第32回(R6年)柔道整復師国家試験 解説【午後111~115】

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問題111 36歳の女性。2週前にオートバイで転倒し、右肩部を強打した。以来、肩部の疼痛を自覚している。特に右側臥位での夜間痛が著明である。肩関節外転が他動では可能であるが、自動では60度位に制限されている。
 考えられる疾患はどれか。

1.五十肩
2.腱板損傷
3.肩関節脱臼
4.上腕骨外科頸骨折

解答

解説

本症例のポイント

・36歳の女性(2週前にオートバイで転倒)。
右肩部を強打
・以来:肩部の疼痛を自覚。
・特に右側臥位での夜間痛が著明。
・肩関節外転:他動で可能、自動で60度位に制限
→肩関節外転が他動で可能、自動で60度位に制限されていることから、棘上筋の機能不全が考えられる。棘上筋の損傷・断裂が考えられるものを選択しよう。

1.× 五十肩(肩関節周囲炎)は考えにくい。なぜなら、肩関節周囲炎は、慢性炎症に分類されるため。肩関節周囲炎は、肩関節とその周辺組織(肩峰下滑液包や腱板など)の退行性変性が原因となり肩関節の痛みと運動の制限を伴うものである。加齢による退行変性を基盤に発症し、疼痛(運動時痛、夜間時痛)と運動障害を主徴とする。肩関節周囲炎は痙縮期、拘縮期、回復期と分けられ、筋萎縮は拘縮期に肩甲帯筋の廃用性萎縮としてみられる。リハビリとして、Codman体操(コッドマン体操)を実施する。肩関節周囲炎の炎症期に使用する運動であり、肩関節回旋筋腱板の強化や肩関節可動域拡大を目的に使用する。患側の手に1~1.5㎏の重錘を持ち、振り子運動を行う。

2.〇 腱板損傷が考えられる。肩関節外転が他動で可能、自動で60度位に制限されていることから、棘上筋の機能不全が考えられる。他にも、①右肩部を強打、②夜間痛が著明であることも根拠となりえる。ちなみに、腱板損傷とは、肩のインナーマッスルである棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の腱が損傷・断裂していることをいう。肩峰や上腕骨頭とのインピンジメント(衝突)で損傷されやすい棘上筋腱の損傷がほとんどである。好発年齢は、40歳以上の男性であり、腱板の上にある滑液包が強い炎症をおこし腫れたり、充血したり、水がたまったりする。画像所見やインピンジメントの誘発テストによって診断される。また、断裂と断裂部に関節液の貯留を認めるため、超音波(エコー)やMRI検査で診断することが多い。MRIは時間がかかることや体内に磁性体がある場合は行うことができない。また画像をスライスでしか確認できないため連続性を追いにくいといった特徴がある。

3.× 肩関節脱臼は考えにくい。なぜなら、脱臼の固有症状がみられないため。脱臼の固有症状は、弾発性固定や変形である。

4.× 上腕骨外科頸骨折は考えにくい。なぜなら、骨折の場合、肩関節外転可動域で他動でも困難な可能性が高いため。また、骨折の場合、夜間痛など日内変動は考えにくい。

 

 

 

 

 

問題112 28歳の男性。機械の組み立て工。仕事中に特定の動作で肘関節がカクッとずれるような感じがあり、力が入らないという。小学生の低学年時に肘の骨折の既往があり、運搬角は-10度である。前腕回外位で手掌から軸圧をかけて肘関節を外反すると、橈骨頭の後外方への亜脱臼がみられた。
 亜脱臼の原因はどれか。

1.輪状靱帯の亜脱臼
2.外側側副靱帯の緊張
3.内側側副靱帯の弛緩
4.外側尺側側副靱帯の弛緩

解答

解説

(※図引用:「イラスト素材:肘の靱帯」ACillustAC様HPより)

本症例のポイント

・28歳の男性(機械の組み立て工)。
・特定の動作:肘関節がカクッとずれるような感じ(力が入らない)。
・既往:肘の骨折(小学生の低学年時)、運搬角は-10度
・前腕回外位で手掌から軸圧をかけて肘関節を外反すると、橈骨頭の後外方への亜脱臼
→肘の構造を理解しよう。「肘関節を外反すると、橈骨頭の後外方への亜脱臼」する原因を考えよう。どの靱帯が弛緩しているのだろうか。

