第30回(R4年)柔道整復師国家試験 解説【午後111~115】

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問題111 23歳の女性。自宅の階段を踏み外して右膝関節を捻った。受傷直後は膝関節外側部に膨隆がみられたが、来所時には膨隆が消失していた。これまでも同じような症状が繰り返しあった。
 考えられるのはどれか。

1.サギングがみられる。
2.前方引き出しテストが陽性である。
3.アプリヘンションサインがみられる。
4.膝蓋骨外側部に圧痛がある。

答え.

解説

本症例のポイント

・23歳の女性。
・自宅の階段を踏み外して右膝関節を捻った
・受傷直後:膝関節外側部に膨隆。
・来所時:膨隆消失
・これまでも同じような症状が繰り返しあった。
→本症例は、炎症症状が見られていないことから、軟部組織の損傷とは考えにくい。炎症4徴候として、疼痛や腫脹、発赤、熱感があげられる。基本的に、RICE処置を実施する。RICE処置とは、疼痛を防ぐことを目的に患肢や患部を安静(Rest)にし、氷で冷却(Icing)し、弾性包帯やテーピングで圧迫(Compression)し、患肢を挙上すること(Elevation)である。頭文字をそれぞれ取り、RICE処置といわれる。

1.× サギングが「みられない」。
サギングとは、後十字靭帯損傷の検査である。膝屈曲位での下腿の後方落ち込み現象を観察する。

2.× 前方引き出しテストは、「陽性」ではなく陰性である。
前方引き出しテストとは、前十字靱帯損傷の検査である。背臥位にて患側膝90°屈曲位で、検者は下腿を前方に引く。

3.〇 正しい。アプリヘンションサインがみられる
Apprehension sign(アプレヘンジョンサイン、アプリヘンションサイン)とは、膝蓋骨の不安定性、及び不安定感を観察する検査である。膝蓋骨を外側に偏位させることで検査する。繰り返しの脱臼や亜脱臼が続くと、合併症である膝蓋大腿関節の軟骨軟化症や変形性関節症に移行する。症状の繰り返しと受傷直後の膨隆、その後の膨隆消失は、膝蓋骨の一時的な脱臼とその後の自然還復を示している可能性がある。

4.× 膝蓋骨外側部に圧痛があるとはいいきれない
膝蓋骨外側部の圧痛は、膝蓋骨外側過圧症候群や外側側副靱帯の損傷などが疑われる。本症例の場合、炎症症状がないことから確定・断定することが難しい。ちなみに、膝蓋骨外側過圧症候群とは、膝関節の外側の靭帯や筋肉が過剰に働き、膝のお皿(膝蓋骨)が外側に引っ張られている状態である。その状態で動作を繰り返したことで膝の内側・外側に痛みが生じる。原因は、主に太もも内側の筋力低下やランニング・ジャンプなどフォームの問題が挙げられる。特徴として歩行、坂道や階段昇降、長時間同じ姿勢を保持後の立ち上がり動作などで、膝が内に入るような動作を日常生活で繰り返し行うことで引き起こされる痛みである。特に女性に多い。

 

 

 

 

 

問題112 14歳の女子。ソフトボール部活動中、左投げで遠投をしたところ「ガクッ」と音とともに肩に違和感を自覚し来所した。左上腕を下方へ引き下げたところ、肩峰と上腕との間に間隙ができた。
 考えられるのはどれか。

1.動揺性肩関節症
2.リトルリーガー肩
3.ベネット(Bennett)損傷
4.肩峰下インピンジメント症候群

答え.

解説

本症例のポイント

・14歳の女子。
・ソフトボール部活動中:「ガクッ」と音とともに肩に違和感を自覚。
・左上腕を下方へ引き下げ:肩峰と上腕との間に間隙あり。
→本症例は、①痛みではない肩の違和感、②肩峰と上腕との間に間隙がみられている。炎症症状の記載は見られていないため、優先順位は低いと考えられる。

1.〇 正しい。動揺性肩関節症が考えられる。
動揺性肩関節とは、原因が外力や肩関節の軟部組織に異常がないにも関わらず、肩関節に動揺性を認める関節不安定症をいう。若年者や女性、投球やスパイクなどでオーバーアーム動作を行うスポーツ選手に多い。急性期は安静、ストレッチ、痛み止め・湿布の使用、物理療法などを行う。 回復期はリハビリテーション(筋力強化、ストレッチなど)の機能回復を行う。また、リハビリでは再発予防の指導も適宜行う。

