第33回(R7年)柔道整復師国家試験 解説【午後51~55】

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問題51 姑息的手術でないのはどれか。

1.鼠径ヘルニアに対する前方修復術
2.直腸癌に対する人工肛門造設術
3.幽門狭窄に対する胃腸吻合術
4.脳圧亢進に対するシャント術

解答

解説

姑息的手術とは?

姑息的手術とは、病気を根本的に治すのではなく、患者さんの苦痛を和らげたり、一時的に症状を改善したりする目的で行われる手術である。延命やQOL(生活の質)向上を目指し、がんによる痛みや出血の緩和、食事をしやすくするためのバイパス手術などがこれにあたる。

1.× 鼠径ヘルニアに対する前方修復術は、姑息的手術でない
これは、根治手術である。鼠径ヘルニアとは、鼠径部の脆弱化した筋膜・腿膜の裂隙(すき間)から、壁側腹膜に包まれた腹腔内臓器が脱出したものである。主に2種類に大別される。①外鼠径ヘルニア、②内鼠径ヘルニアである。①外鼠径ヘルニアは、内鼠径輪からもともと存在する通路である鼠径管を通って腸管が脱出するものである。乳幼児期男児や成人男性に多い。②内鼠径ヘルニアは、横筋筋膜の脆弱化により、もともと穴が開いていない筋膜を突き破って腸管が脱出するものである。壮年期以降の男性に多い。症状として、鼠径部に膨らみができ、不快感や違和感、痛みが発生する。

2.〇 直腸癌に対する人工肛門造設術は、姑息的手術に該当する。なぜなら、人工肛門造設術は、癌によって腸管が閉塞したり、肛門機能が温存できない場合に、便の排泄路を確保するために行われるため。これは、癌そのものを切除したり治療したりするものではなく、癌によって引き起こされる症状(便秘、腸閉塞など)を緩和するための処置である。

3.〇 幽門狭窄に対する胃腸吻合術は、姑息的手術に該当する。なぜなら、胃腸吻合術は、狭くなった幽門を迂回するように胃と小腸を直接つなぎ、食物の流れを確保する手術であるため。これは狭窄の原因となっている病変(例えば腫瘍など)そのものを切除するものではなく、狭窄による症状(嘔吐、栄養不良など)を改善させるためのものである。
・幽門狭窄とは、胃の出口(幽門)が狭くなり、食物が十二指腸へ流れにくくなる状態である。

4.〇 脳圧亢進に対するシャント術は、姑息的手術に該当する。なぜなら、シャント術は、脳圧が異常に高まった状態(脳圧亢進)に対して、過剰な脳脊髄液を体の他の部位(通常は腹腔内)に流すことで、脳圧を低下させる手術であるため。この手術は、脳圧亢進の原因となっている病気(脳腫瘍、水頭症など)そのものを治療するものではなく、高すぎる脳圧という症状を軽減し、それによる脳へのダメージを防ぐことが目的である。

 

 

 

 

 

問題52 脳死と臓器移植で正しいのはどれか。2つ選べ。

1.脳死とは脳幹を含む全脳の不可逆的な機能喪失の状態である。
2.家族の同意があれば脳死下の臓器摘出は可能である。
3.臓器移植の急性拒絶反応の時期は3週以内である。
4.心臓移植の1年生存率は70~80%である。

解答1・2

解説

脳死の判定基準

脳死とは、脳幹を含む全脳の機能が停止した状態である。

①深い昏睡にあること
②瞳孔が固定し一定以上開いていること
③刺激に対する脳幹の反射がないこと
④脳波が平坦であること
⑤自分の力で呼吸ができないこと

の5項目を行い、6時間以上経過した後に同じ一連の検査(2回目)をすることで、状態が変化せず、不可逆的であることの確認できた場合。

1.〇 正しい。脳死とは、脳幹を含む全脳の不可逆的な機能喪失の状態である
脳死(全脳死)は、「脳幹を含む脳全体のすべての機能が不可逆的に停止した状態」と定義される。これは重篤な器質的脳障害により深昏睡となり無呼吸、人工呼吸器装着となった例の一部で起こる。いったん脳死に陥れば如何に全身管理を行っても1~2週間程度で心停止に至り、決して回復することはないことが確認されている。わが国では脳死判定は「臓器の移植に関する法律」(臓器移植法)に基づいており、臓器移植を前提とするときに適用され「法的脳死判定」とよぶ(※引用:「脳死」国際医療福祉大学大学院医学研究科 脳神経内科学 上智大学生命倫理研究所HPより)。

