第28回(R2年)柔道整復師国家試験 解説【午後116~120】

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問題116 12歳の男児。野球のピッチャーである。毎日100球自主練習をし、週3回少年野球に参加している。1か月前から投球時に右肩部から上腕にかけて痛みが出現し、最近では日常生活でも痛みを感じるようになった。肩関節全体に痛みを訴えるが明らかな腫脹は認めない。大結節下方外側に圧痛と熱感がみられた。
 考えられるのはどれか。

1.腱板損傷
2.SLAP損傷
3.骨端線離開
4.化膿性関節炎

答え.3

解説

本症例のポイント

・12歳の男児(野球のピッチャー)
・毎日:100球自主練習、週3回:少年野球に参加。
・1か月前:投球時に右肩部から上腕にかけて痛みが出現。
・最近:日常生活でも痛みを感じる。
・肩関節全体:痛みあり、明らかな腫脹なし
大結節下方外側:圧痛と熱感あり。
→本症例は、骨端線離開が疑われる。各選択肢の疾患と症状をしっかり覚えておこう。

1.× 腱板損傷
腱板損傷とは、肩のインナーマッスルである棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の腱が損傷・断裂していることをいう。肩峰や上腕骨頭とのインピンジメント(衝突)で損傷されやすい棘上筋腱の損傷がほとんどである。好発年齢は、40歳以上の男性であり、腱板の上にある滑液包が強い炎症をおこし腫れたり、充血したり、水がたまったりする。画像所見やインピンジメントの誘発テストによって診断される。また、断裂と断裂部に関節液の貯留を認めるため、超音波(エコー)やMRI検査で診断することが多い。MRIは時間がかかることや体内に磁性体がある場合は行うことができない。また画像をスライスでしか確認できないため連続性を追いにくいといった特徴がある。

2.× SLAP損傷
SLAP損傷(Superior Labrum Anterior and Posterior lesion)とは、上方関節唇損傷のことをさす。野球やバレーボールなどのオーバーヘッドスポーツにおける投球動作やアタック動作などを反復することによって上腕二頭筋長頭腱に負荷がかかり、関節唇の付着部が剥がれてしまう状態を指す。また、腕を伸ばした状態で転倒した際に上腕骨頭の亜脱臼に合併してSLAP損傷が生じることや、交通事故などの外傷性機序で発症することがある。スポーツでは、スライディングで手をついたり、肩を捻った時に発症することがある。

3.〇 正しい。骨端線離開が考えられる。
骨端線離開とは、骨端線骨折ともいい、骨端線閉鎖前の成長期に繰り返し骨端線に負担がかかることで、骨同士が離れてしまう病態のことである。好発年齢は10歳〜15歳と言われる。ちなみに、骨端線とは、成長期に見られる骨を成長させる部分のことで、力学的に弱い部分である。

4.× 化膿性関節炎
化膿性関節炎とは、関節に細菌が入り込んで感染し、炎症を起こす病気である。 関節に炎症が起こると、その部位が激しく痛み、表面の皮膚が赤くはれあがって熱を持つ。 そのほか、全身に現れる症状として、悪寒や倦怠感、食欲の低下などがある。血液検査で高値を示すのは白血球数とCRPである。化膿性関節炎の感染経路は、①血行性感染(最も多い)、②外傷、手術、関節内注射などの直接感染、③骨髄炎、軟部組織感染などの近接病巣からの拡大などがある。 糖尿病や高齢者などの免疫機能が低下した患者に多くみられる。

 

 

 

 

 

問題117 25歳の男性。草野球の試合中にボールが右示指の指尖に当たり、PIP関節が過伸展強制され受傷した。PIP関節部の自発痛と腫脹が著明である。PIP関節の運動は不能であるが、DIP関節の屈曲は可能である。受傷時の単純エックス線写真を示す。
 正しいのはどれか。

1.掌側板の損傷を伴っている。
2.ボタン穴変形の危険性がある。
3.深指屈筋腱の断裂がある。
4.PIP関節伸展位での固定が必要である。

答え.1

解説

本症例のポイント

・25歳の男性。
・草野球中:PIP関節が過伸展強制され受傷。
・PIP関節部:自発痛と腫脹が著明。
・PIP関節の運動:不能、DIP関節の屈曲:可能。
・受傷時の単純エックス線写真:PIP関節の逸脱がみられる。
→本症例は、PIP関節背側脱臼が疑われる。PIP関節背側脱臼とは、背側脱臼が多く、掌側板の断裂や中節骨基部掌側顆部骨折を伴う。簡単に整復された場合や裂離した骨片が大きくなく転位や回転がほとんどない場合は保存的に治療するが、それ以外は早期に手術を行う。長軸方向への牽引は整復障害を助長するため行わない。背側脱臼では、掌側板損傷を合併しやすい。

