第30回(R4年)はり師きゅう師国家試験 解説【午後151~155】

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次の文で示す症例について、問題151、問題152の問いに答えよ。
 「25歳の男性。3か月前から膨満感を伴う上腹部痛、嘔気が続く。症状はストレスで増悪、噯気で軽快する。下痢はない。舌は薄黄苔、脈は弦を認める。」

問題151 病証として最も適切なのはどれか。

1.肝胃不和
2.肝脾不和
3.脾腎陽虚
4.脾胃湿熱

解答

解説

本症例のポイント

・25歳の男性。
・3か月前:膨満感を伴う上腹部痛嘔気
・症状:ストレスで増悪、噯気で軽快。
・下痢はない。
・舌は薄黄苔、脈は
→本症例は、肝胃不和が疑われる。肝胃不和とは、肝臓・胃の機能が低下することを指す。肝臓の機能が低下すると、胃に悪影響を与え、便秘や膨満感、むかつき、ゲップ、嘔吐などの症状を引き起こす可能性がある。ちなみに、舌の薄苔は、健康、表証(症状が軽いもの)で、黄苔は、熱証を示す。弦脈(肝胆病、痛証、痰飲)は、琴の弦に触れたような、長く真っすぐで緊張したもの。

1.〇 正しい。肝胃不和が、この症例の病証である。
気逆証は、頭痛、眩暈、易怒、咳嗽、喘息、悪心・嘔吐、噯気、吃逆などをいう。肺気上逆・胃気上逆・肝気上逆などである。

2.× 肝脾不和(※読み:かんぴふわ)
肝脾不和とは、肝臓と脾臓の連携が乱れ、脾臓から肝臓への受け渡しがうまくいかない状態である。症状として、胃痛、腹痛、食欲不振、お腹や胸の張り、イライラ、憂うつ感などである。

3.× 脾腎陽虚(※読み:ひじんようきょ)
脾腎陽虚とは、脾と腎の陽が不足している状態である。脾腎陽虚になると、慢性の下痢や腰痛、浮腫(むくみ)、尿量減少、冷えなどが起こる。ちなみに、陽虚(虚寒)は、寒証+気虚症状。寒がり、四肢の冷え、顔面蒼白、下痢、白色帯下、腹痛、自汗、倦怠感、息切れ、食欲不振、脈遅・弱などである。

4.× 脾胃湿熱(※読み:ひいしつねつ)
脾胃湿熱とは、脾胃に湿熱が停滞した病態である。だるさ、体の重さなどの湿の症状に熱象の症状として口渇、皮膚の痒み、泥状の熱感を伴った排便など湿熱の症候を呈す。

 

 

 

 

 

次の文で示す症例について、問題151、問題152の問いに答えよ。
 「25歳の男性。3か月前から膨満感を伴う上腹部痛、嘔気が続く。症状はストレスで増悪、噯気で軽快する。下痢はない。舌は薄黄苔、脈は弦を認める。」

問題152 上腹部痛の性質として最も適切なのはどれか。

1.酸痛
2.脹痛
3.重痛
4.隠痛

解答

解説

本症例のポイント

・25歳の男性。
・3か月前:膨満感を伴う上腹部痛、嘔気。
・症状:ストレスで増悪、噯気で軽快。
・下痢はない。
・舌は薄黄苔、脈は弦。
→本症例は、肝胃不和が疑われる。肝胃不和とは、肝臓・胃の機能が低下することを指す。肝臓の機能が低下すると、胃に悪影響を与え、便秘や膨満感、むかつき、ゲップ、嘔吐などの症状を引き起こす可能性がある。ちなみに、舌の薄苔は、健康、表証(症状が軽いもの)で、黄苔は、熱証を示す。弦脈(肝胆病、痛証、痰飲)は、琴の弦に触れたような、長く真っすぐで緊張したもの。

1.× 酸痛は、気血不足・湿邪にみられる痛みの性質である。
湿邪は、陰性の邪気で重濁性、粘滞性、下注性がある。脾を損傷しやすい。気機を滞らせやすい。

2.〇 正しい。脹痛は、上腹部痛の性質である。
脹痛は、気滞にみられる痛みの性質である。(気鬱)気滞は、脹痛、胸悶、胸肋部痛、抑鬱感、腹部膨満感などで、増悪と緩解を繰り返し、不安定となりやすい。

3.× 重痛は、湿邪にみられる痛みの性質である。
湿邪は、陰性の邪気で重濁性、粘滞性、下注性がある。脾を損傷しやすい。気機を滞らせやすい。

4.× 隠痛は、虚証にみられる痛みの性質である。

 