1.× 輪状靱帯の亜脱臼が原因とは考えにくい。橈骨輪状靱帯は、橈骨頭の周囲を取り囲むように尺骨に付着している。輪状靱帯の亜脱臼は、主に小児に見られる肘の脱臼で、典型的には手を引っ張られる動作で起こる。これを肘内障という。肘内障とは、乳幼児に特有の外傷で、橈骨頭が引っ張られることによって、橈骨頭を取り巻いている輪状靭帯と回外筋が橈骨頭からずれた状態(亜脱臼)になったものである。5歳くらいまでの子どもに発症する。 輪状靭帯の付着がしっかりする6歳以降では起こりにくい。

2.× 外側側副靱帯(全体)の緊張が亜脱臼の原因とは考えにくい。なぜなら、一般的に、外側側副靱帯(全体)の緊張は、肘関節内反の制御に寄与するため。

3.× 内側側副靱帯の弛緩より優先されるものが他にある。なぜなら、内側側副靱帯は、肘関節内反の制御に寄与し、尺側の異常を防ぐため。ちなみに、内側側副靱帯の弛緩(損傷)により、主に肘関節後方脱臼(前腕両骨後方脱臼)を呈することもある。本症例のように、橈骨頭のみ後外方への亜脱臼にはきたさない。

4.〇 正しい。外側尺側側副靱帯の弛緩が亜脱臼の原因である。外側尺側側副靱帯の弛緩は、肘の後外側回転不安定性の主要な原因となる。本症例では、前腕回外位で手掌から軸圧をかけて肘関節を外反すると、橈骨頭の後外方への亜脱臼が見られるため、外側尺側側副靱帯の弛緩がもっとも考えられる。ちなみに、外側尺側側副靱帯とは、腕尺関節を外側後方でつなぐ靭帯である。外側側副靱帯の一部で、上腕骨外側上顆に起始し尺骨に停止する。輪状靱帯とともに橈骨を包み支える複合体を形成し、内反や軸圧、回旋方向のストレスに対抗する役割を担っている。

 

 

 

 

 

問題113 35歳の男性。板前をしている。約1か月前、調理中に右前腕近位橈側に違和感を自覚し、その後に指が動きにくくなったとのことで来所した。第2~5MP関節の伸展が不能であった。感覚障害はみられない。
 他に考えられる症状はどれか。

1.母指橈側外転不能
2.フローマン徴候陽性
3.つまみ動作不能
4.ティアドロップサイン陽性

解答

解説

本症例のポイント

・35歳の男性(板前)。
・約1か月前:調理中に右前腕近位橈側に違和感。
・その後:指が動きにくくなった。
第2~5MP関節の伸展:不能。
・感覚障害はみられない。
→本症例は、後骨間神経麻痺が疑われる。後骨間神経とは、肘の辺りで橈骨神経から分岐して回外筋にもぐりこみ、指を伸展する筋肉を支配している神経である。後骨間神経麻痺により下垂指(drop finger)となる。

1.〇 母指橈側外転不能が他に考えられる症状である。後骨間神経とは、肘の辺りで橈骨神経から分岐して回外筋にもぐりこみ、指を伸展する筋肉を支配している神経である。後骨間神経麻痺により下垂指(drop finger)となる。

2.× フローマン徴候陽性(Froment徴候)とは、親指以外の4本の指の内外転と親指の内転ができなくなり、親指と人差し指でものをはさむ力が弱くなることである。母指内転筋や骨間筋の萎縮から指の内外転が障害される。したがって、上肢の末梢神経障害(尺骨神経麻痺)でみられる。

3~4.× つまみ動作不能/ティアドロップサイン陽性は、正中神経麻痺でみられる。正中神経麻痺とは、tear drop sign(ティア ドロップ サイン)または、perfect O(パーフェクト Oテスト)や、Phalen(ファレンテスト)が陽性となる麻痺である。ファーレン徴候(Phalen徴候)とは、手首を曲げて症状の再現性をみる検査である。perfect O(パーフェクト Oテスト)とは、親指と人差し指の先端をくっつけて丸形を作る検査である。

前骨間神経と後骨間神経について

前骨間神経と後骨間神経は、前腕の橈骨と尺骨という2つ骨の間を繋ぐ骨間膜の前後を走る神経である。両者とも触覚に異常がないのが特徴である。神経炎以外にも、外傷、絞扼性神経障害でも生じる。

【前骨間神経】
・肘の辺りで正中神経から分岐して主に母指(親指)と示指の第1関節を動かす筋肉を支配している。
→涙のしずくが陽性。

【後骨間神経】
・肘の辺りで橈骨神経から分岐して回外筋にもぐりこみ、指を伸展する筋肉を支配している。
→下垂指(drop finger)となる。

 

