第29回(R3年)はり師きゅう師国家試験 解説【午後151~155】

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次の文で示す症例について、問題151、問題152の問いに答えよ。
 「45歳の女性。主訴は倦怠感。1か月前より強くなった。寒がりで、動作が緩慢である。食欲低下、便秘、月経過多、徐脈を認める。」

問題151 最もみられる身体所見はどれか。

1.体重減少
2.頸部腫脹
3.圧痕が残る浮腫
4.深部反射亢進

解答

解説

本症例のポイント

・45歳の女性(主訴:倦怠感)
・1か月前より強くなった。
・寒がり、動作が緩慢。
・食欲低下、便秘、月経過多、徐脈。
→本症例は、橋本病(甲状腺機能低下症)が疑われる。橋本病とは、甲状腺に炎症が引き起こされることによって徐々に甲状腺が破壊され、甲状腺ホルモンの分泌が低下していく病気のことである。慢性甲状腺炎とも呼ばれる。甲状腺機能低下症になると、全身の代謝が低下することによって、無気力、疲れやすさ、全身のむくみ、寒がり、体重増加、便秘、かすれ声などが生じる。

1.× 体重は、「減少」ではなく増加する。
甲状腺機能低下症になると、全身の代謝が低下することによって、無気力、疲れやすさ、全身のむくみ、寒がり、体重増加、便秘、かすれ声などが生じる。

2.〇 正しい。頸部腫脹は、最もみられる身体所見である。
橋本病は、甲状腺に慢性的な炎症(慢性甲状腺炎)が起こり、甲状腺が腫れる。したがって、甲状腺が位置する頸部が腫脹する。

3.× 圧痕が残る浮腫
浮腫とは、体液のうち間質液が異常に増加した状態を指す。主に皮下に水分が貯留するが、胸腔に溜まった場合は胸水・腹腔に溜まった場合は腹水と呼ばれる。軽度の浮腫であれば、寝不足や塩分の過剰摂取、長時間の起立などが要因で起こることがある。病的な浮腫の原因はさまざまだが、①血漿膠質浸透圧の低下(低アルブミン血症など)、②心臓のポンプ機能低下による血液のうっ滞(心不全など)、③リンパ管の閉塞によるリンパ液のうっ滞、④血管透過性の亢進(アナフィラキシーショックなど)に大別することができる。

4.× 深部反射亢進は、錐体路徴候で見られる。
錐体路とは、大脳皮質運動野―放線冠―内包後脚―大脳脚―延髄―錐体交叉―脊髄前角細胞という経路をたどる。障害されることで片麻痺などの症状をきたす。

 

 

 

 

 

次の文で示す症例について、問題151、問題152の問いに答えよ。
 「45歳の女性。主訴は倦怠感。1か月前より強くなった。寒がりで、動作が緩慢である。食欲低下、便秘、月経過多、徐脈を認める。」

問題152 病証として最も適切なのはどれか。

1.腎陰虚
2.胃気虚
3.脾陽虚
4.風寒犯肺

解答

解説

本症例のポイント

・45歳の女性(主訴:倦怠感)
・1か月前より強くなった。
・寒がり、動作が緩慢。
食欲低下便秘月経過多、徐脈。
→西洋医学、東洋医学的な視点の切り替えが大切である。本症例は、陽虚が疑われる。陽虚(虚寒)は、寒証+気虚症状。寒がり、四肢の冷え、顔面蒼白、下痢、白色帯下、腹痛、自汗、倦怠感、息切れ、食欲不振、脈遅・弱などである。加えて、食欲低下、便秘、月経過多などの所見から、どの臓器か判断できる。

1.× 腎陰虚
腎陰虚は、手足心熱、のぼせ、耳鳴、難聴、腰膝酸軟、口乾、舌質紅、脈数などである。

2.× 胃気虚
胃陰虚は、食少、乾嘔、舌質紅絳、舌苔無などである。陰虚・内熱・気逆である。

3.〇 正しい。脾陽虚は、病証である。
脾陽虚は、腹部の冷え、水様便・未消化便、食欲不振、顔面蒼白、畏寒などである。本症例は、陽虚が疑われる。陽虚(虚寒)は、寒証+気虚症状。寒がり、四肢の冷え、顔面蒼白、下痢、白色帯下、腹痛、自汗、倦怠感、息切れ、食欲不振、脈遅・弱などである。

4.× 風寒犯肺
風寒犯肺は、悪寒、発熱、頭痛、咳嗽、無汗、鼻閉、鼻汁、脈浮緊などである。

 

 

 

 

 

次の文で示す症例について、問題153、問題154の問いに答えよ。
 「72歳の男性。主訴は頻尿。難聴がある。トイレは我慢できるが、夜間に少量の尿失禁があり、前立腺肥大症と診断された。以前から腰が冷えてだるい。舌は淡、脈は弱を認める。」

