第27回(H31年)はり師きゅう師国家試験 解説【午前76~80】

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次の文で示す症例について、問題75、問題76の問いに答えよ。
 「50歳の男性。主訴は体重減少。口渇、下肢の感覚鈍麻を認める。BMI30。空腹時血糖180mg/dl、HbA1c8.9%。」

問題76 本疾患について正しいのはどれか。

1.免疫機能は亢進する。
2.HbA1cは過去2週間の平均血糖値を反映する。
3.急性合併症には昏睡がある。
4.大血管障害には腎症がある。

解答

解説

本症例のポイント

・50歳の男性(主訴:体重減少)。
・口渇、下肢の感覚鈍麻。
・BMI30、空腹時血糖180mg/dl、HbA1c8.9%。
→本症例は、Ⅱ型糖尿病が疑われる。1型糖尿病の原因として、自己免疫異常によるインスリン分泌細胞の破壊などがあげられる。一方、2型糖尿病の原因は生活習慣の乱れなどによるインスリンの分泌低下である。運動療法の目的を以下に挙げる。

【糖尿病の診断基準】
・HbA1c:6.5%以上
・随時血糖値:200mg/dL以上
・空腹時血糖値:126mg/dL以上
・75g経口ブドウ糖負荷試験で2時間後血糖値:200mg/dL以上

1.× 免疫機能は、「亢進」ではなく低下する。
なぜなら、糖尿病は、高血糖状態であるため。高血糖状態は、細菌の好む環境である。また、糖尿病の人は、高血糖が続き血液の流れが滞り、組織まで血液が十分に到達せず、組織が酸素不足になり、白血球の機能が不十分となり、殺菌能が低下し、病原体が増殖しやすい。

2.× HbA1cは、過去「2週間」ではなく長期間(1~2ヵ月間)の平均血糖値を反映する。
HbA1Cは、ヘモグロビンのアミノ基とブドウ糖が結合したものである。HbA1Cは、ヘモグロビンの生体内における平均寿命(約120日)の半分程度、すなわち、過去1〜2ヶ月の血糖状態を表すため、血糖値よりも正確な血糖状態を評価することができる。

3.〇 正しい。急性合併症には昏睡がある
ケトアシドーシス昏睡は、糖尿病の急性合併症である。ケトアシドーシスとは、脂肪分解亢進によるケトン体の蓄積からアシドーシスが生じ、脱水・意識障害(重症になると昏睡)をきたす。糖尿病では、高度のインスリン作用不足という病態が原因である。

4.× 腎症があるのは、「大血管障害」ではなく最小血管障害である。
糖尿病性腎症とは、糖尿病の合併症で、糖尿病によって高血糖状態が持続し、腎臓の内部に張り巡らされている細小血管が障害を受けることで発症する。悪化すると腎不全に移行し、血液透析などが必要となる。糖尿病性腎症の場合、徐々に病気が進行するため、できるだけ早期に発見し、適切な治療をすることが重要である。糖尿病性腎症が原因で透析を受けることになった人が、全透析患者のうち44.1%と最も多い割合を占めている。一般的な糖尿病の食事療法としては、標準体重と身体活動量により摂取エネルギー量を算出し、50~60%が糖質、蛋白質が20%までとし、残りは脂質とする。また、糖尿病腎症の治療には血糖・血圧コントロールが重要であり、腎症 3 期(顕性腎症)では、食塩制限に加えたんぱく質摂取量にも注意が必要である。これは、たんぱく質や塩分がさらに腎臓に対し負担をかけるためである。つまり、①エネルギー量の管理、②食塩量の制限、③タンパク質量の調整が必要となる。

低血糖症状

血糖値が低下するとカテコラミン(インスリン拮抗ホルモン)の分泌が上昇し、交感神経刺激症状が出現する。さらに血糖値が低下すると脳・神経細胞の代謝が低下し、中枢神経症状が出現する。頭痛や空腹感などの比較的軽度な症状から始まるが血糖値が低下し続けると昏睡に至る。低血糖症状は、①自律神経症状と②中枢神経症状に分けられる。①自律神経症状は、冷感・顔面蒼白・頻脈・動悸・発汗・手の震え・空腹感などである。②中枢神経症状は、頭痛・集中力低下・視力低下・痙攣・昏睡などである。予防法として、飴や角砂糖などを携帯してもらう。

