第32回(R6年)柔道整復師国家試験 解説【午後106~110】

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問題106 85歳の女性。朝の散歩中に手をついて転倒し、肩の痛みを感じた。痛みが引かないため夕方来所した。肩部の腫脹は著明で上腕部から前腕部にかけて皮下出血斑がみられた。肩関節の自動運動はわずかに可能で、異常可動性と軋轢音は触知できなかった。
 考えられるのはどれか。

1.腱板断裂
2.肩関節烏口下脱臼
3.上腕骨外科頸骨折
4.上腕二頭筋長頭腱断裂

解答

解説

本症例のポイント

・85歳の女性(朝:手をついて転倒)。
肩の痛みが引かないため夕方来所した。
・肩部の腫脹:著明、上腕部から前腕部:皮下出血斑
・肩関節の自動運動:わずかに可能。
・異常可動性と軋轢音は触知できなかった。
→それぞれ選択肢の症状をしっかり覚えておこう。

1.× 腱板断裂より優先されるものがほかにある。なぜなら、肩部の腫脹:著明、上腕部から前腕部:皮下出血斑は起きにくいため。腱板断裂とは、肩のインナーマッスルである棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の腱が損傷・断裂していることをいう。肩峰や上腕骨頭とのインピンジメント(衝突)で損傷されやすい棘上筋腱の損傷がほとんどである。画像所見やインピンジメントの誘発テストによって診断される。

2.× 肩関節烏口下脱臼より優先されるものがほかにある。なぜなら、異常可動性と軋轢音は触知できなかったため。脱臼の固有症状として、弾発性固定や変形がみられる。ちなみに、烏口下脱臼とは、肩関節前方脱臼(約90%)のひとつである。上腕骨頭が肩甲骨関節窩から前方に脱臼した症状で、①烏口下脱臼と②鎖骨下脱臼に分類される。関節全体を覆う袋状の関節包と靭帯の一部が破れ、突き出た上腕骨頭が烏口突起の下へすべることで起こる脱臼である。介達外力が多く、後方から力が加わる、転倒するなどで手を衝くことで過度の伸展力が発生した場合(外旋+外転+伸展)などに起こる。症状として、①弾発性固定、②関節軸の変化(骨頭は前内方偏位、上腕軸は外旋)、③脱臼関節自体の変形(三角筋部の膨隆消失、肩峰が角状に突出、三角筋胸筋三角:モーレンハイム窩の消失)、④上腕仮性延長、⑤肩峰下は空虚となり、烏口突起下に骨頭が触知できる。

3.〇 上腕骨外科頸骨折が考えられる。上腕骨外科頸骨折とは、上腕骨の骨折の中で、特に高齢者に多く発生する骨折の一つであり、骨頭から結節部にかけての太い部分から骨幹部に移行する部位で発生する。老年期とは、一般的に65歳以上をいう。
発生機序:肩外転位で手掌、肘を衝いて転倒
鑑別疾患:肩関節前方脱臼
好発年齢層:高齢者
腱板損傷:棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋
整復前の確認:腋窩動脈(橈骨動脈)、腋窩神経の確認

4.× 上腕二頭筋長頭腱断裂より優先されるものがほかにある。なぜなら、肩関節の自動運動:わずかに可能であるため。上腕二頭筋長頭腱断裂の場合は、肩関節の自動運動は保たれていることが多い。

上腕二頭筋長頭腱断裂とは?

上腕二頭筋の【起始】長頭:肩甲骨の関節上結節、短頭:肩甲骨の烏口突起、【停止】橈骨粗面、腱の一部は薄い上腕二頭筋腱膜となって前腕筋膜の上内側に放散、【作用】肘関節屈曲、回外(長頭:肩関節外転、短頭:肩関節内転)、【神経】筋皮神経:C5,C6である。

 

 

 

 

 

問題107 6歳の男児。自転車の練習中に転倒し、右肘関節伸展位で手掌部を付き受傷した。肘関節部に激しい痛みがあり来所した。肘関節部が後方に突出し前腕が短縮してみえる。ヒューター三角に乱れはない。
 この損傷の後遺症で起こりにくいのはどれか。

1.肘関節屈曲障害
2.外反肘変形
3.阻血性拘縮
4.骨化性筋炎

解答

解説

本症例のポイント

・6歳の男児(自転車の練習中に転倒)。
・右肘関節伸展位で手掌部を付き受傷。
・肘関節部に激しい痛みがあり。
肘関節部が後方に突出し前腕が短縮してみえる。
ヒューター三角に乱れはない
→本症例は、上腕骨顆上骨折が疑われる。上腕骨顆上骨折とは、小児の骨折中最多であり、ほとんどが転倒の際に肘を伸展して手をついた場合に生じる。転移のあるものは、肘頭が後方に突出してみえる。合併症は、神経麻痺(正中・橈骨神経)、フォルクマン拘縮(阻血性拘縮)、内反肘変形などである。ちなみに、フォルクマン拘縮とは、前腕屈筋群の虚血性壊死と神経の圧迫性麻痺により拘縮を起こすものである。

