第27回(H31年)柔道整復師国家試験 解説【午後106~110】

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問題106 22歳の男性。サイクリングが趣味である。最近、右手の環指、小指のしびれを自覚し来所した。図の検査を実施し陽性であった。わずかであるが骨間筋と小指球筋に萎縮がみられた。また、前腕の感覚障害はみられなかった。
 他に考えられる所見はどれか。

1.下垂指
2.祝祷肢位
3.スワンネック変形
4.鉤爪指変形

答え.4

解説

本症例のポイント

・22歳の男性(趣味:サイクリング)
・最近、右手の環指、小指のしびれを自覚し来所した。
・図の検査:フローマン徴候陽性。
・骨間筋と小指球筋:萎縮、前腕の感覚障害なし。
→本症例は、尺骨神経麻痺が疑われる。フローマン徴候は、尺神経麻痺の診断に使用されるテストである。フローマン徴候とは、母指の内転ができなくなり、母指と示指で紙片を保持させると母指が屈曲位をとることである。ちなみに、尺骨神経麻痺は指の開閉運動障害や鷲手変形を生じる。

1.× 下垂指が出現するのは、後骨間神経麻痺(橈骨神経遠位の障害)で生じる。
下垂指(手首の背屈は可能だが、手指の付け根の関節の伸展ができなくなり、指のみが下がった状態)がみられる。

2.× 祝祷肢位(祈祷手)は、前骨間神経麻痺(正中神経麻痺の障害)によって生じる。
祝祷肢位とは、拳を握ろうとした時に環指と小指しか屈曲しない肢位のことをさす。

3.× スワンネック変形は、関節リウマチなどによっておこる。
スワンネック変形とは、MP関節屈曲、PIP関節過伸展、DIP関節屈曲する変形をいう。

4.〇 正しい。鉤爪指変形が考えられる所見である。
本症例は、尺骨神経麻痺が疑われる。フローマン徴候は、尺神経麻痺の診断に使用されるテストである。フローマン徴候とは、母指の内転ができなくなり、母指と示指で紙片を保持させると母指が屈曲位をとることである。ちなみに、尺骨神経麻痺は指の開閉運動障害や鷲手変形を生じる。

前骨間神経と後骨間神経について

前骨間神経と後骨間神経は、前腕の橈骨と尺骨という2つ骨の間を繋ぐ骨間膜の前後を走る神経である。両者とも触覚に異常がないのが特徴である。神経炎以外にも、外傷、絞扼性神経障害でも生じる。

【前骨間神経】
・肘の辺りで正中神経から分岐して主に母指(親指)と示指の第1関節を動かす筋肉を支配している。
→涙のしずくが陽性。

【後骨間神経】
・肘の辺りで橈骨神経から分岐して回外筋にもぐりこみ、指を伸展する筋肉を支配している。
→下垂指(drop finger)となる。

 

 

 

 

 

問題107 25歳の女性。2週前、転倒した際に右手を衝いて受傷したが、しばらく安静にしていたので症状は治まっていた。最近、手を使う作業が多く、手関節尺側に疼痛が出現してきたので来所した。手関節尺側部に圧痛があり、尺骨頭に軽度不安定性がみられた。
 困難な動作はどれか。

1.ドアノブを捻る。
2.食事を摂る。
3.顔を洗う。
4.文字を書く。

答え.1

解説

本症例のポイント

・25歳の女性。
・2週前:転倒、右手を衝いて受傷した。
・しばらく安静にし症状は治まっていた。
・最近:手を使う作業が多く、手関節尺側に疼痛が出現してきた。
手関節尺側部に圧痛尺骨頭に軽度不安定性あり。
→本症例は、TFCC損傷(三角線維軟骨複合体損傷)が疑われる。三角繊維軟骨複合体とは、遠位橈尺関節を安定化させている支持組織である。遠位橈尺関節は手関節に隣接して存在し、肘関節に隣接する近位橈尺関節と共に前腕の回内外運動を行う。遠位橈尺関節の安定性と衝撃吸収を担うため、三角線維軟骨複合体損傷は、疼痛や機能障害の原因となる。原因として、外傷である。 手関節部の強い衝撃や手関節への過剰な負荷の繰り返しにより起こるため、野球やテニスなどのスポーツが原因となることが多い。

1.〇 正しい。ドアノブを捻る
本症例は、TFCC損傷(三角線維軟骨複合体損傷)が疑われる。三角繊維軟骨複合体とは、遠位橈尺関節を安定化させている支持組織である。遠位橈尺関節は手関節に隣接して存在し、肘関節に隣接する近位橈尺関節と共に前腕の回内外運動を行う。遠位橈尺関節の安定性と衝撃吸収を担うため、三角線維軟骨複合体損傷は、疼痛や機能障害の原因となる。原因として、外傷である。 手関節部の強い衝撃や手関節への過剰な負荷の繰り返しにより起こるため、野球やテニスなどのスポーツが原因となることが多い。