 

 

 

 

 

次の文で示す症例について、問題77、問題78の問いに答えよ。
「80歳の男性。1年前から夜間に人や子どもが見え、本当に人がいるように話しかけることもある。半年前から次第に動作が鈍くなってきた。最近は物忘れも出現している。」

問題77 本症例で動作が鈍くなってきた原因として正しいのはどれか。

1.下肢筋力の低下
2.歩行失行
3.パーキンソニズム
4.深部感覚障害

解答

解説

本症例のポイント

・80歳の男性。
・1年前:夜間に人や子どもが見え、本当に人がいるように話しかける(幻覚)。
・半年前:次第に動作が鈍くなってきた(動作緩慢)。
・最近:物忘れも出現。
→本症例は、レビー小体型認知症が疑われる。レビー小体型認知症とは、Lewy小体が広範な大脳皮質領域で出現することによって、①進行性認知症と②パーキンソニズムを呈する病態である。認知機能の変動・動揺、反復する幻視(人、小動物、虫)、パーキンソニズム、精神症状、REM睡眠型行動異常症、自律神経障害などが特徴である。実際にはいない人が見える「幻視」、眠っている間に怒鳴ったり、奇声をあげたりする異常言動などの症状が特徴的である。頭がはっきりしたり、ボーッとしたり、日によって変動することもある。レビー小体型認知症そのものを治す治療はなく、現状では症状に対する薬を使用して効果をみる。抗精神薬による精神症状のコントロールと抗パーキンソン病薬による運動症状の改善、自律神経障害に対しての血圧コントロールなどがある。

1.× 下肢筋力の低下より優先度が高いものが他にある
筋力低下は主に廃用症候群などで生じる。ちなみに、廃用症候群とは、病気やケガなどの治療のため、長期間にわたって安静状態を継続することにより、身体能力の大幅な低下や精神状態に悪影響をもたらす症状のこと。廃用症候群の進行は速く、特に高齢者はその現象が顕著である。1週間寝たままの状態を続けると、10~15%程度の筋力低下が見られることもある。

2.× 歩行失行
歩行失行とは、肢節運動失行のひとつで、歩行開始時に床から足が離れない、歩行の踏み出しが拙劣なことをいう。一次運動野のある中心前回と中心後回を結ぶ線維の障害で、左右どちらの半球でも対側にみられる。

3.〇 正しい。パーキンソニズムは、本症例で動作が鈍くなってきた原因である。
なぜなら、Lewy小体型認知症の症状の一つに、パーキンソニズムがあげられるため。パーキンソニズムとは、パーキンソン病の症状(①安静時振戦、②筋強剛(筋固縮)、③無動・寡動、④姿勢反射障害)を呈する疾患の総称のことをいう。パーキンソニズムは、脳の病気、脳損傷、または特定の薬剤や毒素によって引き起こされる。

4.× 深部感覚障害は、深部感覚の伝導路が障害されることで起こる。
例えば、視床出血やブラウン・セカール症候群などで生じる。ちなみに、【深部感覚(振動覚、位置覚)の伝導路】後根 ⇒ 後索(下肢からの線維は薄束を通って薄束核に終わり、上肢からの線維は楔状束を通って楔状束核に終わる) ⇒ 延髄(後索核) ⇒ 毛帯交叉 ⇒ 内側毛帯 ⇒ 視床後外側腹側核 ⇒ 感覚野

 

 

 

 

 

次の文で示す症例について、問題77、問題78の問いに答えよ。
「80歳の男性。1年前から夜間に人や子どもが見え、本当に人がいるように話しかけることもある。半年前から次第に動作が鈍くなってきた。最近は物忘れも出現している。」

問題78 本症例でさらに確認すべき症状はどれか。

1.物盗られ妄想
2.認知機能の日内変動
3.症状の階段状の悪化
4.欲動的な行動

解答

解説

本症例のポイント

・80歳の男性。
・1年前:夜間に人や子どもが見え、本当に人がいるように話しかける(幻覚)。
・半年前:次第に動作が鈍くなってきた(動作緩慢)。
・最近:物忘れも出現。
→本症例は、レビー小体型認知症が疑われる。