1.〇 肘関節屈曲障害がみられる。なぜなら、上腕骨顆上の部分には、肘関節を屈曲する筋肉が付着しているため。関節周囲の軟部組織の損傷が起こる。

2.× 外反肘変形は、本症例の損傷の後遺症で起こりにくい。一般的に、内反肘変形が起こる。したがって、後遺症として、内反肘変形を起こした際は、運搬角の減少が起こる。

3.〇 阻血性拘縮がみられる。阻血性拘縮とは、外傷や骨折などの際に起こる、阻血性の外傷後遺症である。 別名「フォルクマン拘縮」と言う。 小児の上腕骨顆上骨折の合併症として発症することが多い。 骨折やひどい打撲が起こると、腫脹や浮腫により、患部の動脈が強く圧迫される。

4.〇 骨化性筋炎がみられる。骨化性筋炎とは、打撲などの外傷によって、筋肉の中に骨と同じような組織ができてしまう疾患のことである。 外傷性骨化性筋炎、骨化性筋炎とも言う。 損傷を受けた筋肉が出血して血腫ができたところに、カルシウムが沈着し、石灰化しておこる。

肘関節後方脱臼とは?

肘関節後方脱臼は、青壮年に好発する。
原因:①肘関節過伸展の強制:肘関節伸展位で手をつく(転倒などの強い衝撃)
【症状】関節包前方断裂、疼痛、肘関節屈曲30度で弾発性固定、自動運動不可、肘頭の後方突出、上腕三頭筋腱が緊張(索状に触れる)、ヒューター三角の乱れ(肘頭高位)、前腕の短縮
【固定肢位】肘関節90°屈曲、前腕中間位(回内位も)
【固定範囲】上腕近位部からMP関節手前まで
【固定期間】靭帯損傷なし:3週間、不安定性がある場合4週間

 

 

 

 

 

問題108 58歳の男性。歩道の溝につまずき転倒し、前腕回内位で肘関節外反強制された。肘関節外側部の腫脹と圧痛がみられ、前腕回外運動で疼痛が増強する。
 この損傷で正しいのはどれか。

1.肘は内反位をとる。
2.肘関節前方脱臼を合併しやすい。
3.解剖学的整復が必要である。
4.前腕中間位で固定する。

解答

解説

本症例のポイント

・58歳の男性(歩道の溝につまずき転倒)。
・前腕回内位で肘関節外反強制された。
・肘関節外側部:腫脹と圧痛あり。
・前腕回外運動で疼痛が増強する。
→本症例は、上腕骨外顆骨折が疑われる。上腕骨外顆骨折の後遺症には、偽関節、外反肘、遅発性尺骨神経麻痺などがあげられる。ちなみに、上腕骨外顆骨折とは、①pull off型(肘伸展位で手掌を衝いて転倒し、肘に内転力が働き、前腕伸筋群の牽引作用により発生)と②push off型(肘伸展位または軽度屈曲位、前腕回内位で手を衝き転倒して発生)するタイプがある。

1.× 肘は、「内反位」ではなく外反位をとる。受傷起点で、前腕回内位で肘関節外反強制されることから、後遺症には、外反肘、遅発性尺骨神経麻痺などがあげられる。ちなみに、外反肘とは、上腕の軸に対して前腕の軸が、正常(10~15°程度外反)より外側を向いている状態(手部が外側に開く状態)である。

2.× 肘関節前方脱臼を合併しやすいのは、「上腕骨内側上顆骨折」である。上腕骨内側上顆骨折とは、その名の通り、上腕骨内側上顆と呼ばれる部位に生じた骨折である。思春期に多く、介達外力が多く、急な外転強制で前腕屈筋と内側側副靱帯の牽引により生じる。肘関節脱臼に合併して起こることが多い。前腕屈筋、回内筋群の牽引により骨片は前下方へ転位する。後遺症として、肘関節伸展障害、前腕回内・回外制限、尺骨神経麻痺があげられる。

3.〇 正しい。解剖学的整復が必要である。上腕骨外顆骨折の回転転位とは、骨折片が筋肉に引かれて回転している状態を指す。骨折部のずれが大きい場合は徒手整復が難しく、手術で転位した骨折片を元の位置に戻し、鋼線で固定する。したがって、回転転位が大きいもの、3mm以上の離開などは観血療法が適応となる。ちなみに、解剖学的整復とは、骨折部をできるだけ元通りのかたちで癒合することである。

4.× 前腕「中間位」ではなく回外位で固定する。上腕骨外顆骨折の固定は、肘関節80~90°屈曲位、前腕回外位、手関節経度伸展位である。

 

 

 

 

 

問題109 36歳の女性。4時間前にスノーボードで転倒し右手をついて受傷した。来所するまで特に処置は受けていない。来所時の写真を下に示す。手指の動きは良好で、感覚障害はみられない。
 当日の施術で誤っているのはどれか。

