第26回(H30年)柔道整復師国家試験 解説【午前11~15】

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問11 インシデント(ヒアリハット)事例はどれか。

1.医療行為の結果で患者が死亡した。
2.医療行為の結果で患者の症状が悪化した。
3.医療従事者が自ら誤刺した。
4.患者に被害が予想されたが起こらなかった。

答え.4

解説

インシデントとは?

インシデントとは、適切な対処がなされなかった場合に事故となる可能性を含んだ事象を示し、ヒヤリ・ハットともいう。インシデントは当事者だけでなく皆でなぜ起こったのかなどを共有し話し合うことで、同じインシデントの防止のための対策を立てることができる。インシデントを組織全体で共有・分析し、問題拍出して、事故防止策を検討することで再発を防止できる。

1~3.× 医療行為の結果で患者が死亡した。医療行為の結果で患者の症状が悪化した。医療従事者が自ら誤刺した。
これは、「医療事故(アクシデント)」である。医療事故とは、医療機関内で発生した人身事故全般を意味する言葉である。特に、医療機関側の人為的ミスによって患者の病態を増悪させてしまうことは、医療過誤(医療ミス)と呼ばれる。

4.〇 正しい。患者に被害が予想されたが起こらなかった
これは、「インシデント(ヒアリハット)」である。ヒヤリハットとは、危ないことが起こったが、幸い災害には至らなかった事象のことである。ハインリッヒの法則(1:29:300、分析により導かれた労働災害の発生比率)では、1 件の重大事故の裏には、29 件の軽傷事故、300 件の無傷事故(ヒヤリハット)があると言われている。

医療過誤とは?

医療過誤とは、医療事故のうち医療機関側の人為的ミスによって起こった事例をいう。医療提供者(医師や看護師など)による過失によって引き起こされ、医療提供者が適切な診断や治療を行わなかったり、適切な情報提供や同意取得がなされていない場合に発生することが多い。医療過誤が発生した時、病院側は①刑事責任、②行政責任、③民事責任という3つの責任を負うことになる。①刑事責任とは、医療過誤によって患者が怪我・後遺症を負ったり死亡したりした場合、医療従事者に対して刑事罰を科すこと、②行政責任とは、医療過誤によって患者が怪我・後遺症を負ったり死亡したりした場合、病院側に対して行政処分が下されること、③民事責任とは、医療過誤によって患者が怪我・後遺症を負ったり死亡したりした場合、病院側に損害賠償責任を果たしてもらうことである。

 

 

 

 

 

問12 MMT3における筋力増強訓練はどれか。

1.筋機能再教育
2.徒手的に介助した自動運動
3.徒手的に抵抗を加えた自動運動
4.自重を利用した自動運動

答え.4

解説

徒手筋力検査とは?

徒手筋力テスト(MMT:manual muscle testing)は、筋力を測定するための方法のひとつである。筋収縮のまったくみられない場合「0」、正常を「5」として6段階で評価する。

0(Zero:ゼロ):「筋収縮のまったくみられない」状態である。
1(trace:不可):「関節の運動は起こらないが、筋のわずかな収縮は起こる。筋収縮がみえる、または触知できる」状態である。
2(poor:可):「重力を除けば全可動域動かせる」状態である。
3(fair:良):「重力に打ち勝って全可動域動かせるが、抵抗があれば行えない」状態である。
4(good:優):「ある程度、徒手抵抗を加えても、全可動域動かせる」状態である。
5(normal:正常):「強い抵抗(最大抵抗)を加えても、完全に運動できる」状態である。

1.× 筋機能再教育は、筋力増強訓練とはいえない。筋再教育訓練とは、骨格筋の随意運動の回復を目的とした訓練である。筋再教育訓練のひとつにPNF(proprioceptive neuromuscular facilitation:固有受容性神経筋促通法)があり、これは固有受容器の刺激により神経筋機構の反応を促進する方法である。中枢神経疾患の治療としても用いられる。①促進要素、②特殊テクニック、③促進パターンの3つから構成される。固有受容器とは、身体の位置や動きに関する情報をもたらす受容器(筋紡錘,ゴルジの腱器官,関節の受容器,前庭迷路受容器)のことをいう。