2.× 食事を摂る。
これに必要な関節可動域と運動は、主に肘関節屈曲と指の微細運動である。

3.× 顔を洗う。
これに必要な関節可動域は、主に肘関節屈曲である。

4.× 文字を書く。
これに必要な運動は、主に指の微細運動である。

 

 

 

 

 

問題108 8歳の男児。6歳からサッカーを始めた。特に肥満はない。1か月前から右膝から大腿部にかけての疼痛を訴えていた。しばらく様子をみていたところ、母親が破行に気付き来所した。膝関節に腫脹や圧痛、不安定性などはなく、大腿部も若干の筋緊張はあるものの明確な所見はなかった。股関節は外転・外旋に制限がみられた。スカルパ三角部に圧痛を認め、パトリックテストも陽性であった。
 最も考えられるのはどれか。

1.鼠径部痛症候群
2.単純性股関節炎
3.ペルテス(Perthes)病
4.大腿骨頭すべり症

答え.3

解説

本症例のポイント

・8歳の男児(肥満なし)。
・6歳:サッカーを始めた。
・1か月前:右膝から大腿部にかけての疼痛。
破行(膝関節に腫脹や圧痛、不安定性などはなし)
・大腿部:若干の筋緊張はあるものの明確な所見なし。
・股関節:外転・外旋に制限あり。
・スカルパ三角部:圧痛、パトリックテスト:陽性。
→本症例は、仙腸関節機能不全(仙腸関節病変:仙腸関節・股関節の変形性疾患や炎症性反応)が疑われる。Patrick徴候(パトリック徴候)は、被験者を背臥位で患側側部を反対側の膝の上に置き、股関節屈曲・外転・外旋の肢位をとらせ、患側膝の内側部を背側に圧迫した時に、仙腸関節・股関節に痛みが出る所見である。

1.× 鼠径部痛症候群の場合、本症例のように跛行まで至ることは少ない。
鼡径部痛症候群とは、鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群)ともいい、ランニングや起き上がり、キック動作など腹部に力を入れたときに鼠径部やその周辺に痛みが生じものをさす。他の競技と比べサッカー選手に多く見られ、一度なると治りにくいのが特徴である。体幹から股関節周辺の筋や関節の柔軟性(可動性)の低下による拘縮や骨盤を支える筋力(安定性)低下による不安定性、体幹と下肢の動きが効果的に連動すること(協調性)が出来ず不自然な使い方によって、これらの機能が低下し、痛みと機能障害の悪循環が生じて症状が慢性化する。

2.× 単純性股関節炎の場合、股関節の炎症を伴う。
本症例のスカルパ三角部に圧痛はみられるものの、膝関節に腫脹や圧痛、不安定性などはない。他の選択肢により優先度が高いものがある。ちなみに、単純性股関節炎とは、原因は不明で、1週間ほど安静にしていれば痛みも治まり、自然治癒する。エックス線写真において、特段異常所見は見られない。3~10歳に好発する。超音波検査やMRIで関節液の貯留が確認される。

3.〇 正しい。ペルテス(Perthes)病が、最も考えられる。
Perthes病は、小児期における血行障害による大腿骨頭、頚部の阻血性壊死が起こる原因不明の疾患である。骨頭・頚部の変形が生じる。初期症状は、跛行と股関節周囲の疼痛や大腿部にみられる関連痛で、股関節の関節可動域制限も生じる。治療は大腿骨頭壊死の修復が主な目標であり、治療後は歩容の異常がなく、通常の日常生活を送れるようになることが多い。男女比は4:1である。好発年齢は、「6~7歳」である。発生率は1万人に1.5人と言われ、そのうち約10%が両側に発症するが、たいていは片方がなってから2年以内の違う時期に反対側が発症する。

4.× 大腿骨頭すべり症まで至ることは少ない。
なぜなら、本症例は肥満ではないため。大腿骨頭すべり症とは、大腿骨近位骨端軟骨の脆弱化、体重負荷により、大腿骨頭が頚部に対して、後下方に転位する疾患である。原因として、肥満と成長期のスポーツ活動による力学的負荷が大腿骨に加わるために生じる。成長ホルモンと性ホルモンの異常で発症することもある。9歳から15歳頃の股関節の成長軟骨板(成長線)が力学的に弱い時期に発症する。

 

 

 

 

 