問題153 病態として最も適切なのはどれか。

1.溢流性尿失禁
2.切迫性尿失禁
3.反射性尿失禁
4.腹圧性尿失禁

解答

解説

本症例のポイント

・72歳の男性(主訴:頻尿、前立腺肥大症
・難聴がある。
・トイレは我慢できるが、夜間に少量の尿失禁がある。
・以前から腰が冷えてだるい。
・舌は淡、脈は弱を認める。
→前立腺肥大症とは、男性の膀胱の隣にある前立腺という臓器が大きくなっている状態で、排尿症状や蓄尿症状、排尿後症状などが現れる。原因ははっきりと断定できていないが、男性ホルモンの関与が指摘されている。また、肥満や高血圧、高血糖、脂質異常症なども関係があるといわれている。

尿失禁とは、【定義】自分の意思とは関係なく尿が漏れてしまうことであり、大きく2種類に大別される。①器質性尿失禁:排尿機構の障害に起因する。そこから①腹圧性、②切迫性、③溢流性、④反射性などがある。②機能性尿失禁:排尿動作の遅れなどに起因する。

1.〇 正しい。溢流性尿失禁が最も考えられる。
溢流性尿失禁とは、尿道が狭くなったり、膀胱から尿を出す力が弱くなったりすることで、尿意はあるが自分では尿を出せず、膀胱に大量の尿が溜まったときに少しずつ溢れるように出てしまうことである。前立腺肥大症の男性に多い。神経因性膀胱や重症の前立腺肥大症で、尿の排出がうまくできず、残尿が貯留し溢れることにより起こる。尿道留置カテーテルを挿入し、その後は自己導尿などの残尿を減らす治療が有効である。

2.× 切迫性尿失禁
切迫性尿失禁とは、膀胱が自身の意思に反して収縮することで、急に排尿したくなりトイレに行くまでに我慢できずに漏れてしまう失禁である。原因として膀胱にうまく尿がためられなくなる過活動膀胱が多く、脳血管障害など排尿にかかわる神経の障害で起こることもある。過活動性膀胱に対して、電気刺激療法や磁気刺激療法が有効とされる。

3.× 反射性尿失禁
反射性尿失禁とは、脊髄損傷により排尿をつかさどる神経が障害されており(神経因性膀胱)、膀胱に尿が充満した状態で反射的に尿が漏れてしまうものである。原因として、膀胱尿管逆流症や水腎症などの合併症が起こり得るため、治療法として間欠的な自己導尿も選択される。治療としては、自己導尿や排尿訓練などを行う。

4.× 腹圧性尿失禁
腹圧性尿失禁とは、腹圧をかけるような運動時(重い荷物を持ち上げたときなど)に尿が漏れる状態で、男性よりも女性に多くみられる。尿道括約筋を含む骨盤底の筋肉が弱くなることが原因で、加齢、出産、喫煙、肥満などと関連している。

過活動膀胱とは?

過活動膀胱とは、膀胱の蓄尿期において尿意切迫感があり、頻尿や尿失禁をきたす疾患である(切迫性尿失禁)。明らかな神経学的異常に起因する神経因性過活動膀胱と、原因を特定できない非神経因性過活動膀胱に分けられる。原因として、①加齢、②骨盤底筋の低下、③生活習慣病、④肥満などと関連するといわれている。有病率は高齢になるほど高くなる。過活動膀胱では、膀胱訓練や骨盤底筋訓練など機能訓練を行い、薬物療法で治療を行う。

骨盤底筋は子宮、膀胱、直腸を含む骨盤臓器を支える筋肉で、骨盤底筋を強化することで尿漏れ対策となる。仰臥位が基本的な姿勢であるが、伏臥位や座位など日常生活の中でどんな姿勢で行ってもよい。座位や膝立て背臥位などで、上体の力を抜いてお尻の穴を引き上げて「きゅっ」とすぼめ、5秒キープする動作を10~20回ほど繰り返す方法と、すぼめたりを繰り返す方法の2種類ある。

膀胱訓練とは、排尿の間隔を徐々に延長し、膀胱にためることができる尿量を徐々に増やしていくものである。最初は30秒程度からスタートし、徐々に我慢する時間を延ばしていく。

 

 

 

 

次の文で示す症例について、問題153、問題154の問いに答えよ。
 「72歳の男性。主訴は頻尿。難聴がある。トイレは我慢できるが、夜間に少量の尿失禁があり、前立腺肥大症と診断された。以前から腰が冷えてだるい。舌は淡、脈は弱を認める。」