1.診断の確定に超音波画像を用いる。
2.患肢の挙上を指示する。
3.患部を金属副子、厚紙と包帯にて固定を行う。
4.しびれが増悪した際には固定を外すよう説明する。

解答

解説

本症例のポイント

・36歳の女性。
・4時間前にスノーボードで転倒し右手をついて受傷した。
・来所するまで特に処置は受けていない。
・来所時の写真:炎症所見著明
・手指の動き良好、感覚障害はみられない。
→本症例は、橈骨遠位端骨折が疑われるが、①4時間前に受傷、②炎症所見が著明である。したがって、まずは整形外科への受診までの応急処置が好ましい。炎症4徴候として、疼痛や腫脹、発赤、熱感があげられる。基本的に、RICE処置を実施する。RICE処置とは、疼痛を防ぐことを目的に患肢や患部を安静(Rest)にし、氷で冷却(Icing)し、弾性包帯やテーピングで圧迫(Compression)し、患肢を挙上すること(Elevation)である。頭文字をそれぞれ取り、RICE処置といわれる。

1.× 診断の確定に超音波画像を用いる優先度は低い。なぜなら、本症例は炎症所見が著明であるため。ちなみに、超音波画像は軟部組織の損傷を確認するには有用であるが、骨折の診断には一般的にX線画像が用いられるため。

2.〇 正しい。患肢の挙上を指示する。基本的に、RICE処置を実施する。RICE処置とは、疼痛を防ぐことを目的に患肢や患部を安静(Rest)にし、氷で冷却(Icing)し、弾性包帯やテーピングで圧迫(Compression)し、患肢を挙上すること(Elevation)である。頭文字をそれぞれ取り、RICE処置といわれる。

3.〇 正しい。患部を金属副子、厚紙と包帯にて固定を行う。なぜなら、本症例の場合、前腕の外観から橈骨遠位端骨折が疑われるため。患部を金属副子、厚紙と包帯にて固定を行うことで、患部を安静(Rest)にも寄与する。

4.〇 正しい。しびれが増悪した際には固定を外すよう説明する。なぜなら、しびれは、固定していることで、神経が圧迫されていたり、症状が増悪しているサインであるため。

 

 

 

 

 

問題110 10歳の女児。ソフトボールで補球した際、右手小指が外転強制された。右第5MP関節の腫脹と、基節骨基部に限局性の圧痛がみられる。MP関節伸展では小指は外転位をとり環指から離れている。DIPおよびPIP関節に異常はなかった。
 考えられるのはどれか。

1.MP関節捻挫
2.中手骨骨頭骨折
3.中手骨頸部骨折
4.基節骨骨端線離開

解答

解説

本症例のポイント

10歳の女児。
・ソフトボールで補球:右手小指が外転強制。
右第5MP関節の腫脹基節骨基部に限局性の圧痛
MP関節伸展では小指は外転位をとり環指から離れている
・DIPおよびPIP関節:異常はなかった。
→各選択肢の否定できる理由をあげられるようにしておこう。

(※写真引用:「手の基節骨骨端線離開」山北接骨院様HPより)

1.× MP関節捻挫より優先されるものがほかにある。なぜなら、本症例のMP関節伸展では小指は外転位をとり環指から離れていることが選択肢と合致しないため。一般的に、MP関節捻挫では、関節周囲の靭帯や軟部組織の損傷が原因で腫脹や圧痛が生じる。

2.× 中手骨骨頭骨折より優先されるものがほかにある。なぜなら、本症例の基節骨基部に限局性の圧痛が選択肢と合致しないため。一般的に、中手骨骨頭骨折の原因は、ほとんどが圧砕によるもので、粉砕骨折である。ちなみに、治療として、骨片が大きい場合は観血的な制服が必要である。

3.× 中手骨頸部骨折より優先されるものがほかにある。なぜなら、本症例の右第5MP関節の腫脹基節骨基部に限局性の圧痛が選択肢と合致しないため。一般的に、中手骨頸部骨折とは、ボクサー骨折と呼ばれ、通常第4~5中手骨の頸部に発生する。外力と骨格筋・虫様筋の作用により背側凸の変形がみられる。手を握ると患指骨頭が欠損して見える。中手骨の骨折は日常で良く発生し、骨折しても腫れや変形が目立ちにくいという特徴がある。

4.〇 正しい。基節骨骨端線離開が考えられる。MP関節伸展において、小指は外転位をとり環指から離れていることが特徴である。骨端線離開とは、骨端線骨折ともいい、骨端線閉鎖前の成長期に繰り返し骨端線に負担がかかることで、骨同士が離れてしまう病態のことである。好発年齢は10歳〜15歳と言われる。ちなみに、骨端線とは、成長期に見られる骨を成長させる部分のことで、力学的に弱い部分である。

 

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