がない。ちなみに、脂肪塞栓症候群とは、大腿骨をはじめとする長管骨骨折や髄内釘手術を契機に、非乳化脂肪滴である中性脂肪が循環系に流入し、肺、脳、皮膚に脂肪塞栓症をきたし、呼吸器症候、中枢神経症候、皮膚点状出血などを呈する症候群である。長管骨骨折での発生率は0.9~2.2%とされている。

4.〇 正しい。複合性局所性疼痛症候群が考えられる。複合性局所疼痛症候群(CRPS)は、軟部組織もしくは骨損傷後(Ⅰ型:反射性交感神経性ジストロフィー)または神経損傷後(Ⅱ型:カウザルギー)に発生して、当初の組織損傷から予測されるより重度で長期間持続する、慢性の神経障害性疼痛である。その他の症状として、自律神経性の変化(例:発汗、血管運動異常)、運動機能の変化(例:筋力低下、ジストニア)、萎縮性の変化(例:皮膚または骨萎縮、脱毛、関節拘縮)などがみられる。疼痛をコントロールしながら、左手(疼痛側)の使用機会を増やす介入が必要である。

 

 

 

 

 

問題104 67歳の男性。転倒して縁石に前胸部を強打し、強い痛みを自覚した。来所時、背中を丸めるような姿勢をとり、ゆっくりとした腹式呼吸で、前胸部中央に著明な皮下出血と腫脹がみられた。
 合併症で考えられないのはどれか。

1.血胸
2.肋骨骨折
3.第10胸椎神経根障害
4.縦郭臓器の損傷

解答

解説

本症例のポイント

・67歳の男性(前胸部を強打)。
・自覚:強い痛み。
・来所時:背中を丸めるような姿勢。
・ゆっくりとした腹式呼吸、前胸部中央に著明な皮下出血と腫脹。
→本症例は、胸部外傷が疑われる。胸部外傷は生命にも影響が強いため、合併症をしっかり押さえておく。
【胸部外傷における合併症(※引用:「胸部外傷」日本医事新報社様HPより)】
・短時間で致命的となりうる胸部外傷は,①気道閉塞(気道出血),②緊張性気胸,③開放性気胸,④フレイルチェスト,⑤大量血胸,⑥心タンポナーデである。
・見逃すと生命を脅かしうる胸部外傷は,①気胸,②血胸,③肺挫傷,④気管・気管支損傷,⑤鈍的心損傷,⑥大動脈損傷,⑦横隔膜損傷,⑧食道損傷などである。

1.〇 血胸は、胸部外傷における合併症である。見逃すと生命を脅かしうる胸部外傷の合併症である。血胸とは、肺と胸壁との間に血液がたまることである。ふらつきや息切れ、胸痛を感じたり、皮膚が汗ばみ、青く冷たくなったりする。

2.〇 肋骨骨折は、胸部外傷における合併症である。本症例の場合、前胸部を強打し、強い痛みを訴えていることからも、肋骨骨折の可能性は否定できない。

3.× 第10胸椎神経根障害は、合併症で考えられない。 神経根疾患(神経根障害)は、脊髄神経根への突然または長期的な圧迫によって生じる。例えば、椎間板ヘルニアや脊椎の変形性関節症などで生じる。 

4.〇 縦郭臓器の損傷は、胸部外傷における合併症である。見逃すと生命を脅かしうる胸部外傷の合併症である。縦郭とは、左右の肺の間に位置する部分のことを指す。心臓、大血管、気管、食道、胸腺などの臓器がある。

腰椎椎間板ヘルニアとは?

椎間板は、外縁部分を構成する線維輪という靱帯様の構造物と、中心部に含まれる軟らかい髄核という構造物から成り立っているが、外縁部分の椎間板の線維輪が弱くなって膨隆したり、線維輪が断裂して中心部の髄核が脱出したりすると、近傍にある神経を圧迫している状態のことを腰椎椎間板ヘルニアという。L4/5とL5/S1が好発部位である。