1.× 物盗られ妄想は、アルツハイマー型認知症に特徴的な症状である。
物盗られ妄想とは、記銘力障害により物を置いた場所を忘れてしまい、そのことを誰かが物を盗ったと妄想的に考えることで成立する。アルツハイマー型認知症とは、認知症の中で最も多く、病理学的に大脳の全般的な萎縮、組織学的に老人斑(アミロイドβの蓄積)・神経原線維変化の出現を特徴とする神経変性疾患である。特徴は、①初期から病識が欠如、②著明な人格崩壊、③性格変化、④記銘力低下、⑤記憶障害、⑥見当識障害、⑦語間代、⑧多幸、⑨抑うつ、⑩徘徊、⑩保続などもみられる。

2.〇 正しい。認知機能の日内変動は、レビー小体型認知症に特徴的な症状である。
レビー小体型認知症とは、Lewy小体が広範な大脳皮質領域で出現することによって、①進行性認知症と②パーキンソニズムを呈する病態である。認知機能の変動・動揺、反復する幻視(人、小動物、虫)、パーキンソニズム、精神症状、REM睡眠型行動異自律神経障害などが特徴である。実際にはいない人が見える「幻視」、眠っている間に怒鳴ったり、奇声をあげたりする異常言動などの症状が特徴的である。頭がはっきりしたり、ボーッとしたり、日によって変動することもある。レビー小体型認知症そのものを治す治療はなく、現状では症状に対する薬を使用して効果をみる。抗精神薬による精神症状のコントロールと抗パーキンソン病薬による運動症状の改善、自律神経障害に対しての血圧コントロールなどがある。

3.× 症状の階段状の悪化は、脳血管性認知症に特徴的な症状である。
階段状悪化とは、脳血管性認知症の症状が階段状に悪化することを指す。脳血管性認知症とは、脳血管が詰まったり破れたりすることで突然発症する。その後、脳血管が詰まったり破れたりするたびに、症状が悪化する特徴を持つ。その部位や範囲によって症状は様々である。他の症状として、巣症状(失語、失行、失認など脳の局所性病変によって起こる機能障害)や階段状に認知障害が進行することが特徴である。

4.× 欲動的な行動は、前頭側頭型認知症に特徴的な症状である。
前頭側頭型認知症とは、前頭葉・側頭葉に限局した萎縮性病変を認める症候群をいう。代表的な疾患にPick病がある。発症は初老期(40~60歳代)にみられる。初期は、自発性の低下、自発語の減少、偏食・過食、脱抑制などの人格変化・行動異常で潜行性に発症する。

 

 

 

 

 

次の文で示す症例について、問題79、問題80の問いに答えよ。
「67歳の女性。胸部エックス線写真で右上肺野の末梢側に2cm大の結節影があり、気管支内視鏡検査で肺癌と診断された。」

問題79 最も可能性が高い組織型はどれか。

1.腺癌
2.小細胞癌
3.大細胞癌
4.扁平上皮癌

解答

解説

本症例のポイント

・67歳の女性。
・胸部エックス線写真:右上肺野の末梢側に2cm大の結節影。
・気管支内視鏡検査:肺癌と診断。

1.〇 正しい。腺癌は、最も可能性が高い組織型である。
腺癌とは、腺組織とよばれる上皮組織から発生するがんである。 胃、腸、子宮体部、、乳房、卵巣、前立腺、肝臓、膵臓、胆のうなどに発生する。なかでも、胃がんの90%以上は、胃壁の最も内側の粘膜上皮細胞から発生する腺癌である。

2.× 小細胞癌
小細胞癌とは、肺がんの分類の一種で、肺がんの約10%を占め、肺がんの組織型の中では3番目に多いものである。 肺癌は、がんの組織の状態(組織型)によって、小細胞癌と非小細胞癌に分けられる。小細胞肺がんは、ほかの組織型と比べて進行が速く転移しやすいため、外科治療(手術)が可能な時期に発見されることは少なく、手術が行われることはまれである。発見した時には腫瘍やリンパ節転移が大きくなっていることが多く、根治することが難しいのが特徴である。タバコとの関係が強いがんのひとつで、気管支が分かれて肺に入っていく肺門(肺の中心部)に発生しやすいが、細い気管支が広がっている肺野どちらにも発生する。

