第30回(R4年)柔道整復師国家試験 解説【午後56~60】

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問題56 28歳の男性。バイク走行中に転倒し右側腹部を打撲した。意識清明、自立歩行可能で救急車にて来院した。待っている間に、冷汗が生じ顔面が蒼白となった。下腿浮腫はみられない。収縮期血圧60mmHg、脈拍126/分であった。
 考えられるのはどれか。

1.心原性ショック
2.アナフィラキシーショック
3.敗血症性ショック
4.出血性ショック

答え.

解説

本症例のポイント

・28歳の男性。
・バイクで転倒、右側腹部を打撲
・来院時:意識清明、自立歩行可能。
・待機中:冷汗顔面蒼白、下腿浮腫なし。
収縮期血圧60mmHg、脈拍126/分。
→本症例は、ショック状態が疑える。ショックとは、体液の喪失、心臓機能の低下、血管系虚脱などにより組織への酸素供給が障害され、放置すれば進行性に全身の臓器還流障害から急速に死に至る重篤な病態である。頻度的に最も多いのは出血性ショックである。出血性ショックとは、外傷や、消化管などからの出血によって血液循環量の低下が原因で起こるショックのことである。術後出血が原因となることもある。

1.× 心原性ショック
心原性ショックとは、心ポンプ機能の低下により、全身諸組織における循環不全(安静時における組織代謝需要を満たす血流が供給されない状態)が生じ、低酸素、アシドーシス、毛細血管透過性亢進をきたす重篤な病態を指す。全身および心筋組織の循環不全、低酸素化が生じ、アシドーシス、フリーラジカルの発生、サイトカインの増加、白血球凝集、血管内皮障害、微小循環障害などが生じる。心原性ショックの原因として最も多いのは急性心筋梗塞である。他にも、心臓ポンプ機能の異常による心筋収縮力低下のほか、心筋変性や心タンポナーデによる心室拡張不全、頻脈や徐脈などの不整脈で心拍出量が低下するなど、さまざまな病態が原因になる。

2.× アナフィラキシーショック
アナフィラキシーショックとは、アレルギー反応で起こるショックのことである。主にⅠ型アレルギー反応の結果、血管拡張や血管透過性の亢進による血漿漏出が生じ、循環血液量の減少をきたすことで起こる。ショックとは、体液の喪失、心臓機能の低下(血圧低下)、血管系虚脱などにより組織への酸素供給が障害され、放置すれば進行性に全身の臓器還流障害から急速に死に至る重篤な病態である。

3.× 敗血症性ショック
敗血症とは、感染症への反応が制御不能に陥ることで生命を脅かす臓器機能障害が生じる臨床症候群である。敗血症性ショックでは、組織灌流が危機的に減少する。肺・腎臓・肝臓をはじめとする急性多臓器不全が起こる場合もある。特に、新生児は免疫学的に未熟であるため重症化しやすく、肺炎や髄膜炎を併発することもある。そのため、早期診断、早期治療が極めて重要である。

4.〇 正しい。出血性ショックが考えられる。
出血性ショックとは、外傷や、消化管などからの出血によって血液循環量の低下が原因で起こるショックのことである。術後出血が原因となることもある。
【ショックの診断】
・心拍数:100回/分以上
・呼吸数:22回/分以上
・低血圧(収縮期血圧90mmHg)、または通常の血圧から30mmHgの低下
・尿量:0.5mL/kg/時
・意識障害が見られる。

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問題57 異常歩行と要因の組合せで正しいのはどれか。

1.鶏歩:大腿神経麻痺
2.失調性歩行:腰部脊柱管狭窄症
3.分回し歩行:脳性麻痺
4.トレンデレンブルグ歩行:変形性股関節症

答え.

解説
1.× 鶏歩は、「大腿神経麻痺」ではなく総腓骨神経麻痺である。
鶏歩は、足関節の背屈筋力低下(前脛骨筋の筋力低下:総腓骨神経麻痺)でみられる。鶏歩とは、垂れ足になり、踵を高く上げつま先から投げ出すように歩くこと。ちなみに、大腿神経麻痺は大腿四頭筋の筋力低下により歩行時の膝折れが起こる。

2.× 失調性歩行(酩酊歩行、よろめき歩行、ワイドベースとも)は、「腰部脊柱管狭窄症」ではなく運動失調(小脳障害・前庭障害)である。ちなみに、腰部脊柱管狭窄症とは、脊柱管が腰部で狭くなる(圧迫する)病気である。そのため、腰から下の神経に関連する症状(しびれや疼痛、脱力など)が出現する。歩行時には腰痛があまり強くならない事が多く、歩行と休息を繰り返す間歇性跛行が特徴である。

3.× 分回し歩行は、「脳性麻痺」ではなく片麻痺(錐体路障害や上位運動ニューロン障害)である。
脳性麻痺とは、お腹の中にいる間から、生後4週間までの間に発生した脳への損傷によって引き起こされる運動機能の障害を指す。失調型やアテトーゼ型などのタイプがある。

