第30回(R4年)柔道整復師国家試験 解説【午後51~55】

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問題51 基本的外科手技で誤っているのはどれか。

1.外科結びは女結びより緩みにくい。
2.人工血管吻合に吸収性縫合糸を用いる。
3.抜糸の時期は顔面の方が体幹部より早い。
4.消化管吻合に自動吻合器が使用されることが多い。

答え.

解説

MEMO

・男結び:第一結節と第二結節が平行となる結び方で、通常この結び方を用いる。
・女結び:第一結節と第二結節が交叉する結び方で、緩みやすく通常は使用しない。
・外科結び:第一結節を作るときに二回交叉させる方法で、縫合操作中に第一結節が緩みにくいという利点がある。
・三重結び:通常の男結びに加え、結節の緩みを防ぐ目的でさらに一回結び目を作る方法である。ナイロン糸などの合成糸は結節が緩みやすいので三重結びを用いる。

1.〇 正しい。外科結びは女結びより緩みにくい。
外科結びは、第一結節を作るときに二回交叉させる方法で、縫合操作中に第一結節が緩みにくいという利点がある。

2.× 人工血管吻合には「吸収性縫合糸」ではなく非吸収性縫合糸を用いる。
人工血管の吻合(接続)には、非吸収性の縫合糸が一般的に使用される。これは、吸収性の縫合糸が時間と共に体内で吸収されると、血管の吻合部位が弱くなり、漏れや破裂のリスクが高まるためである。ちなみに、吸収性縫合糸とは、吸収されて体内で消失する糸のことである。一定の期間は創部を維持する抗張強度を有し、加水分解などで経時的に吸収される。糸の種類によって、抗張強度維持期間と吸収期間が異なる。主な使用部位は、消化管・筋膜・筋層・皮下組織・尿路生殖器などである。

3.〇 正しい。抜糸の時期は顔面の方が体幹部より早い。
なぜなら、顔面は血行が良く、治癒が早いため。一般的に、顔面の抜糸は手術後5~7日程度で行われ、体幹部や四肢の抜糸は7~14日程度後に行われる。

4.〇 正しい。消化管吻合に自動吻合器が使用されることが多い。
外科手術では、疾患部位を手術で摘出した後、分離している消化管などの環状臓器の断端を、その連続性を確保しながら結合する。これを吻合といい、手技による手縫いの代行を行うのが自動吻合器である。自動吻合器を用いることで、操作時間を短縮し、合併症のリスクを減らすことができる。

 

 

 

 

 

 

問題52 組織適合性抗原がすべて同じである2個体間での移植はどれか。

1.自家移植
2.同系移植
3.同種移植
4.異種移植

答え.

解説

組織適合性抗原とは?

組織適合性抗原とは、組織適合抗原や移植抗原とも言い、同種集団間で多型を示す細胞膜糖タンパク質の総称である。ヒトでは、HLA抗原(ヒト白血球抗原)が相当し、赤血球以外の細胞の表面に発現している。移植片と宿主との主要組織適合抗原が異なると重度の拒絶反応を引き起こす。

1.× 自家移植は、2個体間での移植に該当しない。
自家移植とは、自家造血幹細胞移植とも言い、ある個体の組織を同一の個体に移植することである。組織は自家移植片として移植される。例として、やけどの皮膚移植の際に、患者自身のやけどをしていない部分の皮膚を採取し、やけどの部分に移植する場合などが挙げられる。

2.〇 正しい。同系移植は、組織適合性抗原がすべて同じである2個体間での移植である。
同系移植とは、一卵性双生児や近交系の動物どうしなど、遺伝学的に同一な個体間で組織の一部を移植することである。移植免疫による拒絶反応は起こらない。

3.× 同種移植は、組織適合性抗原がすべて同じに該当しない。
同種移植とは、同種造血幹細胞移植と言い、同種(同じ種類の生物)から提供された造血幹細胞を移植する方法である。

4.× 異種移植は、組織適合性抗原がすべて同じに該当しない。
異種移植とは、生きている細胞、組織、または臓器を、ある種の個体から別の種の個体へ移植することである。

造血幹細胞移植とは?

