第26回(H30年)柔道整復師国家試験 解説【午後101~105】

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問101 21歳の男性。2か月前にバスケットボール試合中に左膝を打ち負傷した。脛骨粗面部の発赤と腫脹を認めていたが、症状は軽快したという。最近、運動時に膝窩部痛が出現し来所した。ラックマンテストでエンドポイントはあるが、膝90度屈曲位で脛骨を前へ引くと出るような感じとそこから後ろに押すと戻るような感じがある。
 考えられるのはどれか。

1.ジャンパー膝
2.前十字靱帯損傷
3.オスグット-シュラッター(Osgood-Schlatter)病
4.後十字靱帯損傷

答え.4

解説

本症例のポイント

・21歳の男性。
・2か月前:バスケ中に左膝を打ち負傷した。
脛骨粗面部発赤と腫脹(症状は軽快)
・最近:運動時に膝窩部痛が出現。
・ラックマンテスト:エンドポイントはある。
・膝90度屈曲位で脛骨を前へ引くと出るような感じとそこから後ろに押すと戻るような感じがある。
→本症例の受傷原因から考えよう。脛骨粗面部を強く打ち発赤と腫脹が出ていることがポイントである。

Lachmanテスト(ラックマンテスト)は、膝関節前十字靱帯損傷の検査である。背臥位で膝関節を20~30度屈曲させて、下腿部近位端を斜め前方へ引き出す。陽性の場合、脛骨は止まることなく前方に出てくる。

1.× ジャンパー膝とは、ジャンピングなどの繰り返し行動による過度のストレスが膝蓋腱に与えられることにより、膝蓋骨周囲の疼痛や腫脹を生じている状態を指す。バスケットボールやバレーボールなどのスポーツによる膝伸展機構の使いすぎによって起こる。

2.× 前十字靱帯損傷は考えにくい。前十字靭帯とは、膝関節の中で、大腿骨と脛骨をつないでいる強力な靭帯である。役割は、主に①大腿骨に対して脛骨が前へ移動しないような制御(前後への安定性)と、②捻った方向に対して動きすぎないような制御(回旋方向への安定性)である。前十字靭帯損傷とは、スポーツによる膝外傷の中でも頻度が高く、バスケットボールやサッカー、スキーなどでのジャンプの着地や急な方向転換、急停止時に発生することが多い非接触損傷が特徴的な靭帯損傷である。Lachman test(ラックマンテスト)/軸移動テスト(pivot shift test:ピポットシフトテスト)/Jerkテスト(ジャークテスト)は、膝前十字靭帯損傷を検査する。

3.× オスグット-シュラッター(Osgood-Schlatter)病は、小児の運動後に生じる膝の痛み、膝脛骨結節部の圧痛、さらに脛骨粗面に異常骨陰影を認める。男女比(4:3)で男児に多く発症する。運動などの大きな外力が繰り返しかかることにより、大腿四頭筋の膝蓋腱の脛骨付着部が機械的刺激を受けて、脛骨粗面部の運動時痛と膨隆が生じる。

4.〇 正しい。後十字靱帯損傷が考えられる。後十字靱帯損傷の原因として、膝関節屈曲位で脛骨粗面部強打で起こる。ダッシュボード損傷などの交通外傷、膝関節の過伸展、過屈曲などでも生じる。

 

 

 

 

 

問102 54歳の女性。散歩中に足を滑らせ右手掌を衝いて転倒し受傷した。来所時、右肩関節はやや外転し弾発性固定を認めた。三角筋部の膨隆とモーレンハイム窩が消失していた。整復前と整復後の単純エックス線写真を別に示す。
 整復後の固定肢位はどれか。

