第26回(H30年)柔道整復師国家試験 解説【午後106~110】

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問106 21歳の女性。空手の練習中、相手の肘で頬を強打された。2週後、両側の外耳孔前方に圧痛と同部の疼痛による開口制限があるため来所した。顎関節運動時にクリック音はなく、強制的に開口をさせると開口域増大を認めた。
 この患者で考えられるのはどれか。

1.咀嚼筋障害
2.関節包・靱帯障害
3.関節円板障害
4.変形性顎関節症

答え.2

解説

本症例のポイント

・21歳の女性。
・空手中、相手の肘で頬を強打。
・2週後:両側の外耳孔前方に圧痛同部の疼痛による開口制限
・顎関節運動時にクリック音はない
・強制的に開口をさせると開口域増大
→本症例は、顎関節症が考えられるが、症型分類(日本顎関節学会)と症状をしっかり押さえておく。それぞれの選択肢で否定できるようになろう。

1.× 咀嚼筋障害(Ⅰ型)より優先されるものが他にある。咀嚼筋障害とは、原因は炎症症状ではなく、歯ぎしりや食いしばり、噛みしめなどの噛み癖や、歯の噛み合わせの悪さなどで起こる咀嚼筋(咬筋、側頭筋、外側翼突筋、内側翼突筋)の機能不全である。頬杖やうつ伏せ寝、片側の顎で噛む癖、先天的な顎関節の異常、ストレス、外傷などがあげられる。

2.〇 正しい。関節包・靱帯障害(Ⅱ型)は、この患者で考えられる。関節包・靱帯障害(Ⅱ型)は、顎の捻挫ともいい、関節包や靭帯に過度な力が加わり、捻ったようになり、炎症する。両側の外耳孔前方に圧痛と同部の疼痛による開口制限がみられるが、顎関節運動時にクリック音はない。クリック音がみられるのは、Ⅲ型からである。

3.× 関節円板障害(Ⅲ型)より優先されるものが他にある。顎関節内障では、関節包の部分の異常を伴い、関節円板の前方転移を伴いう。したがって、口を開閉するときに「クリック音(カクカクとした音)」が出たり、「ロック(口を大きく開けられない)」などの症状が現れる。

4.× 変形性顎関節症(Ⅳ型)より優先されるものが他にある。顎関節に繰り返し強い負荷がかけられたり、その状態が長期間にわたって続いたとき、下顎頭の表面が吸収されてその回りに新しい骨がつくられることがある。口を開閉すると「シャリシャリ」や「パチパチ」といった種類の音がし、さらに骨膜炎など周囲の炎症を伴うと痛みも出る。

顎関節症の症型分類(日本顎関節学会)

Ⅰ型(咀嚼筋障害):咀嚼筋障害を主徴候としたもの。
Ⅱ型(関節包・靭帯障害):円板後部結合組織・関節包・靭帯の慢性外性病変を主徴候としたもの。
Ⅲ型(顎関節内障):関節円板の異常を主徴候としたもの。
Ⅳ型(変形性顎関節症):進行性病変を主徴としたもの。
Ⅴ型(精神的因子):上記のⅠ~Ⅳ型のいすれにも分類されないもの。顎関節部の違和感、咀嚼器官にみられる不定愁訴。

 

 

 

 

 

問107 22歳の女性。事務職員をしている。1週間前からパソコン作業をしていると右上肢に鈍痛と冷感を自覚するようになった。その後、通勤時に電車のつり革を握っていると上肢がだるく、鈍痛や冷感の症状が悪化することに気付き来所した。女性はなで肩である。
 陽性となる検査法はどれか。2つ選べ。

1.ドロップアームテスト
2.ルーステスト
3.スパーリングテスト
4.エデンテスト

答え.2・4

解説

本症例のポイント

・22歳の女性(事務職員:パソコン作業)。
・1週間前:右上肢に鈍痛と冷感(上肢がだるさ)
・その後:つり革を握っていると症状が悪化する。
・女性はなで肩である。
→本症例は、つり革を握る(肩関節外転:挙上)と症状が悪化することがポイントで、胸郭出口症候群が疑われる。胸郭出口症候群は、胸郭出口付近における神経と動静脈の圧迫症状を総称したものである。症状として、上肢のしびれ、脱力感、冷感などが出現する。胸郭出口は、鎖骨、第1肋骨、前・中斜角筋で構成される。原因として、①前斜角筋と中斜角筋の間で圧迫される斜角筋症候群、②鎖骨と第一肋骨の間で圧迫される肋鎖症候群、③小胸筋を通過するときに圧迫される小胸筋症候群、④頭肋で圧迫される頸肋症候群などがある。