2.〇 正しい。家族の同意があれば、脳死下の臓器摘出は可能である。これはH22年から施行された改正臓器移植法において、15才未満の方からの脳死下での臟器移植も可能になり、また、虐待を受けた児童から臓器が提供されることがないよう所要の対策を講じることとなった。

3.× 臓器移植の急性拒絶反応の時期は、「3週以内」ではなく数か月である。
・生体腎移植とは、健康な人から2つある腎臓の1つを摘出し、それをレシピエント(援助者)に移植する方法である。術後の合併症には注意する必要がある。①急性拒絶反応、②原疾患の再発、③感染症、④糖尿病などが当てはまる。
①急性拒絶反応とは、主に術後1ヶ月周辺(遅い場合3か月とも)で現れることがあり、この場合は移植腎機能が低下し、クレアチニンの上昇、蛋白尿、尿量の減少、体重増加、発熱、浮腫などが出現する。腎生検のために入院となり、治療法としてステロイド、サイモグロブリンといった免疫抑制薬で拒絶反応の抑制を図る。

4.× 心臓移植の1年生存率は、「70~80%」ではなく97%である(※下表参照)。

(※図引用:「改正臓器移植法と子ども虐待」厚生労働省HPより)

 

 

 

 

 

問題53 急性出血の症状で誤っているのはどれか。

1.血圧低下
2.全身蒼白
3.徐脈
4.冷汗

解答

解説

ショックとは?

ショックとは、体液の喪失、心臓機能の低下、血管系虚脱などにより組織への酸素供給が障害され、放置すれば進行性に全身の臓器還流障害から急速に死に至る重篤な病態である。頻度的に最も多いのは出血性ショックである。出血性ショックとは、外傷や、消化管などからの出血によって血液循環量の低下が原因で起こるショックのことである。術後出血が原因となることもある。

1.〇 正しい。血圧低下は、急性出血の際にみられる。なぜなら、大量の出血によって体内の血液量が急激に減少すると、心臓が全身に血液を送り出す力が弱まるため。したがって、血管内の圧力である血圧が維持できなくなり、血圧が低下する。

2.〇 正しい。全身蒼白は、急性出血の際にみられる。なぜなら、大量出血が起こると、体は重要な臓器(脳や心臓など)への血流を優先的に確保しようとするため。したがって、皮膚や末梢の血管を収縮させて、そこへの血流を制限する。これにより、皮膚から赤みが失われ、青白く見える「全身蒼白」の状態となる。

3.× 徐脈は、急性出血の症状ではない。むしろ、頻脈が起こる。なぜなら、大量出血によって血圧が低下し、体内の血液量が減少すると、心臓は全身に十分な血液を送り出そうとして、より速く拍動する(頻脈)ようになるため。

4.〇 正しい。冷汗は、急性出血の際にみられる。なぜなら、急性出血によって体内の血液量が減少し、ショック状態に陥ると、交感神経が活性化されるため。交感神経の働きによって、末梢血管が収縮し、皮膚への血流が減少することで皮膚温が低下する。同時に、発汗中枢が刺激されて汗腺から汗が分泌されるが、皮膚温が低いため、それが冷たく感じられる「冷汗」として現れる。

 

 

 

 

 

問題54 心肺蘇生で誤っているのはどれか。

1.意識、呼吸、循環の順で評価する。
2.胸骨圧迫部位は左右の乳頭を結ぶ線の真ん中である。
3.胸骨圧迫は1分間に100回以上のテンポで行う。
4.除細動後は1分間蘇生を休止する。

解答

解説

一時救命処置(BLS)とは?