3.× 大細胞癌
大細胞癌とは、扁平上皮や腺など、体の正常な組織に似たところがないがんのうち、細胞の大きなものを大細胞がんという。主に、肺の奥のほう(肺野部)の細かく枝分かれした先にできるが、大細胞がんは、肺がんのうち数%を占めるくらいである。

4.× 扁平上皮癌
扁平上皮癌とは、最上層が薄くて平らな細胞よりなる上皮からなる癌をいう。特徴として、分化度の異なる不均一からなる細胞から構成され、欠陥分布も均一性を欠く。好発部位は、舌が最も多く、次いで歯肉、頬、口底、口蓋である。一方、腺癌とは、腺組織とよばれる上皮組織から発生するがんである。 胃、腸、子宮体部、肺、乳房、卵巣、前立腺、肝臓、膵臓、胆のうなどに発生する。なかでも、胃がんの90%以上は、胃壁の最も内側の粘膜上皮細胞から発生する腺癌である。

上皮組織の形態による分類

・単層扁平上皮:薄いので物質の交換などに向く。
(胸膜、腹膜、血管内皮、肺胞など)

・単層立方上皮:甲状腺の濾胞細胞など。
(甲状腺の濾胞上皮、尿細管など)

・単層円柱上皮:吸収と分泌を行う場所に向く。
消化器系(胃、小腸、大腸)、卵管・子宮など

・重層扁平上皮:摩擦など機械的刺激に強い。
皮膚、口腔~食道、肛門、膣など。

・多列線毛上皮:表面に線毛があり、杯細胞が豊富。線毛と粘液で塵や異物をからめとる。
鼻腔~気管・気管支(気道)

・移行上皮:伸び縮みすることができる。
腎杯~尿管~膀胱(尿路)

 

 

 

 

 

次の文で示す症例について、問題79、問題80の問いに答えよ。
「67歳の女性。胸部エックス線写真で右上肺野の末梢側に2cm大の結節影があり、気管支内視鏡検査で肺癌と診断された。」

問題80 遠隔転移を調べる上で必要な検査はどれか。

1.呼吸機能
2.冠動脈造影
3.脳造影MRI
4.心エコー

解答

解説

本症例のポイント

・67歳の女性。
・胸部エックス線写真:右上肺野の末梢側に2cm大の結節影。
・気管支内視鏡検査:肺癌と診断。
→遠隔転移とは、がん細胞が最初に発生した場所(原発巣)から、血管やリンパ管に入り込み、血液やリンパの流れに乗って別の臓器や器官に移動し、そこで増殖することである。肺や肝臓、脳、骨など血液の流れが豊富な場所や、リンパの流れが集まる場所であるリンパ節に遠隔転移することが多い。

1.× 呼吸機能
呼吸機能検査とは、肺の能力を評価する検査であり、肺活量、1秒量、肺拡散能などを測定する。喘息、慢性閉塞性肺疾患や間質性肺炎(肺線維症)など、呼吸の機能が異常になる病気の診断や評価に使用される。

2.× 冠動脈造影
冠動脈造影とは、狭心症心筋梗塞を確定するために行われる検査である。足の付け根や手首からカテーテルという細くやわらかい管を挿入し、冠動脈の中にX線に反応する造影剤を入れ、X線撮影する。

3.〇 正しい。脳造影MRIが、遠隔転移を調べる上で必要な検査である。
肺がんが脳に転移する頻度は、全臨床経過では12.5~20.6%、剖検例では28~42%と報告されている。脳造影MRIとは、MRI検査で脳の血管の情報を画像化することである。脳の主要血管の形態診断や、くも膜下出血・脳梗塞等の脳血管障がい、動脈瘤等の脳血管の病変、脳腫瘍等の血行支配の状態等を調べることができる。

4.× 心エコー(心臓超音波検査)
心臓超音波検査(心エコー検査)とは、超音波を当てて心臓の大きさ、動き、弁の状態、血液の流れなどを観察し、ポンプが正常に働いているかどうかを判断する検査である。心筋梗塞や心臓肥大、弁膜症、先天性疾患などが発見できる。

(※図引用:「呼吸機能検査 フロー・ボリューム曲線」医學事始様HPより)

 

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