1.× ドロップアームテストは、腱板損傷の検査である。方法は、座位で被験者の肩関節を90°より大きく外転させ、検者は手を離すテストである。

2.〇 正しい。ルーステストは、陽性となる検査法である。Roosテスト(ルーステスト)は、胸郭出口症候群で陽性となる検査である。腕を外転90度、外旋90度、肘を90度曲げた状態にし、この状態で指の曲げ伸ばし(グー・パー)を行う。これを3分間続けられなければ、陽性と判断する。

3.× スパーリングテストは、頚椎の椎間孔圧迫試験である。方法は、頭部を患側に傾斜したまま下方に圧迫を加える。患側上肢に疼痛やしびれを認めれば陽性である。陽性の場合、椎間板ヘルニアや頚椎症による椎間孔狭窄(頚部神経根障害)などが考えられる。

4.〇 正しい。エデンテストは、陽性となる検査法である。Edenテスト(エデンテスト)は、胸郭出口症候群誘発テストである。方法は、患者は座位になり胸を張った状態で両方の肩関節を伸展する。検査者は橈骨動脈の拍動をモニターして約1分程度保持する。橈骨動脈の拍動が減弱または消失した場合、胸郭出口症候群と判断する。

 

 

 

 

 

問108 46歳の女性。右手で瓶の蓋を回し開けようとした時、突然、示指が屈曲位となった。MP関節は30度屈曲位をとり、その位置からの屈曲は可能であるが伸展は不能であった。MP関節に明確な腫脹や熱感はなく、PIP関節の屈伸障害もみられない。
 この患者の圧痛部は図で示す部位のどれか。

1.a
2.b
3.c
4.d

答え.2

解説

本症例のポイント

・46歳の女性。
・右手で瓶の蓋を回し開けようとした時、突然、示指が屈曲位
MP関節30度屈曲位からの屈曲は可能であるが、伸展は不能
・MP関節に明確な腫脹や熱感はなく、PIP関節の屈伸障害もみられない
→本症例は、示指MP関節ロッキングが疑われる。示指MP関節ロッキングとは、ものを強く握った後に、MP関節伸展困難な状態を指す。第1指以外では、20~40歳代の女性の右手の示指に後発する。原因として、靭帯が関節の骨の出っ張りに引っかかる事によって起こる。徒手整復が無効な場合や習慣性の場合は、手術が適応となる。

1.× a(基節骨基部)は、基節骨骨端線離開などで圧痛がみられる。

2.〇 正しい。b(MP関節掌橈側)は、この患者の圧痛部である。なぜなら、本症例は示指MP関節ロッキングが疑われるため。MP関節掌橈側の圧痛と軽度腫脹がみられる。

3~4.× c/d(中手骨頸部)は、中手骨頸部骨折などで圧痛がみられる。

(※引用:「イラスト素材:手の骨」illustAC様より)

 

 

 

 

 

問109 21歳の男性。柔道の乱取り中、相手に技を掛けた時に自らもバランスを崩して転倒し、畳に指先を突き受傷した。疼痛が軽度であったので指先をテーピングで固定して練習を継続したが、次第に力が入りにくくなり、痛みも強くなったため中断した。この時の患部の写真を下図に示す。中指DIP関節の伸展は不能であるが、PIP関節の伸展は可能である。
 考えられるのはどれか。

1.指伸筋腱断裂
2.PIP関節背側脱臼
3.浅指屈筋腱断裂
4.正中索断裂

答え.1

解説

本症例のポイント

・21歳の男性。
・柔道の乱取り中、転倒、畳に指先を突き受傷。
・疼痛軽度、指先をテーピングで固定。
・次第に力が入りにくくなり、痛みも強くなった。
・中指DIP関節の伸展:不能
・PIP関節の伸展:可能
→本症例は、スワンネック変形となっている。スワンネック変形は、手指のDIP関節屈曲位・PIP関節過伸展位となる変形である。スワンネック変形は、外在筋由来の場合、浅指屈筋腱切断による屈筋力の低下や、手関節などの屈曲拘縮により総指伸筋腱が強く牽引されることがある。