4.〇 正しい。トレンデレンブルグ歩行は、「変形性股関節症」である。
動揺歩行(トレンデレンブルグ歩行やアヒル歩行)は、肢帯筋の筋力低下(中殿筋の筋力低下やDuchenne型筋ジストロフィー)で起こる。ちなみに、二次性変形性股関節症とは、何らかの病気(ペルテス病や先天性股関節脱臼)やケガが原因でおこっている。日本では、この二次性が大半を占め、先天性股関節脱臼と臼蓋形成不全によるものが約90%、圧倒的に女性に多い。壊死部は修復過程を経て正常の骨組織に戻るが、形態異常を伴って修復完了した場合、将来的に変形性股関節症を生じる可能性がある。

アテトーゼ型脳性麻痺とは?

 アテトーゼ型は、麻痺の程度に関係なく四肢麻痺であるが上肢に麻痺が強い特徴を持つ。錐体外路障害により動揺性の筋緊張を示す。筋緊張は低緊張と過緊張のどちらにも変化する。他にも、特徴として不随意運動が主体であることや、原始反射・姿勢反射が残存しやすいことがあげられる。

 

 

 

 

 

問題58 小児骨折で誤っているのはどれか。

1.回旋変形は自家矯正される。
2.若木骨折は特徴的な骨折である。
3.骨端線損傷は剪断力が加わることで起こりやすい。
4.ソルター・ハリス分類のタイプⅡでは予後は良い。

答え.

解説
1.× 回旋変形は自家矯正「される」。
回旋変形とは、骨折時に捻れが強く加わった骨折である。下肢の回旋変形の場合、足部が外・内側に向いてしまう。ちなみに、自家矯正とは、骨折が曲がったまま、変形してくっついたとしても、自然にまっすぐになっていくことをいう。若いほど自家矯正能は高いとされているが、回旋変形は特に自家矯正されにくく、矯正可能な変形の強さは部位や程度、年齢によって変わる。

2.〇 正しい。若木骨折は特徴的な骨折である。
若木骨折とは、骨の膜の内側で、筋状にひびが入っている状態である。小児によくみられる。若木を折り曲げたときのように、ポキッと折れず連続性が一部保たれた不完全骨折である。不全骨折とは、何らかの理由により骨が連続性を完全に失わない状態の骨折を指す。いわゆる骨にヒビが入っている状態である亀裂骨折や、緻密層以下の部分が離断しているにも関わらず骨膜に損傷がないため、外形的には変化が見られない骨膜下骨折などがこの不全骨折の典型例である。

3.〇 正しい。骨端線損傷は剪断力が加わることで起こりやすい。
骨端線とは、成長軟骨帯(成長板)と呼ばれる成長期特有の軟骨組織のことである。骨に置き換わる現象(骨化)がおこり、骨は長軸方向に伸びていく。剪断力とは、外力を受けて部材が圧縮されたり、折り曲げられようとする時に、部材の両側に逆方向にずれて(部材をひし形に変形させて)抵抗しようとする力である。いわゆるズレの力といえる。

4.〇 正しい。ソルター・ハリス分類のタイプⅡでは予後は良い。
ソルター・ハリス分類(Salter-Harris分類)とは、成長板(骨端線)の骨折を評価するための一般的な分類法である。小児は大人と違って骨端に軟骨が挟まっており、そこから骨が成長する。タイプⅡは最も一般的なタイプで、成長板と骨端の一部が関与するが、多くの場合、完全に治癒し、長期的な成長障害を引き起こすことは少ない。

Salter-Harris分類とは?

ソルター・ハリス分類(Salter-Harris分類)とは、成長板(骨端線)の骨折を評価するための一般的な分類法である。小児は大人と違って骨端に軟骨が挟まっており、そこから骨が成長する。タイプⅡは最も一般的なタイプで、成長板と骨端の一部が関与するが、多くの場合、完全に治癒し、長期的な成長障害を引き起こすことは少ない。Salter-Harris法では異なる型に分類される。骨折がⅠ型からⅤ型に進むに従い、成長障害のリスクが高まる。

タイプⅠ:骨折線が成長板をまっすぐ通って進む。骨端線の完全分離である。
タイプⅡ:骨折線が成長板の上方へ伸びる、または成長板から離れて伸びる。骨端線の完全分離と骨幹端の三角骨片である。
タイプⅢ:骨折線が成長板の下方へ伸びる。骨端線の分離と骨端の骨片である。
タイプⅣ:骨折線が骨幹端、成長板、および骨端を通過して伸びる。骨幹端から関節軟骨にわたり縦断されたものである。
タイプⅤ:成長板が押しつぶされている。骨端軟骨が圧挫されたものである。
成長板だけでなく骨端も含む損傷(タイプⅢ~Ⅳ)または成長板を圧縮する損傷(タイプⅤ)は、予後不良である。

 

 

 

 

 

問題59 急性のスポーツ外傷で正しいのはどれか。

1.足関節が多い。
2.陸上競技で多い。
3.打撲が捻挫よりも多い。
4.繰り返し外力で生じる。

答え.