造血幹細胞移植とは、健康な骨髄に置き換えることにより造血機能を回復させる治療であり、移植前処置として大量の化学療法や放射線照射など、自分自身の骨髄の造血幹細胞をすべて破壊する治療を受ける必要がある。患者に残存している白血病などの腫瘍細胞を減少させるほか、患者の免疫を十分に抑制して移植細胞を拒絶しないようにする目的で行われる。

 

 

 

 

 

問題53 誤っている組合せはどれか。

1.下部消化管出血:タール便
2.静脈性出血:非拍動性
3.鼻出血:キーゼルバッハ
4.血尿:尿管結石

答え.

解説
1.× 黒色軟便(タール便)となるのは、「下部消化管出血」ではなく上部消化管出血である。
下部消化管とは、小腸および大腸を指す。タール便とは、胃潰瘍など上部消化管出血のときに排出される血便の一種である。一般的に食道、胃、十二指腸からの出血は、ヘモグロビンの鉄が胃酸で酸化されるため起こる。一方で、左側結腸より肛門側の消化管出血で、赤色便がみられる。

2.〇 正しい。静脈性出血は、非拍動性である。
静脈性出血とは、暗赤色の血液が、傷口から持続的にわき出てくる出血(非拍動性)である。動脈性出血とは、鮮紅色の血液が、傷口から勢いよく拍動性に噴き出している出血である。

3.〇 正しい。鼻出血は、キーゼルバッハ部位が最も多い。
キーゼルバッハ部位とは、鼻に指をほんの少し入れたとき、その指先が内側(鼻中隔側)で触れることのできる中央の硬い部分である。ここには血管が多く集まっているため、鼻出血に最も関与する。

4.〇 正しい。血尿は、尿管結石が最も多い。
血尿とは、尿に血液が混ざっている状態を指す。主な原因として、悪性腫瘍や結石、膀胱炎などの炎症、腎臓の内科的な病気などが考えられる。ちなみに、尿管とは、腎臓(腎盂)から膀胱まで蠕動運動により尿を輸送する器官である。

尿路結石とは?

尿路結石症とは、尿路に、結石(尿に含まれるカルシウム・シュウ酸・リン酸・尿酸などが結晶化したもの)ができる病気である。結石のできる位置によって、腎結石(腎臓内にある結石) 、尿管結石、膀胱結石などと呼ばれる。結石ができる原因は明確に分かっていないが、リスク要因としては体質遺伝の他、生活習慣が大きく関わっているとされている。典型的な最初の症状は脇腹から下腹部にかけての突然の激痛である。 「動くと痛い」というのは結石の症状ではなく筋肉や骨からの症状のことが多いが、尿管結石の場合はじっとしていてももだえるほどの症状が出ることがある。 また、結石によって閉塞した部位の中枢側の尿路が拡張し、腰背部の仙痛発作が起こる。治療としては、①体外衝撃波腎・尿管結石破砕術、②経尿道的尿路結石除去術、③経皮的尿路結石除去術(もしくは②と③を同時に併用する手術)などがあげられる。

 

 

 

 

 

問題54 回転性めまい、ふらつき、頭痛を訴えた場合、脳内出血の部位で疑うのはどれか。

1.被殻
2.視床
3.小脳
4.くも膜下

答え.