1.肩関節軽度屈曲内旋位
2.肩関節下垂外旋位
3.肩関節外転外旋位
4.肩関節内転内旋位

答え.3

解説

本症例のポイント

・54歳の女性。
・散歩中:足を滑らせ右手掌を衝いて転倒、受傷。
・来所時:右肩関節はやや外転し弾発性固定
三角筋部の膨隆モーレンハイム窩が消失
→本症例は、烏口下脱臼が疑われる。烏口下脱臼とは、肩関節前方脱臼(約90%)のひとつである。上腕骨頭が肩甲骨関節窩から前方に脱臼した症状で、①烏口下脱臼と②鎖骨下脱臼に分類される。関節全体を覆う袋状の関節包と靭帯の一部が破れ、突き出た上腕骨頭が烏口突起の下へすべることで起こる脱臼である。介達外力が多く、後方から力が加わる、転倒するなどで手を衝くことで過度の伸展力が発生した場合(外旋+外転+伸展)などに起こる。症状として、①弾発性固定、②関節軸の変化(骨頭は前内方偏位、上腕軸は外旋)、③脱臼関節自体の変形(三角筋部の膨隆消失、肩峰が角状に突出、三角筋胸筋三角:モーレンハイム窩の消失)、④上腕仮性延長、⑤肩峰下は空虚となり、烏口突起下に骨頭が触知できる。

【固定】①材料:巻軸包帯、副子(肩関節前後面にあてる)、腋窩枕子、三角巾。②肢位と範囲:肩関節軽度屈曲・内旋位で肩関節のみ。③期間:30歳代以下は5~6週間、40歳代以上は3週間

1.△ 肩関節軽度屈曲・内旋位が整復後の固定肢位と考えられる。※本症例は、肩関節前方脱臼(烏口下脱臼)と考えられる。第31回(R5年)柔道整復師国家試験 午前18において、肩関節烏口下脱臼の固定は、肩関節軽度屈曲・内旋位で固定することとなっている。この問題において、解答の選択肢3肩関節外転外旋位の理由が分かる方いらしたら、コメント欄にて教えてください。

2.4.× 肩関節下垂外旋位/肩関節内転内旋位は、整復後の固定肢位ではない。

3.〇 正しい。肩関節外転外旋位は、整復後の固定肢位である。厚生労働省の解答が3となっているが、分かる方いらしたらコメント欄にて教えてください。

 

 

 

 

 

問103 33歳の男性。倒立をしている時に転倒し、右の橈骨骨幹部遠位1/3部骨折に遠位橈尺関節背側脱臼を合併した。
 固定肢位で正しいのはどれか。

1.肘関節鋭角屈曲位、前腕回外位
2.肘関節鋭角屈曲位、前腕回内回外中間位
3.肘関節直角位、前腕回外位
4.肘関節直角位、前腕回内回外中間位

答え.4

解説

本症例のポイント

・33歳の男性。
・倒立をしている時に転倒。
・右の橈骨骨幹部遠位1/3部骨折
遠位橈尺関節背側脱臼を合併。
→本症例は、Galeazzi骨折(ガレアッチ骨折)が疑われる。Galeazzi骨折は、橈骨骨幹部の骨折と遠位橈尺関節の脱臼を伴う損傷である。前腕を強く回内して受傷した際に多く見られる。

1.× 肘関節鋭角屈曲位、前腕回外位は、モンテギア骨折(伸展型)の固定である。Monteggia骨折は、尺骨骨幹部骨折に橈骨頭前方脱臼が起きたものである。手をついて転倒・転落した際、前腕回内力が作用することで起こりやすい。

2.× 肘関節鋭角屈曲位、前腕回内回外中間位は、橈・尺骨骨幹部骨折の固定である。特に、遠位部骨折や転位が軽度かもしくは転位がないものである。

3.× 肘関節直角位、前腕回外位は、橈骨近位端骨折の固定である。

4.〇 正しい。肘関節直角位、前腕回内回外中間位が本症例の固定肢位である。ガレアッチ骨折とは、橈骨骨幹部中・下1/3境界部付近の骨折で、遠位橈尺関節部の尺骨頭脱臼を合併するものである。尺骨頭は多くが、背側に脱日する。固定は、肘関節直角位・前腕回内回外中間位である。再転位・再脱日などが生じやすく、尺骨神経損傷、手部尺側の疼痛、前腕回内・回外制限などを残すことがある。多くは観血的治療である。

 

 

 

 

 

問104 30歳の男性。1週前、野球の試合中バットを強く握りスイングした時、強い痛みを覚えた。受傷直後から小指のしびれを訴えている。手掌の遠位手根骨尺側部に強い圧痛を認めた。
 母指の運動で制限がみられるのはどれか。