2.× 徒手的に介助した自動運動は、負荷量が不十分である。徒手的に介助した自動運動は、MMT1やMMT2のレベルで用いられることが多い。

3.△ 徒手的に抵抗を加えた自動運動より優先されるものがほかにある。なぜなら、MMT3は、「抵抗があれば行えない」状態であるため。ただし、徒手的な抵抗は負荷量を多段階に変えられるため、一概に誤っているとはいいがたい。

4.〇 正しい。自重を利用した自動運動は、MMT3における筋力増強訓練である。なぜなら、自重・重力に逆らって運動を行うことで、筋力に負荷をかけることができるため。筋力増強の基本条件として、過負荷の原則が適応される。筋肥大を見込むためには、1RMに対する負荷量75~80%で、反復回数は8~10回とされている。最大筋力に対して極めて弱い抵抗運動は、筋力増強を見込めない。

 

 

 

 

 

問13 医療面接で誤っているのはどれか。

1.大ざっぱな質問で患者に自由に話してもらう。
2.症状について焦点を絞って聞くこともある。
3.診療録に要点を整理して記載する。
4.患者の訴えを主観的に判断する。

答え.4

解説

カウンセリングの基本的態度

ロジャーズの3原則とは、アメリカの心理学者であるカール・ロジャーズが提唱した「傾聴」の3つの構成要素を表すものである。

【ロジャーズ,C.Rの3原則】
①「共感的理解」:相手の話を、相手の立場に立って、相手の気持ちに共感しながら理解しようとすること
②「無条件の肯定的配慮」:相手の話を善悪の評価や好き嫌いの評価をせずに聴くこと
③「自己一致」:聴き手が相手に対しても、自分に対しても真摯な態度で、話が分かりにくい時は分かりにくいことを伝え、真意を確認すること

1.〇 正しい。大ざっぱな質問で患者に自由に話してもらう。開かれた質問は、患者が症状や来院理由を自由に話せるため、相手からより多くの情報を引き出したい場面で有効である。

2.〇 正しい。症状について焦点を絞って聞くこともある。これを焦点型質問という。焦点型質問(focused question)とは、特定のテーマに焦点を絞った質問で、開かれた質問よりは、自由度の低い質問である。つまり、1つの事柄を深く掘り下げる質問法であり、例として「頭痛についてもう少し詳しく教えてください。」といったものである。

3.〇 正しい。診療録に要点を整理して記載する。これにより、後続の診療や他の医療者との連携が円滑に行えるようになる。ちなみに、診療録、カルテとは、医療に関してその診療経過等を記録したものである。 診療録には手術記録・検査記録・看護記録等を含め診療に関する記録の総称をいう。

4.× 患者の訴えを、「主観的」ではなく客観的に判断する。なぜなら、医療者が自分の主観に基づいて判断すると、患者の真の問題やニーズが見逃される可能性があるため。患者の言葉を聞き、必要に応じて客観的なデータや観察結果と照らし合わせて判断することが大切である。

MEMO

open-ended question(開かれた質問)は、5W1HでいうWhen(なぜ)、How(どうやって・どのように)に該当する。したがって、患者が症状や来院理由を自由に話せるため、相手からより多くの情報を引き出したい場面で有効である。

closed-ended question(閉じられた質問)は、5W1Hでいう(When(いつ)、Where(どこで)、 Who(誰が)、What(何を)や、はい/いいえで答えられる限定された質問である。したがって、相手の考えや事実を明確にしたい場面などで有効である。

 

 

 

 

 

問14 体温が持続的に高く日内変動が1℃以内なのはどれか。

1.稽留熱
2.弛張熱
3.間欠熱
4.波状熱

答え.1

解説


1.〇 正しい。稽留熱(読み:けいりゅうねつ)は、体温が持続的に高く日内変動が1℃以内である。稽留熱の特徴は、日内変動が1℃以内で、38℃以上の高熱が持続する熱のことである。主な疾患は、重症肺炎や腸チフス極期、粟粒結核などでみられる。

2.× 弛張熱(読み:しちょうねつ)は、日内変動が1℃以上あるが、37℃以下にまでは下がらない熱のことである。主な疾患は、化膿性疾患、敗血症、ウイルス感染症、悪性腫瘍、肺結核などでみられる。