解説
1.× 被殻
被殻とは、大脳の中央部に左右1対あり、身体の運動調節や筋緊張、学習や記憶などの役割を持っている。被殻出血の場合、頭痛や麻痺(片麻痺や顔面神経麻痺)が症状として見られる。

2.× 視床
視床とは、嗅覚以外のあらゆる感覚情報(体性感覚、痛覚、視覚、聴覚、味覚など)を大脳皮質に送る一大中継基地を担う。視床出血の場合は、被殻出血と並んで頻度の高い脳出血で、脳出血全体の30%程度を占めている。麻痺に比べ、感覚障害が強くなる。

3.〇 正しい。小脳を、回転性めまい、ふらつき、頭痛を訴えた場合、脳内出血の部位で疑う。
小脳とは、後頭部の下方に位置し、筋緊張や身体の平衡の情報を処理し運動や姿勢の制御(運動系の統合的な調節)を行っている。

4.× くも膜下
くも膜下出血とは、くも膜と呼ばれる脳表面の膜と脳の空間(くも膜下腔と呼ばれ、脳脊髄液が存在している)に存在する血管が切れて起こる出血である。約85%が、破裂脳動脈瘤が原因である。くも膜下出血ではくも膜下腔に血液が流入し、CTでは高吸収域として抽出される。合併症には、①再出血、②脳血管攣縮、③正常圧水頭症などがある。①再出血:発症後24時間以内が多く、死亡率も高い。②脳血管攣縮:72時間後〜2週間後(ピークは8〜10日)が多く、脳血管攣縮による梗塞の好発部位は、「前交通動脈」である。③正常圧水頭症:数週〜数ヶ月後に認知症状、尿失禁、歩行障害などの症状が出現する。

 

 

 

 

 

問題55 腹部外傷で誤っているのはどれか。

1.鈍的外傷の多くは交通事故が原因である。
2.脾損傷の治療に血管塞栓術がある。
3.肝損傷で腹腔内フリーエアーがみられる。
4.腹部外傷では多発外傷のことが多い。

答え.

解説
1.〇 正しい。鈍的外傷の多くは交通事故が原因である。
腹部外傷の原因として最も多いのは、鈍的外傷である。受傷機転として、交通事故と高所からの墜落や転落が大多数を占める。交通事故には四輪車の乗員、二輪車の乗員、自転車、歩行者等さまざまな形態が存在する。

2.〇 正しい。脾損傷の治療に血管塞栓術がある。
脾臓とは、左上腹部にあり、①古くなった血球(白血球、赤血球、血小板)の処理や、②感染に対する防御など免疫に関係する働きを担う。脾損傷(胃の辺りを強打)すると、脾臓が損傷を受け、脾臓を覆う膜や内部の組織が裂けることがある。脾損傷は、小さく裂けただけであれば自然に出血が止まるが、大きく裂けると激しく出血し、死に至るおそれがある。脾臓を覆う膜の内側や脾臓の奥深くに血のかたまり(血腫)ができることもある。したがって、主な合併症は,直ちにみられる出血および遅発性の血腫破裂である。血管塞栓術とは、血管内にカテーテルを挿入し、出血の原因となっている血管を精密に割り出して、そこに塞栓物質で詰めることにより出血部位への血流を遮断する治療である。

3.× 「肝損傷」ではなく消化管損傷で腹腔内フリーエアーがみられる。
腹腔内フリーエアーとは、腹腔内に空気がたまることである。本来、腹腔内の空間には空気がない。しかし、消化管(胃や大腸など)に穴が開くと中の空気が腹腔内に漏れ出す。この時、胸部レントゲンを立位で撮影すると、腹腔内にある空気が上に集まり、横隔膜の下(腹腔内)に空気がたまる。

4.〇 正しい。腹部外傷では多発外傷のことが多い。
なぜなら、腹部外傷の受傷機転として、交通事故と高所からの墜落や転落が大多数を占めるため。交通事故には四輪車の乗員、二輪車の乗員、自転車、歩行者等さまざまな形態が存在する。多発外傷とは、交通事故や高所からの転落などによる身体の損傷で、頭部・頚部、胸部、腹部、骨盤や四肢(手足)など複数の部位にわたって重い損傷を受けている状態のことをいう。複数の臓器に重い損傷を受けていることから、多発外傷は生命に危機がおよぶ状態といえる。

 

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