L3‒L4間(支配神経根L4):膝蓋腱反射低下、大腿~下腿内側の感覚麻痺、大腿四頭筋力低下。
L4‒L5間(支配神経根L5):下腿外側~母趾の感覚麻痺、前脛骨筋、長母指伸筋、長趾伸筋の筋力低下。
L5‒S1間(支配神経根S1):アキレス腱反射低下、足部尺側側の感覚麻痺、下腿三頭筋、長母指屈筋、長趾屈筋の筋力低下。

 

 

 

 

 

問題105 53歳の女性。1週前、自宅で転倒し右腰部に痛みを自覚した。初検時、棘突起の疼痛は軽度で、下肢伸展挙上テストは陰性であった。起居動作および左側屈で疼痛が誘発された。
 考えられるのはどれか。

1.腰部脊柱管狭窄症
2.腰椎肋骨突起骨折
3.腰椎椎間板ヘルニア
4.胸腰椎移行部圧迫骨折

解答

解説

本症例のポイント

53歳の女性
・1週前:転倒し右腰部に痛み
・初検時:棘突起の疼痛は軽度で、下肢伸展挙上テストは陰性であった。
起居動作および左側屈:疼痛が誘発。
→それぞれ選択肢の原因と症状をしっかり把握しておこう。

1.× 腰部脊柱管狭窄症は考えにくい。なぜなら慢性的に発生するため。ちなみに、腰部脊柱管狭窄症とは、脊柱管が腰部で狭くなる病気である。そのため、腰から下の神経に関連する症状(しびれや疼痛、脱力など)が出現する。歩行時には腰痛があまり強くならない事が多く、歩行と休息を繰り返す間歇性跛行が特徴である。

2.〇 腰椎肋骨突起骨折が考えられる。腰椎横突起骨折とは、交通事故で、追突されて大きな衝撃を受けた場合やバイク・自転車から転落した場合などに発症することが多い傷病である。スポーツやスキー、スノボなどをしているときに腰椎横突起骨折をするケースもある。症状は、主に腰痛や圧痛、動作痛(大腰筋や腰方形筋)である。ただ、末梢神経を傷めることがないため、足の麻痺やしびれ感などの神経症状は伴わない。治療方法としては、腰を安静にして、コルセットや腰部固定帯を使って骨折した部位を固定する。

3.× 腰椎椎間板ヘルニアは考えにくい。なぜなら、下肢伸展挙上テストが陰性であるため。ちなみに、SLRテスト(下肢伸展挙上テスト)は、脊髄後根で圧迫を受ける疾患(坐骨神経痛、椎間板ヘルニアなど)の有無、ハムストリングス損傷や短縮をみる。背臥位で、下肢を挙上し痛みが生じたら陽性である。

4.× 胸腰椎移行部圧迫骨折より優先されるものがほかにある。なぜなら、本症例は比較的若い(53歳の女性)ため。また、圧迫骨折の場合、棘突起の疼痛は著明であることが多い。圧迫骨折とは、背骨の椎体と言う部分が潰されるように骨折した状態である。尻もちなどの外力による受傷が多く見られる。女性の高齢者に多く見られる代表的な骨折である。椎体骨折(圧迫骨折)の場合は、画像所見で①膨張した椎間板、②魚椎変形(楔状変形)、③骨陰影の減少などがみられる。好発部位は、第11~12胸椎、第1腰椎である。これは、この部位が脊椎のカーブ(胸腰椎移行部)に位置し、骨の強度と比較してストレスが集中するためである。

腰椎椎間板ヘルニアとは?

椎間板は、外縁部分を構成する線維輪という靱帯様の構造物と、中心部に含まれる軟らかい髄核という構造物から成り立っているが、外縁部分の椎間板の線維輪が弱くなって膨隆したり、線維輪が断裂して中心部の髄核が脱出したりすると、近傍にある神経を圧迫している状態のことを腰椎椎間板ヘルニアという。L4/5とL5/S1が好発部位である。

L3‒L4間(支配神経根L4):膝蓋腱反射低下、大腿~下腿内側の感覚麻痺、大腿四頭筋力低下。
L4‒L5間(支配神経根L5):下腿外側~母趾の感覚麻痺、前脛骨筋、長母指伸筋、長趾伸筋の筋力低下。
L5‒S1間(支配神経根S1):アキレス腱反射低下、足部尺側側の感覚麻痺、下腿三頭筋、長母指屈筋、長趾屈筋の筋力低下。

 

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