 

 

 

 

次の文で示す症例について、問題153、問題154の問いに答えよ。
 「26歳の女性。なで肩で痩せている。主訴は右上肢全体の持続的なだるさ。腱反射は正常、スパーリングテスト、エデンテスト、ライトテストは陰性、アドソンテストは陽性。」

問題153 進行した際の症状として最も適切なのはどれか。

1.レイノー現象
2.筋トーヌス亢進
3.筋線維束性れん縮
4.手指巧緻運動障害

解答

解説

本症例のポイント

・26歳の女性(主訴:右上肢全体の持続的なだるさ)。
・なで肩で痩せている。
・腱反射:正常。
・スパーリングテスト、エデンテスト、ライトテスト:陰性。
・アドソンテスト:陽性。
→Adsonテスト(アドソンテスト)の陽性は、胸郭出口症候群を疑う。患者の頭部を検査側に回旋させ、患側上肢を伸展・外転位に保持し、橈骨動脈の拍動を確認したのち、患者に頭部を伸展・深呼吸させる。そして、再び橈骨動脈の拍動を確認する。

→胸郭出口症候群は、胸郭出口付近における神経と動静脈の圧迫症状を総称したものである。症状として、上肢のしびれ、脱力感、冷感などが出現する。胸郭出口は、鎖骨、第1肋骨、前・中斜角筋で構成される。原因として、①前斜角筋と中斜角筋の間で圧迫される斜角筋症候群、②鎖骨と第一肋骨の間で圧迫される肋鎖症候群、③小胸筋を通過するときに圧迫される小胸筋症候群、④頭肋で圧迫される頸肋症候群などがある。

1.〇 正しい。レイノー現象は、進行した際の症状である。
Raynaud現象(レイノー現象)は、四肢(特に手指)が蒼白化、チアノーゼを起こす現象である。膠原病(特に強皮症や混合性結合組織病)で起こりやすい。寒冷療法は禁忌である。

2.× 筋トーヌス亢進は、錐体路障害でよくみられる。

錐体路徴候は、深部腱反射亢進、病的反射(+)、表在反射(消失)、痙性麻痺がみられる。ちなみに、錐体路とは、大脳皮質運動野―放線冠―内包後脚―大脳脚―延髄―錐体交叉―脊髄前角細胞という経路をたどる。障害されることで片麻痺などの症状をきたす。

3.× 筋線維束性れん縮は、筋萎縮性側索硬化症によくみられる。
筋線維束性攣縮(※読み:きんせんいそくせいれんしゅく)は、小さく、かつ局所的な、皮膚下に観察することが可能な不随意な筋肉の収縮及び弛緩運動である。脊髄損傷、筋ジストロフィー、ライム病、クロイツフェルトヤコブ病、神経線維腫症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多系統萎縮症にみられる。過労やストレスが誘因することもある。

4.× 手指巧緻運動障害は、小脳障害でよくみられる。
なぜなら、小脳は、筋トーヌスと運動の調節に関与しているため。小脳とは、後頭部の下方に位置し、筋緊張や身体の平衡の情報を処理し運動や姿勢の制御(運動系の統合的な調節)を行っている。

”筋萎縮性側索硬化症とは?”

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、主に中年以降に発症し、一次運動ニューロン(上位運動ニューロン)と二次運動ニューロン(下位運動ニューロン)が選択的にかつ進行性に変性・消失していく原因不明の疾患である。病勢の進展は比較的速く、人工呼吸器を用いなければ通常は2~5年で死亡することが多い。男女比は2:1で男性に多く、好発年齢は40~50歳である。
【症状】3型に分けられる。①上肢型(普通型):上肢の筋萎縮と筋力低下が主体で、下肢は痙縮を示す。②球型(進行性球麻痺):球症状(言語障害、嚥下障害など)が主体、③下肢型(偽多発神経炎型):下肢から発症し、下肢の腱反射低下・消失が早期からみられ、二次運動ニューロンの障害が前面に出る。
【予後】症状の進行は比較的急速で、発症から死亡までの平均期間は約 3.5 年といわれている。個人差が非常に大きく、進行は球麻痺型が最も速いとされ、発症から3か月以内に死亡する例もある。近年のALS患者は人工呼吸器管理(非侵襲的陽圧換気など)の進歩によってかつてよりも生命予後が延長しており、長期生存例ではこれらの徴候もみられるようになってきている。ただし、根治療法や特効薬はなく、病気の進行に合わせて薬物療法やリハビリテーションなどの対症療法を行うのが現状である。全身に筋萎縮・麻痺が進行するが、眼球運動、膀胱直腸障害、感覚障害、褥瘡もみられにくい(4大陰性徴候)。終末期には、眼球運動と眼瞼運動の2つを用いたコミュニケーション手段が利用される。