問題109 36歳の女性。退職し母親の介護を始めた昨年から体重が10kg増加した。2週前から右足関節内果周辺に疼痛がみられ、内果後方から遠位にかけて軽度の圧痛を認めた。踵部は外反位を呈し、つま先立ちは痛みのため困難である。
 考えられる疾患はどれか。

1.内果疲労骨折
2.シンスプリント
3.変形性足関節症
4.後脛骨筋腱炎

答え.4

解説

本症例のポイント

・36歳の女性。
・昨年から体重10kg増加
・2週前:右足関節内果周辺に疼痛内果後方から遠位に軽度の圧痛。
・踵部:外反位つま先立ちは痛みのため困難。
→本症例は、後脛骨筋の走行に沿って炎症を起こしていると考えられる。

1.× 内果疲労骨折の場合、踵部は内反位となりやすい。
内果疲労骨折の原因は、踵接地時の足関節内反ストレス、足部の回内に伴う距骨の回旋、足関節過背屈、下肢のアライメント異常などが原因とされている。

2.× シンスプリントの場合、痛みの部位が一致しない。
シンスプリント(脛骨過労性骨膜炎)とは、脛骨に付着している骨膜(筋肉)が炎症している状態である。運動中や運動後にすねの内側に痛みが出る。超音波にて治療を行う際は、下腿中央から遠位1/3部の脛骨後内方、前脛骨筋部、骨間膜などに照射する。

3.× 変形性足関節症の場合、踵部は内反位となりやすい。
変形性足関節症では、足首の腫れと痛み、内反変形が出現する。足関節は重力の影響から負担がかかりやすい関節であり、病状が進行することで関節の軟骨損傷が進んで痛みが増強し、歩行もままならなくなることもある。

4.〇 正しい。後脛骨筋腱炎が考えられる疾患である。
本症例は、後脛骨筋の走行に沿って炎症を起こしていると考えられる。後脛骨筋腱腱鞘炎(後脛骨筋腱腱鞘滑膜炎)は、後脛骨筋腱の周りを保護している被膜(腱鞘)の炎症である。後脛骨筋腱が損傷したり炎症を起こしたりすることがある。ちなみに、後脛骨筋の【起始】下腿骨間膜の後面上半、下腿骨間膜に接する脛骨と腓骨、【停止】舟状骨粗面、内側、中間、外側楔状骨、立方骨、第2~3中足骨底、【作用】足関節底屈、内返し、【支配神経】脛骨神経(L5~S2)である。後脛骨筋機能不全とは、足の土踏まず(アーチ)を形成するために重要な後脛骨筋腱が加齢により劣化し、扁平足変形を生じる病態である。 中年以降の女性に多いとされている。内くるぶしや足裏に痛みが生じるが、初期段階では程度は軽く痛みを感じない方もいる。痛み自体は弱いものの初期でも内くるぶしの下に腫れなどの症状は見られる。この状態で放置すると、徐々に症状は進行し、痛みが強くなり、体重をかけたり、つま先立ちをすることができないほどになる。

 

 

 

 

 

問題110 30歳の男性。スキー滑走中に転倒し、ストックのストラップに右母指が引っ掛かり受傷した。来所時右母指に疼痛、腫脹がみられた。
 最も困難な動作はどれか。

1.キーボードを叩く。
2.鍵を回す。
3.ボールを握る。
4.瓶の蓋を開ける。

答え.2

解説

本症例のポイント

・30歳の男性(スキー滑走中に転倒)。
・ストックのストラップに右母指が引っ掛かった。
・来所時:右母指に疼痛、腫脹
→本症例は、スキーヤー母指を呈していると考えられる。スキーヤー母指とは、母指MP関節尺側側副靭帯損傷ともいい、原因は、親指の先から2番目の関節が、スキー中に転倒した場合などにストックによって外側に強制的に曲げられたときに、靭帯に損傷が起こって生じる。不安定性のほか、物をつまんだり、にぎり動作で痛みが増強する症状がみられる。損傷の程度は、指を横に曲げてみて判定し、軽度の場合は保存的治療法を選択し、過度に横に曲がってしまう場合は手術によって切れた靭帯を再建する必要がある。

1.× キーボードを叩く。
これは、他の指でも操作可能である。特に、キーボード操作に関して、母指はスペースキーを押すこと以外あまり頻度は少ない。

2.〇 正しい。鍵を回すことが最も困難である。
なぜなら、スキーヤー母指はつまみ動作の困難さがみられるため。また、鍵を回す動作は、母指のつまむ力と握る力(内転力)が必要となるため。

3.× ボールを握る。
これは、全指を使用するが、他の指(4指)を使って対応可能である。

4.× 瓶の蓋を開ける。
これは、全指を使用するが、他の指を使って対応可能である。特に母指球を固定に使うことが多い。

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