2.× リトルリーガー肩
リトルリーガー肩とは、野球肩のひとつで、反復した投球動作によって起こる。使いすぎ障害として徐々に発症する場合が多い。リトルリーガー肩とは、成長過程にある少年、中学生前後では腕の骨の付け根に骨が伸びるための成長線が残っており、繰り返しの投球による牽引と回旋の力がかかることで、成長線を損傷することをいう。症状は、投球時の肩付近の痛みで発症する。痛みは投げるたびに徐々に強くなり、じっとしていても痛みを感じることがある。肩全体の痛みを訴えることが多いが、診察すると腕の付け根の外側に押すと痛い場所がある。ちなみに、野球肩は、滑液包炎、棘上筋腱炎、上腕二頭筋腱炎、肩甲上神経麻痺による棘下筋萎縮、インピンジメント症候群、上腕骨骨端線障害(リトルリーグ肩)など多くが含まれる。

3.× ベネット(Bennett)損傷
Bennett損傷(ベネット損傷)とは、軟部組織損傷ともいい、投球動作により上腕三頭筋長頭や肩関節後方関節包に繰り返しの牽引力がかかり起こる骨膜反応である。野球暦の長い選手、特に投手に多く、上腕三頭筋長頭や後方下関節包の拘縮を合併する。炎症を伴うため、疼痛があるときは投球を中止し、初期は、冷罨法、固定、提肘により運動を制限する。疼痛軽減後は、ストレッチ運動や筋力強化訓練を行う。

4.× 肩峰下インピンジメント症候群
肩峰下インピンジメントとは、上腕骨大結節と棘上筋腱停止部が、烏口肩峰アーチを通過する際に生じる、棘上筋腱の機械的圧迫のことである。この機械的圧迫は棘上筋腱に集中して発生する。つまり、肩の近くの関節の細いところで、骨同士の隙間が、こすれがあっている状態である。 原因として、年齢や疲労、姿勢の影響で動きの連携がとれずに衝突するとされている。炎症や出血を起こす。

 

 

 

 

 

問題113 13歳の男子。野球部の投手で右投げである。2週前から右肘関節内側に痛みを自覚した。診断は右肘内側側副靭帯損傷であった。
 一番負担のかかっていた投球動作区分はどれか。

1.ワインドアップ期
2.加速期
3.フォロースルー期
4.リリース期

答え.

解説

本症例のポイント

・13歳の男子(投手、右投げ)。
・2週前:右肘関節内側に痛みを自覚。
・診断:右肘内側側副靭帯損傷。
→右肘内側側副靭帯損傷は、投球による過度な外反ストレスに発症する。右肘内側側副靭帯損傷は、投球の加速期に痛みを認め、多くは徐々に痛みが出現する。

(図引用:『肩 その機能と臨床 第4版』より ※図中の丸は関係ない)

1.× ワインドアップ期(Wind up期)
ボールがグローブから離れるまでであり、特別な肩への負荷は加わらないのが特徴である。

2.〇 正しい。加速期(Acceleration期)が一番負担のかかっていた投球動作区分である。
なぜなら、肩関節が最大外転・外旋(MER:maximum external rotation)となっており肘関節に外反ストレスが生じるため。手からボールが離れるまでの期間である。肩の外旋→内旋の動きが強調されボールが加速するため、広背筋、大胸筋、大円筋が収縮し、腕が前方に移動するときには、肘関節内側にも負荷が加わる。

3.× フォロースルー期(Follow through)
ボールが手から離れて投球動作が終わるまでをいう。腕が振り抜けて肩甲骨の外転が強調され、手指は遠心力によって血行障害を起こすことがある。

4.× リリース期
肩の内旋と前腕の回内が強調されて腕は体の前方に振り出されるため、肩後方の筋が収縮しつつ牽引されるというエクセントリックな力が生じる。よって、肩後方に痛みが発生したり、ときには肩甲上神経を圧迫(棘下筋萎縮の原因)する。

 

 

 

 

 

問題114 30歳の男性。職業はプログラマーである。10日程前から前腕外側に腫脹と圧痛を自覚して来所した。来所時、母指を自動運動させると痛みが増強し握雪音が聴取できた。
 考えられるのはどれか。

1.回内筋症候群
2.狭窄性腱鞘炎
3.腱交叉症候群
4.三角線維軟骨複合体損傷

答え.

解説

本症例のポイント

・30歳の男性(プログラマー)。
・10日程前:前腕外側に腫脹と圧痛を自覚。
・来所時:母指を自動運動させると痛みが増強し握雪音が聴取。
→本症例は腱交叉症候群が疑われる。握雪音とは、雪を握るような音(ギュギュ)という音のことをいう。

1.× 回内筋症候群
円回内筋症候群とは、円回内筋の支配神経で上肢腹側の真ん中を通っている正中神経が、肘関節周辺で圧迫されて痛みや痺れ、筋肉の衰えなどの症状を起こす疾患である。