1.〇 正しい。指伸筋腱断裂が考えられる。今回の設問の選択肢から、ほかの選択肢の可能性がほとんどないため、消去法となる。ちなみに、(総)指伸筋の【起始】上腕骨の外側上顆、前腕筋膜の内面と肘関節包、【停止】中央は中節骨底、両側は合して末節骨底、【作用】手関節の背屈、第2~5指の伸展、外転である。

2.× PIP関節背側脱臼は考えにくい。なぜなら、脱臼であれば、関節運動が困難(弾発性固定)となるため。ちなみに、PIP関節背側脱臼とは、背側脱臼が多く、掌側板の断裂や中節骨基部掌側顆部骨折を伴う。深指屈筋腱の断裂を合併すると、DIP関節の屈曲が不能となる。簡単に整復された場合や裂離した骨片が大きくなく転位や回転がほとんどない場合は保存的に治療するが、それ以外は早期に手術を行う。長軸方向への牽引は整復障害を助長するため行わない。

3.× 浅指屈筋腱断裂は考えにくい。なぜなら、本症例は、DIP関節の「伸展」が不能であるため。浅指屈筋の作用は、第2~5指の中手指節関節と近位指節間関節の屈曲である。ちなみに、【起始】上腕尺骨頭:上腕骨内側上顆、尺骨粗面の内側、橈骨頭:橈骨の上部前面、【停止】第2~5中節骨底の掌面である。

4.× 正中索断裂は考えにくい。なぜなら、正中索の断裂によりボタン穴変形が起こるため。ボタン穴変形とは、DIP過伸展・PIP屈曲する変形である。

PIP関節脱臼について

【種類】
①背側脱臼:掌側板損傷する
②掌側脱臼:正中索損傷する(ボタン穴変形)
③側方脱臼:側副靱帯損傷する(側方動揺性)

【固定法】
①DIP・PIP関節:軽度屈曲位
②正中索損傷の場合:PIP伸展位
③側副靭帯損傷の場合:隣接指間にパットを挟み固定

※示指PIP関節背側脱臼で正中索損傷を合併している稀な症例であるが、基本的に正中索損傷する(ボタン穴変形)に対する固定方法を行う。

 

 

 

 

 

問110 16歳の男子。高校では陸上部に所属し、長距離を専門としている。最近、競技会が近いため練習量を増やしたところ、脛骨の内側に痛みが生じ来所した。脛骨内側後縁部に沿った疼痛とストレッチング痛を認めた。
 この損傷の原因となるアライメント異常はどれか。

1.内反膝
2.扁平足
3.凹足
4.回外足

答え.2

解説

本症例のポイント

・16歳の男子(陸上部、長距離)。
・最近:競技会が近いため練習量を増やした
脛骨の内側に痛みが生じ来所。
脛骨内側後縁部に沿った疼痛とストレッチング痛あり。
→本症例は、シンスプリントが疑われる。合併症をあげられるようにしよう。

1.× 内反膝ではなく「外反膝」でシンスプリントの原因となる。

2.〇 正しい。扁平足は、この損傷の原因となるアライメント異常である。シンスプリント(脛骨過労性骨膜炎)とは、脛骨に付着している骨膜(筋肉)が炎症している状態である。運動中や運動後にすねの内側に痛みが出る。超音波にて治療を行う際は、下腿中央から遠位1/3部の脛骨後内方、前脛骨筋部、骨間膜などに照射する。足の裏のアーチ(いわゆる土踏まず)は着地によって地面から受ける衝撃を和らげるクッションのような役割を果たしている。土踏まずのない扁平足の人は地面からの衝撃がダイレクトに伝わるため、シンスプリントになりやすい。他にも、原因として、過度の運動量、運動時間、運動内容、フォームの変更、固いグランドや路面での練習、薄く硬いシューズの使用(踵の摩耗)、下肢の形態異常(外反膝、回内足、扁平足など)、足関節の柔軟性低下や下肢の筋力不足、足部の疲労による衝撃緩衝能の低下などである。

3.× 凹足は、シンスプリントと関連性は低い。凹足とは、土踏まずであるアーチが高まった状態である。腓骨筋の筋力低下や後脛骨筋の緊張により起こる。

4.× 回外足ではなく「回内足」でシンスプリントの原因となる。

 

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