1.〇 正しい。掌側板の損傷を伴っている
PIP関節背側脱臼とは、背側脱臼が多く、掌側板の断裂や中節骨基部掌側顆部骨折を伴う。簡単に整復された場合や裂離した骨片が大きくなく転位や回転がほとんどない場合は保存的に治療するが、それ以外は早期に手術を行う。長軸方向への牽引は整復障害を助長するため行わない。背側脱臼では、掌側板損傷を合併しやすい

2.× ボタン穴変形の危険性が低い
なぜなら、ボタン穴変形の原因として、正中索損傷があげられるため。PIP関節背側脱臼は、正中索損傷を合併している稀な症例であり、基本的に正中索損傷する(ボタン穴変形)に対する固定方法を行う。ちなみに、

3.× 「深指屈筋腱」ではなく掌側板の断裂がある。
掌側板とは、四角い線維軟骨性の板で、関節の掌側にひろがってその底部を形成している。停止部の厚さは2~3mmであるが、中枢に向かって薄くなり、弾力性のある膜状構造となっている。

4.× PIP関節「伸展位」ではなく屈曲位での固定が必要である。
固定法として、①DIP・PIP関節:軽度屈曲位、②正中索損傷の場合:PIP伸展位、③側副靭帯損傷の場合:隣接指間にパットを挟み固定とされる。

PIP関節脱臼について

【種類】
①背側脱臼:掌側板損傷する
②掌側脱臼:正中索損傷する(ボタン穴変形)
③側方脱臼:側副靱帯損傷する(側方動揺性)

【固定法】
①DIP・PIP関節:軽度屈曲位
②正中索損傷の場合:PIP伸展位
③側副靭帯損傷の場合:隣接指間にパットを挟み固定

※示指PIP関節背側脱臼で正中索損傷を合併している稀な症例であるが、基本的に正中索損傷する(ボタン穴変形)に対する固定方法を行う。

 

 

 

 

 

問題118 20歳の男性。自転車のタイヤ交換のためレバーを強く握った際、左示指MP関節部に突然の痛みを自覚した。以降、MP関節の完全伸展が不能となり来所した。初検時、関節部に軽度の腫脹と中手骨頭橈側に圧痛を認めた。示指MP関節は-30度まで伸展は可能であるが、それ以上の他動的伸展は不能であった。外観写真を別に示す。他指の関節運動は正常である。
 最も考えられるのはどれか。

1.示指基節骨が背側に転位している。
2.MP関節内に掌側板が嵌入している。
3.橈側側副靭帯が中手骨頭に乗りあげている。
4.指伸筋腱が橈側に脱臼している。

答え.3

解説

本症例のポイント

・20歳の男性。
・レバーを握った際:左示指MP関節部に突然の痛み。
・以降:MP関節の完全伸展が不能。
・初検時:関節部に軽度の腫脹と中手骨頭橈側に圧痛。
・示指MP関節:-30度まで伸展は可能
・他指の関節運動:正常。
→本症例は、示指MP関節のクロスフィンガー(ロッキングフィンガー)が疑われる。クロスフィンガーとは、患指が隣の指の下側に潜り込むという症状で、指が重なった状態で固定される。中手骨や基節骨の骨折時に生じる。

1.× 示指「基節骨」ではなく中手骨が背側に転位している。

2.× MP関節内に掌側板が嵌入しているのは、「母指のMP関節ロッキング」でみられる。
掌側板とは、四角い線維軟骨性の板で、関節の掌側にひろがってその底部を形成している。停止部の厚さは2~3mmであるが、中枢に向かって薄くなり、弾力性のある膜状構造となっている。

3.〇 正しい。橈側側副靭帯が中手骨頭に乗りあげている
本症例は、示指MP関節のクロスフィンガー(ロッキングフィンガー)が疑われる。クロスフィンガーとは、患指が隣の指の下側に潜り込むという症状で、指が重なった状態で固定される。中手骨や基節骨の骨折時に生じる。

4.× 指伸筋腱が、「橈側」ではなく尺側に脱臼している。
伸筋腱脱臼とは、手でこぶしをつくったときに、本来は関節の骨の真上に見える手の甲の腱が関節の小指側(尺側)のほうにずれる状態をいう。こぶしで物を殴ったあとや日常生活のちょっとした手の動作で生じることもあり、いつはずれたかわからない場合もある。

(※引用:「イラスト素材:手の骨」illustAC様より)

 

 

 

 

 