2.× 狭窄性腱鞘炎
狭窄性腱鞘炎(de Quervain病:ドケルバン病)とは、短母指伸筋腱と長母指外転筋腱が原因で起こる腱鞘炎である。母指の使いすぎや妊娠出産期、更年期の女性に多く見られる。手首に腫れと痛みを伴い、母指を小指側に牽引したときに痛みが増強する。また、親指を握って尺屈すると疼痛が出現するフィンケルシュタインテスト(アイヒホッフテスト)で陽性となる。

3.〇 正しい。腱交叉症候群が考えられる
腱交叉症候群(インターセクション症候群)とは、手首より少し肘側で交叉している部分に起こる腱鞘炎である。集中的に手を酷使する職業(大工仕事や手作業の多いデスクワーク、野球やテニス、バイクの運転など)に好発しやすく、好発年齢は30~50代である。治療法としては、炎症が起きているため、まず安静である。

4.× 三角線維軟骨複合体損傷
三角繊維軟骨複合体とは、遠位橈尺関節を安定化させている支持組織である。遠位橈尺関節は手関節に隣接して存在し、肘関節に隣接する近位橈尺関節と共に前腕の回内外運動を行う。遠位橈尺関節の安定性と衝撃吸収を担うため、三角線維軟骨複合体損傷は、疼痛や機能障害の原因となる。原因として、外傷である。 手関節部の強い衝撃や手関節への過剰な負荷の繰り返しにより起こるため、野球やテニスなどのスポーツが原因となることが多い。

 

 

 

 

 

問題115 20歳の男性。中華料理店でアルバイトをしている。最近、中華鍋を振る際、左手関節橈側付近に激しい痛みを自覚したため来所した。患部に熱感と腫脹がみられ、フィンケルスタインテストは陽性であった。
 物理療法で適切なのはどれか。

1.ホットパック療法
2.マイクロ波療法
3.局所浴療法
4.寒冷療法

答え.

解説

本症例のポイント

・20歳の男性(中華料理店で働く)。
・最近:鍋を振る際、左手関節橈側付近に激しい痛みを自覚。
・患部:熱感と腫脹がみられた。
・フィンケルスタインテストは陽性。
→本症例は、炎症が見られている。炎症4徴候として、疼痛や腫脹、発赤、熱感があげられる。基本的に、RICE処置を実施する。RICE処置とは、疼痛を防ぐことを目的に患肢や患部を安静(Rest)にし、氷で冷却(Icing)し、弾性包帯やテーピングで圧迫(Compression)し、患肢を挙上すること(Elevation)である。頭文字をそれぞれ取り、RICE処置といわれる。

→Finkelsteinテスト(フィンケルスタインテスト)の陽性は、長母指外転筋と短母指伸筋の狭窄性腱鞘炎を疑う。患側手の母指を4指に握らせて、さらに手関節を尺屈させる。

1.× ホットパック療法
本症例は、炎症が見られている。したがって、温熱療法は禁忌である。ちなみに、温熱療法の禁忌は、①急性炎症、②悪性腫瘍、③感覚障害と意識障害、④出血傾向、⑤循環障害・動脈硬化などである。ホットパックは、温熱療法の一つである。温熱療法の目的として、①組織の粘弾性の改善、②局所新陳代謝の向上、③循環の改善である。慢性的な疼痛に対する温熱療法の生理学的影響として、血行の改善によるケミカルメディエーター(痛み物質)の除去、二次的な筋スパズムの軽減、疼痛閾値の上昇などがある。

2.× マイクロ波療法
マイクロ波療法は、深部組織を温めるために用いられる電磁波療法である。極超短波療法(マイクロ波)とは、深部温熱療法である。2450MHzの電磁波を利用し、エネルギーの半価層(エネルギーが半減する深度)は、3~4cm、筋の加温に有効である。

3.× 局所浴療法
局所浴療法は、温熱療法の一つで、特定の部位に直接熱を適用する治療法である。主に関節の痛みや筋肉の緊張を緩和するために用いられる。

4.〇 正しい。寒冷療法を実施する。
本症例は、炎症が見られている。炎症4徴候として、疼痛や腫脹、発赤、熱感があげられる。基本的に、RICE処置を実施する。RICE処置とは、疼痛を防ぐことを目的に患肢や患部を安静(Rest)にし、氷で冷却(Icing)し、弾性包帯やテーピングで圧迫(Compression)し、患肢を挙上すること(Elevation)である。頭文字をそれぞれ取り、RICE処置といわれる。

寒冷療法の生理作用

寒冷療法の生理作用には、局所新陳代謝の低下、毛細血管浸透圧の減少、血管収縮とその後の拡張、感覚受容器の閾値の上昇、刺激伝達遅延による中枢への感覚インパルス減少、筋紡錘活動の低下等がある。これらの作用により、炎症や浮腫の抑制、血液循環の改善、鎮痛作用、筋スパズムの軽減が期待される。

(引用:「寒冷療法」物理療法系専門領域研究部会 著:加賀谷善教)

 

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