(※参考:「2 筋萎縮性側索硬化症」厚生労働省様HPより)

 

 

 

 

 

次の文で示す症例について、問題153、問題154の問いに答えよ。
 「26歳の女性。なで肩で痩せている。主訴は右上肢全体の持続的なだるさ。腱反射は正常、スパーリングテスト、エデンテスト、ライトテストは陰性、アドソンテストは陽性。」

問題154 罹患筋への局所治療穴として適切なのはどれか。

1.屋翳
2.気戸
3.胸郷
4.天鼎

解答

解説

本症例のポイント

・26歳の女性(主訴:右上肢全体の持続的なだるさ)。
・なで肩で痩せている。
・腱反射:正常。
・スパーリングテスト、エデンテスト、ライトテスト:陰性。
・アドソンテスト:陽性。
→Adsonテスト(アドソンテスト)の陽性は、胸郭出口症候群を疑う。患者の頭部を検査側に回旋させ、患側上肢を伸展・外転位に保持し、橈骨動脈の拍動を確認したのち、患者に頭部を伸展・深呼吸させる。そして、再び橈骨動脈の拍動を確認する。

→胸郭出口症候群は、胸郭出口付近における神経と動静脈の圧迫症状を総称したものである。症状として、上肢のしびれ、脱力感、冷感などが出現する。胸郭出口は、鎖骨、第1肋骨、前・中斜角筋で構成される。原因として、①前斜角筋と中斜角筋の間で圧迫される斜角筋症候群、②鎖骨と第一肋骨の間で圧迫される肋鎖症候群、③小胸筋を通過するときに圧迫される小胸筋症候群、④頭肋で圧迫される頸肋症候群などがある。

1.× 屋翳(※読み:おくえい)
屋翳は、前胸部、第2肋間、前正中線の外方4寸に位置する。小胸筋の治療穴である。

2.× 気戸(※読み:きこ)
気戸は、前胸部、鎖骨下縁、前正中線の外方4寸に位置する。鎖骨下筋の治療穴である。

3.× 胸郷(※読み:きょうきょう)
胸郷は、前胸部、第3肋間、前正中線の外方6寸に位置する。小胸筋の治療穴である。

4.〇 正しい。天鼎(※読み:てんてい)が、罹患筋への局所治療穴である。
天鼎は、前頸部、輪状軟骨と同じ高さ、胸鎖乳突筋の後縁に位置する。斜角筋胸鎖乳突筋の治療穴である。

 

 

 

 

 

次の文で示す症例について、問題155、問題156の問いに答えよ。
 「32歳の女性。主訴は月経時の下腹部および腰の痛み。主訴の部位と手足の冷えを伴い、温めると改善する。月経血は暗紫色で血塊が混じる。婦人科では機能性月経困難症と診断された。」

問題155 最もみられる脈状はどれか。

1.浮緊
2.滑数
3.遅濇
4.細無力

解答

解説

本症例のポイント

・32歳の女性(主訴:月経時の下腹部・腰の痛み)。
・主訴の部位と手足の冷えを伴い、温めると改善する。
・月経血:暗紫色で血塊が混じる。
・機能性月経困難症。
→本症例は、瘀血の寒証が疑われる。瘀血は、疼痛(固定痛・刺痛、夜間に増悪)、腫脹、腫塊、肌膚甲錯。瘀斑、月経痛・血塊、皮下出血斑、色素沈着、紫舌・暗紅舌がみられる。

1.× 浮緊
浮脈(表証、虚証):軽く指を当てると拍動が感じられ、按じると感じ方が弱くなる、もしくは感じられなくなるもの。
緊脈(実寒、痛証):張った縄に触れたような、緊張して有力なもの。弦脈に似る。

2.× 滑数
滑脈(痰湿、食滞):脈の流れが滑らかで、円滑に指に触れるもの。
数脈(熱証):脈拍が速く、1呼吸に6拍以上のもの。

3.〇 正しい。遅濇が、最もみられる脈状である。
遅脈(寒証):脈拍が遅く、1呼吸に3拍以下のもの。
濇脈(渋)脈(血瘀):脈の流れが悪く、ざらざらとして渋滞したようなもの。

4.× 細無力
細脈(血虚):脈幅が小さく細いが、指にはっきり感じられるもの。

 

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