 

 

 

 

問題114 37歳の男性。ゴルフ歴10年。右利き。2か月前からグラブを振るとき左手関節尺側に疼痛が出現してきた。最近は左手でペットボトルを開ける際にも痛みが出ると訴えて来所した。手関節の可動域制限は軽度だが、手関節尺屈位で軸圧を加えると疼痛が再現された。
 考えられないのはどれか。

1.月状骨軟化症
2.尺骨茎状突起骨折
3.遠位橈尺関節脱臼
4.三角線維軟骨損傷

解答

解説

本症例のポイント

・37歳の男性(ゴルフ歴10年、右利き)。
・2か月前:グラブを振るとき左手関節尺側に疼痛が出現。
・最近:左手でペットボトルを開ける際にも痛みが出る。
・手関節の可動域制限:軽度
・手関節尺屈位で軸圧を加えると疼痛が再現された。
→各選択肢の原因と症状をしっかり覚えておこう。手指の位置関係や構造から、痛みがでているところを把握する。「考えられない」選択肢であるため、文章もしっかり読み解くことが大切である。

1.× 月状骨軟化症は考えられない。なぜなら、主に左手関節尺側の疼痛と症状が合致しないため。Kienböck病(キーンベック病:月状骨軟化症)とは、月状骨がつぶれて扁平化する病気をいう。月状骨は手首(手関節)に8つある手根骨の1つでほぼ中央に位置している。月状骨は、周囲がほぼ軟骨に囲まれており血行が乏しいため、血流障害になり壊死しやすい骨の1つである。10~50歳代、男性、大工など手をよく使う人に好発する。治療は、初期では装具固定、進行例では手術療法を検討する。

2.〇 尺骨茎状突起骨折とは、その名の通り、尺骨茎状突起(前腕の小指側にある細い骨の下部にある突起)が骨折している状態である。尺骨茎状突起骨折後は、手関節から手指にかけて強く腫れて痛みが生じ、手関節や手指が動かしづらくなる。

3.〇 遠位橈尺関節脱臼とは、手の̚過度回内(背側脱臼)、手の̚過度回外(掌側脱臼)で起こる。多くは橈骨遠位端部の骨折で生じやすい。ちなみに、遠位橈尺関節脱臼の治療のほとんどは、固定による保存療法で、程度によってではあるが、まれに手術適応例もある。

4.〇 三角線維軟骨損傷も考えられる。三角線維軟骨複合体とは、遠位橈尺関節を安定化させている支持組織である。遠位橈尺関節は手関節に隣接して存在し、肘関節に隣接する近位橈尺関節と共に前腕の回内外運動を行う。遠位橈尺関節の安定性と衝撃吸収を担うため、三角線維軟骨複合体損傷は、疼痛や機能障害の原因となる。原因として、外傷である。 手関節部の強い衝撃や手関節への過剰な負荷の繰り返しにより起きるため、野球やテニスなどのスポーツが原因となることが多い。

(※引用:「イラスト素材:手の骨」illustAC様より)

 

 

 

 

 

問題115 45歳の男性。柔道の練習中に受け身で右中指を負傷した。来所時、右中指DIP関節は屈曲し、同部に腫脹と軽度の圧痛がみられた。また同関節の自動運動は不能であった。医科での単純エックス線検査で骨折はないと言われた。
 固定期間はどれか。

1.1~2週
2.3~5週
3.6~8週
4.9~10週

解答

解説

本症例のポイント

・45歳の男性。
・受け身:右中指を負傷。
・来所時:右中指DIP関節は屈曲位(腫脹と軽度の圧痛)。
・右中指DIP関節自動運動:不能
・単純エックス線検査:骨折はない
→本症例は、槌指が疑われる。マレットフィンガーとは、槌指やハンマー指、ベースボールフィンガー、ドロップフィンガーのことである。DIP関節の過屈曲によりDIP関節の伸筋腱の断裂で起こる。DIP関節が曲がったままで痛みや腫れがあり、自動伸展は不能で、自分で伸ばそうと思っても伸びない。しかし、他動伸展は可能である。

1~2.× 1~2週/3~5週の固定期間は短すぎる。

3.〇 6~8週が固定期間である。腱性の槌指の場合、6~8週のDIP関節の固定が必要となる。一方、骨性の槌指の場合、手術が適応となる。骨性の槌指の場合は、疼痛・腫脹が著明で、DIP関節の伸展制限が腱性より軽い特徴を持つ。

4.× 9~10週の固定期間は長すぎる。

 

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