解説
1.〇 正しい。足関節が多い
スポーツ外傷で一番多いといわれている足関節の靱帯の損傷とされている。ただし、文献によって異なり、「障害部位別頻度は、膝部の37.9%を筆頭に、以下, 腰部29.1%, 肘部 20.7 %, 足部17.3%となっている」と記載されている(※引用:「スポーツ外傷の病態と対策」著:井形高明)

2.× 陸上競技で多いとはいえない
2020年度では、外傷・障害の発生件数はサッカーが最も多く、次いでアメリカンフットボール、陸上競技、テコンドー、野球の順であり、2021年度ではラグビーとバスケットボールの発生件数が増加した(※引用:「UNIVAS大学運動部活動におけるスポーツ外傷・障害の傾向」)。

3.× 打撲が捻挫よりも多いとはいえない
打撲は、捻挫に次ぐ頻度で発生している。ただし、打撲と捻挫のどちらが一般的かは、スポーツの種類や活動の性質によるところが大きい。例えば、フットボールやホッケーのような接触スポーツでは打撲が一般的かもしれないが、バスケットボールやバレーボールのような非接触スポーツでは捻挫が多い場合もある。

4.× 「繰り返し外力」ではなく慢性的な障害(過度使用症状)で生じる。
急性のスポーツ外傷は、一度の事故やインシデントによって引き起こされる。ちなみに、繰り返し外力で起こるのは、疲労骨折といえる。疲労骨折とは、1回の大きな外傷でおこる通常の骨折とは異なり、骨の同じ部位に繰り返し加わる小さな力によって、骨にひびがはいったり、ひびが進んで完全な骨折に至った状態をいう。好発部位は、腰椎が半数以上を占める。次に、中足骨35%、脛骨27%、肋骨12%、腓骨9%、尺骨・大腿骨・足関節の内側がそれぞれ3%である。

問題に対する疑問

「多い」という表現が、具体的にどれぐらいで多い・少ないか?何と比較して多いのか・少ないのか?疑問が残る。

 

 

 

 

 

問題60 骨関節結核で最も多い部位はどれか。

1.肩関節
2.脊椎
3.股関節
4.膝関節

答え.

解説

骨関節結核とは?

骨関節結核とは、結核菌が肺に初感染した後、血行性に骨関節での二次病巣を形成したものをさす。血液中に入った結核菌が、酸素分圧の血流が豊富な場所に定着し病巣を作るため、脊椎が最も多く、次に荷重される骨(股関節と膝関節:大腿骨や脛骨)に好発するとされている。ちなみに、脊椎に結核菌が肺に感染している状態を脊椎カリエスという。20歳代が好発年齢である。

2.〇 正しい。脊椎は骨関節結核で最も多い部位である。骨関節結核とは、結核菌が肺に初感染した後、血行性に骨関節での二次病巣を形成したものをさす。血液中に入った結核菌が、酸素分圧の血流が豊富な場所に定着し病巣を作るため、脊椎が最も多く、次に荷重される骨(股関節と膝関節:大腿骨や脛骨)に好発するとされている。ちなみに、脊椎に結核菌が肺に感染している状態を脊椎カリエスという。20歳代が好発年齢である。

1.3~4.× 肩関節/股関節/膝関節より骨関節結核が多い部位が他にある
血液中に入った結核菌が、酸素分圧の血流が豊富な場所に定着し病巣を作るため、脊椎が最も多く、次に荷重される骨(股関節と膝関節:大腿骨や脛骨)に好発するとされている。ちなみに、脊椎に結核菌が肺に感染している状態を脊椎カリエスという。20歳代が好発年齢である。

肺結核とは?

肺結核とは、結核菌による感染症で、体の色々な臓器に起こることがあるが多くは肺のことである。結核菌は、喀痰の中に菌が出ている肺結核の患者と密閉空間で長時間(一般的には数週間以上)接触することにより空気感染でうつる。リンパ節結核や脊椎カリエス(骨の結核)など、肺に病気のない結核患者からはうつらない。また肺結核でも、治療がうまくいって喀痰の中に菌が出ていない患者さんからはうつることはない。また、たとえ感染しても、発病するのはそのうち1割ぐらいといわれており、残りの9割の人は生涯何ごともなく終わる。感染してからすぐに発病することもあるが、時には感染した後に体の免疫が働いていったん治癒し、その後数ヶ月から数十年を経て、免疫が弱ったときに再び結核菌が増えて発病することもある。結核の症状には、咳、痰、血痰、熱、息苦しさ、体のだるさなどがある。

 

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