1.屈曲
2.伸展
3.内転
4.外転

答え.3

解説

本症例のポイント

・30歳の男性。
・1週前:野球のスイング時、強い痛み。
・受傷直後:小指のしびれ
・手掌の遠位手根骨尺側部に強い圧痛を認めた。
→本症例は、尺骨神経麻痺が疑われる。尺骨神経麻痺とは、尺骨神経損傷により手掌・背の尺側に感覚障害やFroment徴候陽性、鷲手がみられる麻痺である。Froment徴候(フローマン徴候)とは、母指の内転ができなくなり、母指と示指で紙片を保持させると母指が屈曲位をとることである。Guyon管を通るものとして、①尺骨神経、②尺骨動脈である。

1.× 屈曲は、主に長・短母指屈筋(正中神経支配)が支配する。

2.× 伸展は、主に長・短母指伸筋(橈骨神経支配)が支配する。

3.〇 正しい。内転は、母指の運動で制限がみられる。これは、尺骨神経麻痺にみられるFroment徴候である。これは、母指内転筋は、尺骨神経深枝支配であるため起こる。

4.× 外転は、主に長・短母指外転筋(橈骨神経支配)が支配する。

 

 

 

 

 

問105 30歳の女性。パラグライダーで飛行後、右足関節伸展状態で着地して負傷した。歩行不能のため、友人に連れられ来所した。腫脹、限局性圧痛および足関節伸展時痛がみられる。母趾が直角に足底側に屈曲している。
 考えられるのはどれか。

1.踵骨骨折
2.距骨骨折
3.舟状骨骨折
4.立方骨骨折

答え.2

解説

本症例のポイント

・30歳の女性(パラグライダーで飛行)。
右足関節伸展(背屈)状態で着地して負傷。
・歩行不能のため、友人に連れられ来所。
・腫脹、限局性圧痛、足関節伸展(背屈)時痛がみられる。
母趾が直角に足底側に屈曲している。
→本症例は、距骨骨折が疑われる。ナウマン徴候を読み取れれば容易に解ける。それぞれの選択肢が否定できる点を挙げられるようにしよう。

1.× 踵骨骨折より優先されるものがほかにある。なぜなら、踵骨骨折の場合、足関節伸展(背屈)が行えないため。本症例は、足関節伸展(背屈)時に痛みはあるが遂行可能である。

2.〇 正しい。距骨骨折が考えられる。距骨体部骨折の原因は、高い所から落ちて足で踏ん張った際などに大きな力が加わり骨折する。症状として、炎症4徴候のほかに、ナウマン徴候(距骨骨折で生じる症状であり骨片が足関節後方に転位した際に、長母指屈筋腱を圧迫して腱には牽引力が働き第1足指が直角に屈曲する所見)がみられる。治療として、高度の圧迫骨折や転移の大きいものは観血療法を実施する。予後として、変形性関節症や阻血性壊死、機能障害を残すことが多い。

3.× 舟状骨骨折より優先されるものがほかにある。ちなみに、足の舟状骨骨折とは、①体部骨折と②粗面骨折に分かれる。一般的に、介遠外力によることが多い。①舟状骨体部骨折は、転落時の強い圧追などであり、②舟状骨粗面骨折は、足部の外転(後脛骨筋の牽引)などにより起こる。症状として、腫脹、限局性圧痛、骨片突出、第1~3中足骨からの介達痛、荷重痛、步行困難(踵での歩行は可能)、足関節の回内・外制限などがみられる。外傷性扁平足が残ると難治性の足痛となる。外脛骨や第1ケーラー病との鑑別が必要である。

4.× 立方骨骨折より優先されるものがほかにある。ちなみに、足の立方骨骨折とは、原因により2種類に分けられ、①直達外力(粉砕骨折、縦骨折、骨片骨折となる)、②介達外力(中足骨から踵骨間に挟まれる、舟状骨骨折に合併など)である。症状として、腫脹、限局性圧痛、第4~5中足骨からの介達痛、回内外運動制限、荷重痛、前足部変形などがみられる。まれにリスフラン関節脱臼を合併することがある。

 

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