問題154 治療方針として最も適切なのはどれか。

1.陰液を補う。
2.陽気を補う。
3.精の漏出を防ぐ。
4.痰を取り除く。

解答

解説

本症例のポイント

・72歳の男性(主訴:頻尿、前立腺肥大症)
・難聴がある。
・トイレは我慢できるが、夜間に少量の尿失禁がある。
・以前から腰が冷えてだるい。
・舌は淡、脈は弱を認める。
→本症例は、腎陽虚が疑われる。腎陽虚は、腰膝酸軟、冷え、畏寒、陽萎、不妊、泄瀉、夜間尿、舌苔白などである。

1.× 陰液を補う。
陰液とは、陰に属する血・津液・精をまとめた呼称である。気は陽に属する。陰虚に対し行う。

2.〇 正しい。陽気を補う
本症例は、腎陽虚が疑われる。腎陽虚は、腰膝酸軟、冷え、畏寒、陽萎、不妊、泄瀉、夜間尿、舌苔白などである。陽虚に対し行う。

3.× 精の漏出を防ぐ。
腎精不足は、倦怠感、発育不全、不妊、陽萎、耳鳴、視力減退、脱毛、腰膝酸軟などである。精の漏出を防ぐ。

4.× 痰を取り除く。
気の病証のひとつである痰湿(津液の停滞)は、湿・水:(身体が重だるい、浮腫、下痢)など、飲:腹鳴、動悸、喘息、浮腫など、痰:眩暈、咳嗽、頭痛、動棒、意識障害、精神障害などの状態をいう。

 

 

 

 

 

次の文で示す症例について、問題155、問題156の問いに答えよ。
 「24歳の女性。月経開始から2日間ほど月経痛が激しく、吐き気がある。腰痛もあるが、特に下腹部痛が強く憂うつになる。不正性器出血や月経周期の異常はなく、器質的な障害もない。」

問題155 下腹部痛の原因に最も関与するのはどれか。

1.ヒスタミン
2.アドレナリン
3.オキシトシン
4.プロスタグランジン

解答

解説

本症例のポイント

・24歳の女性。
・月経開始から2日間ほど月経痛が激しく、吐き気。
・腰痛、特に下腹部痛が強く憂うつ。
不正性器出血月経周期の異常はなし。
・器質的な障害もない。
→プロスタグランジンとは、子宮の内膜がはがれ落ちるときに増え、子宮を収縮させて、血液(経血)を押し出すはたらきがある。プロスタグランジンが過剰につくられると、子宮が激しく収縮するので、月経痛がひどくなる。

1.× ヒスタミン
ヒスタミンとは、アレルギー様症状を呈する化学物質である。組織周辺の肥満細胞や血中の好塩基球がアレルギー反応の際に分泌される。血圧降下血管透過性亢進、血管拡張作用がある。

2.× アドレナリン
アドレナリンとは、腎臓の上にある副腎髄質で合成・分泌されるホルモンである。主な作用は、心拍数や血圧上昇などがある。自律神経の交感神経が興奮することによって分泌が高まる。

3.× オキシトシン
オキシトシンとは、視床下部で合成され、脳下垂体後葉から分泌される。乳汁射出、子宮収縮作用がある。また、分娩開始前後には分泌が亢進し、分娩時に子宮の収縮を促し、胎児が下界に出られるように働きかける。

4.〇 正しい。プロスタグランジンは、下腹部痛の原因に最も関与する。
プロスタグランジンとは、子宮の内膜がはがれ落ちるときに増え、子宮を収縮させて、血液(経血)を押し出すはたらきがある。プロスタグランジンが過剰につくられると、子宮が激しく収縮するので、月経痛がひどくなる。また、一般的に、プロスタグランジンとは、細菌感染による急性炎症反応で増加する。プロスタグランジンは、①血管拡張、②気管支平滑筋収縮、③急性炎症時の起炎物質で発痛作用がある。非ステロイド性抗炎症薬<NSAIDs>は、炎症などを引き起こすプロスタグランジンの生成を抑え、抗炎症作用や解熱、鎮痛に働く。副作用として、消化器症状(腹痛、吐き気、食欲不振、消化性潰瘍)、ぜんそく発作、腎機能障害が認められる。したがって、非ステロイド性抗炎症薬が効果的であるのは、侵害受容性疼痛である。

MEMO

ケミカルメディエーターとは、化学伝達物質ともいい、細胞間の情報伝達に作用する化学物質のことである。肥満細胞が放出するケミカルメディエーターは、さまざまなアレルギー反応(血管透過性の亢進、血流の増加、炎症細胞の遊走など)を起こす。

【例】
・ヒスタミン
・ロイコトリエン
・トロンボキサン
・血症板活性化因子
・セロトニン
・ヘパリンなど。

 

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