3.× 間欠熱は、高熱と平熱の状態が一定期間を置いて交互に出現する。1日の体温差が1℃以上あり、37℃以下にまで下がる熱(体温差が大きい)のことである。主な疾患は、マラリアの発熱期やスティル病、フィラリア症などでみられる。

4.× 波状熱(再発熱)は、発熱する時期と発熱しない時期とが区別されており、不規則に繰り返し出現する熱のことである。主な疾患は、ブルセラ症、マラリア、ホジキン病、胆道閉鎖症などでみられる。

 

 

 

 

 

問15 循環血液量減少性ショックはどれか。

1.心筋梗塞
2.広範囲熱傷
3.緊張性気胸
4.アナフィラキシー

答え.2

解説

ショックとは?

ショックとは、体液の喪失、心臓機能の低下、血管系虚脱などにより組織への酸素供給が障害され、放置すれば進行性に全身の臓器還流障害から急速に死に至る重篤な病態である。頻度的に最も多いのは出血性ショックである。出血性ショックとは、外傷や、消化管などからの出血によって血液循環量の低下が原因で起こるショックのことである。術後出血が原因となることもある。

1.× 心筋梗塞は、心原性ショックである。心原性ショックとは、心ポンプ機能の低下により、全身諸組織における循環不全(安静時における組織代謝需要を満たす血流が供給されない状態)が生じ、低酸素、アシドーシス、毛細血管透過性亢進をきたす重篤な病態を指す。全身および心筋組織の循環不全、低酸素化が生じ、アシドーシス、フリーラジカルの発生、サイトカインの増加、白血球凝集、血管内皮障害、微小循環障害などが生じる。心原性ショックの原因として最も多いのは急性心筋梗塞である。他にも、心臓ポンプ機能の異常による心筋収縮力低下のほか、心筋変性や心タンポナーデによる心室拡張不全、頻脈や徐脈などの不整脈で心拍出量が低下するなど、さまざまな病態が原因になる。

2.〇 正しい。広範囲熱傷は、循環血液量減少性ショックである。循環血液量減少性ショックとは、血管内容量の危機的な減少で起こるショックのことである。 静脈還流(前負荷)が減少すると、心室が充満せず、一回拍出量が減少する。 心拍数の増加によって代償されない限り、心拍出量は減少する。 一般的な原因は出血(出血性ショック)で、通常、外傷、外科手術、消化性潰瘍、食道静脈瘤、大動脈瘤破裂によって起こる。

3.× 緊張性気胸は、閉塞性ショックである。緊張性気胸とは、胸壁と肺との間に空気がたまることで胸部への圧力が高まり、心臓に戻る血液が減少することである。症状には、胸痛、息切れ、速い呼吸、心拍数の増加などがあり、ショックに至ることがある。一方、心原性ショックとは、心ポンプ機能の低下により、全身諸組織における循環不全(安静時における組織代謝需要を満たす血流が供給されない状態)が生じ、低酸素、アシドーシス、毛細血管透過性亢進をきたす重篤な病態を指す。全身および心筋組織の循環不全、低酸素化が生じ、アシドーシス、フリーラジカルの発生、サイトカインの増加、白血球凝集、血管内皮障害、微小循環障害などが生じる。心原性ショックの原因として最も多いのは急性心筋梗塞である。他にも、心臓ポンプ機能の異常による心筋収縮力低下のほか、心筋変性や心タンポナーデによる心室拡張不全、頻脈や徐脈などの不整脈で心拍出量が低下するなど、さまざまな病態が原因になる。

4.× アナフィラキシーは、血液分布異常性ショックである。血液分布異常性ショックとは、血管の特定箇所が何らかの異常により拡張した結果、相対的に循環血液量が減少し、起こるショックである。循環血液量は正常に保たれているのが特徴である。アナフィラキシーショックとは、アレルギー反応で起こるショックのことである。アナフィラキシーショックの症状として(頻脈、血圧低下、意識障害、喉頭浮腫、呼吸困難)を引き起こす。アレルギー反応によって血管透過性が亢進し、血管内外の血液分布が乱れるため、血液分布異常性ショックの原因となる。

 

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