問題119 20歳の男性。剣道部に所属している。半年前から竹刀を振る際に右手関節の違和感を自覚していた。その後、徐々に疼痛が出現したため来所した。手関節背側に腫脹と圧痛および可動域制限と握力低下がみられた。手指の運動痛はない。写真に圧痛部位を示す。
 考えられるのはどれか。

1.月状骨軟化症
2.月状骨脱臼
3.尺骨茎状突起骨折
4.長母指伸筋腱腱鞘炎

答え.1

解説

本症例のポイント

・20歳の男性(剣道部)。
・半年前:竹刀を振る際に右手関節の違和感。
・その後:徐々に疼痛が出現した。
・手関節背側:腫脹、圧痛、可動域制限、握力低下。
・手指の運動痛:なし
→本症例は、月状骨軟化症が疑われる。手指の運動痛がないことから、炎症症状がみられていないことが予想できる。本症例の病状の様子と疾患名が一致するように覚えていこう。

1.〇 正しい。月状骨軟化症が考えられる。
Kienböck病(キーンベック病:月状骨軟化症)とは、月状骨がつぶれて扁平化する病気をいう。月状骨は手首(手関節)に8つある手根骨の1つでほぼ中央に位置している。月状骨は、周囲がほぼ軟骨に囲まれており血行が乏しいため、血流障害になり壊死しやすい骨の1つである。10~50歳代、男性、大工など手をよく使う人に好発する。治療は、初期では装具固定、進行例では手術療法を検討する。

2.× 月状骨脱臼
月状骨脱臼とは、手関節の強制背屈により生じた月状骨の掌側脱臼である。手首と手が痛み、形状にゆがみが生じることがある。迅速に治療されない場合、合併症として正中神経麻痺や月状骨の虚血性壊死が起こる。

3.× 尺骨茎状突起骨折
尺骨茎状突起骨折後は、手関節から手指にかけて強く腫れて痛みが生じ、手関節や手指が動かしづらくなる。

4.× 長母指伸筋腱腱鞘炎
長母指伸筋腱腱鞘炎とは、狭窄性腱鞘炎(de Quervain病:ドケルバン病)ともいい、短母指伸筋腱と長母指外転筋腱が原因で起こる腱鞘炎である。母指の使いすぎや妊娠出産期、更年期の女性に多く見られる。手首に腫れと痛みを伴い、母指を小指側に牽引したときに痛みが増強する。また、親指を握って尺屈すると疼痛が出現するフィンケルシュタインテスト(アイヒホッフテスト)で陽性となる。

 

 

 

 

 

問題120 50歳の女性。右手関節部の疼痛があり、ボタンかけが不自由になり来所した。手関節部に軽度の腫脹および圧痛を認め、ファーレンテスト陽性、フィンケルスタインテスト陰性。PerfectOの不整がみられた。
 感覚障害がみられないのはどれか。

1.示指
2.中指
3.環指
4.小指

答え.4

解説

本症例のポイント

・50歳の女性(ボタンかけが不自由)。
・右手関節部:疼痛があり。
・手関節部:軽度の腫脹、圧痛、ファーレンテスト陽性、フィンケルスタインテスト陰性。
・PerfectO:不整。
→本症例は、正中神経麻痺が疑われる。正中神経麻痺で、tear drop sign(ティア ドロップ サイン)または、perfect O(パーフェクト Oテスト)や、Phalen(ファレンテスト)が陽性となる。ファーレン徴候(Phalen徴候)とは、手首を曲げて症状の再現性をみる検査である。perfect O(パーフェクト Oテスト)とは、親指と人差し指の先端をくっつけて丸形を作る検査である。

→Finkelsteinテスト(フィンケルスタインテスト)の陽性は、長母指外転筋と短母指伸筋の狭窄性腱鞘炎を疑う。患側手の母指を4指に握らせて、さらに手関節を尺屈させる。

1.〇 示指は正中神経支配領域である。
示指は、手掌側全体と手背前1/2を支配する。

2.〇 中指は正中神経支配領域である。
中指は、手掌側全体と手背前1/2を支配する。

3.〇 環指は正中神経支配領域である。
環指は、手掌側内側半分を支配する。

4.× 小指は感覚障害がみられない。
なぜなら、尺骨神経支配であるため。

手根管症候群とは?

手根管症候群は、正中神経の圧迫によって手指のしびれや感覚低下などの神経障害が生じる。手根管(手関節付近の正中神経)を4~6回殴打すると、支配領域である母指から環指橈側および手背の一部にチクチク感や蟻走感が生じる(Tinel徴候陽性)。Tinel徴候のほか、ダルカン徴候(手根管部を指で圧迫するとしびれ感が増悪する)やファーレン徴候(Phalen徴候:手首を曲げて症状の再現性をみる)も陽性となる場合が多い。

 

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