一時救命処置(BLS)とは、Basic Life Supportの略称で、心肺停止または呼吸停止に対する一次救命処置のことである。正しい知識と適切な処置の仕方さえ知っていれば誰でも行うことができる。

1.周囲の安全を確認
救助者の安全を最優先し、二次災害を防ぐためにまずは周囲の安全を確認する。

2.緊急通報とAEDを要請
大声で叫んで助けを呼ぶなど、周囲の人に119番通報とAEDの手配を頼む。  

3.呼吸を確認
普通の呼吸が確認できたら、回復体位(横向き)にして救急車を待つ。
呼吸をしていない、もしくは正常な呼吸でない場合はCPRを開始する。

4.CPR(心肺蘇生法)を開始
胸骨圧迫からはじめる。人工呼吸ができるようなら行うが、胸骨圧迫のみでも構わない。 

5.(AEDが入手できた場合)AEDで解析する

1.〇 正しい。意識、呼吸、循環の順で評価する(※上参照)。

2.〇 正しい。胸骨圧迫部位は、左右の乳頭を結ぶ線の真ん中である。これは、成人も小児も同じ部位となる。

3.〇 正しい。胸骨圧迫は1分間に100回以上のテンポで行う。これは、成人も小児も同じテンポとなる。ただし小児は、片手で実施することが多い。

4.× 除細動後は、1分間蘇生を休止する「必要はない」。むしろ、除細動後は、直ちに胸骨圧迫を再開する。なぜなら、心臓が正常なリズムに戻るまでの間、あるいは戻った後も心臓の機能が安定するまで、胸骨圧迫によって人工的に血液循環を維持する必要があるため。

MEMO

胸骨圧迫心臓マッサージ(胸骨圧迫)は、心肺蘇生法の一部である。胸骨圧迫とは、心停止した傷病者の心臓付近を圧迫することにより脳や心臓に血液の循環を促す心肺蘇生を目的とした一次救命処置である。成人と幼児で適する力の入れ具合や胸骨の沈み具合が異なる。成人では胸骨が、5cmほど沈むように胸骨圧迫をする。一方で、幼児では年齢に応じた体格の差があるため、成人のような絶対値を当てはめることができない。そのため、幼児においては個別の体格を判断したうえで、胸の厚さの1/3程度が沈む強さで胸骨圧迫を行うことが推奨されている。年齢にかかわらず100~120回を目安に行う。

 

 

 

 

 

問題55 非高血圧性脳内出血で正しいのはどれか。

1.被殻出血
2.視床出血
3.小脳出血
4.アミロイドアンギオパチー

解答

解説

非高血圧性脳内出血とは?

非高血圧性脳内出血とは、高血圧以外の原因で脳の血管が破れて出血する病気である。主な原因としては、①脳動静脈奇形、②脳アミロイドアンギオパチー、③脳腫瘍からの出血、④抗凝固薬などの薬剤の影響、⑤もやもや病:脳の血管が細くなる病気などである。

高血圧性脳内出血と比べて、発症する年齢層や出血部位、症状などが異なる場合があります。

1.× 被殻出血は、高血圧性脳内出血に該当する。
・被殻とは、大脳の中央部に左右1対あり、身体の運動調節や筋緊張、学習や記憶などの役割を持っている。したがって、被殻出血とは、頭痛や麻痺(片麻痺や顔面神経麻痺)、病側の共同偏視、優位半球障害時に運動失語、劣位半球障害時に失行・失認などがみられる。

2.× 視床出血は、高血圧性脳内出血に該当する。
・視床出血は、被殻出血と並んで頻度の高い脳出血である。脳出血全体の30%程度を占めている。そもそも視床は、感覚路の中継点(対側の四肢体幹および顔面の知覚を中継)である。したがって、麻痺に比べ、感覚障害が強くなる。

3.× 小脳出血は、高血圧性脳内出血に該当する。
・小脳出血とは、小脳に出血をきたしている状態で、一般的に後頭部痛、嘔気、嘔吐、めまい、歩行障害を引き起こす。小脳とは、後頭部の下方に位置し、筋緊張や身体の平衡の情報を処理し運動や姿勢の制御(運動系の統合的な調節)を行っている。

4.〇 正しい。アミロイドアンギオパチーは、非高血圧性脳内出血である。
・アミロイドアンギオパチーとは、脳の血管壁に「アミロイドβ」という特殊なタンパク質が沈着し、血管がもろくなる病気である。主に高齢者に多く見られ、脳出血や脳梗塞、認知機能の低下などを引き起こす。特に、高血圧がなくても脳出血を繰り返す原因となる点が特徴である。

 

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