第29回(R3年)柔道整復師国家試験 解説【午後116~120】

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問題116 16歳の女子。自転車で転倒し、右母指が外転・伸展強制となり、同MP関節に強い疼痛が出現したため来所した。右母指にZ字型の変形と弾発性固定を認める。
 整復する際、最初に行う手技はどれか。

1.末梢に牽引する。
2.過屈曲にする。
3.過伸展にする。
4.長軸圧をかける。

答え.

解説

本症例のポイント

・16歳の女子。
・転倒:右母指が外転・伸展強制、同MP関節に強い疼痛が出現。
・右母指にZ字型の変形と弾発性固定を認める。
→本症例は、母指MP関節垂直脱臼が疑われる。母指MP関節垂直脱臼の整復として、①母指MP関節過伸展、②基節骨を第1中手骨長軸方向に押圧、 同時に第1中手骨を中枢方向へ牽引する。 

1.× 末梢に牽引するのは禁忌である。
なぜなら、整復傷害をきたし、整復困難、不能となる場合があるため。

2.× 「過屈曲」ではなく過伸展にする。

3.〇 正しい。過伸展にする
①MP関節を過伸展、②中手骨骨頭に基節骨基部を押し付ける、③下・前方に力を加える、④中手骨骨頭を基節骨基部が滑り下りるようにMP関節を屈曲させる。

4.× 長軸圧をかけるのは、過伸展した後である。

 

 

 

 

 

問題117 16歳の男子。高校の野球部でピッチャーをしている。2週前から練習後に肩周囲のだるさを自覚するようになったが、そのまま練習を続けていた。1週前から日常生活で頭を洗う動作など、上肢を挙上位に保つとしびれがひどくなるため来所した。肩の屈曲・外転制限や大結節部の圧痛はない。
 陽性になる検査法はどれか。

1.ドロップアームテスト
2.モーリーテスト
3.スピードテスト
4.トムゼンテスト

答え.2

解説

本症例のポイント

・16歳の男子(野球部:ピッチャー)。
・2週前から:肩周囲のだるさ。
・1週前から:上肢を挙上位に保つとしびれがひどくなる。
・肩の屈曲、外転制限や大結節部の圧痛:なし。
→しびれは神経症状の一つである。一つずつ絞っていこう。

1.× ドロップアームテスト
なぜなら、本症例は、肩の屈曲、外転制限が認められないため。drop arm(ドロップアーム)テストの陽性は、肩腱板断裂を疑う。方法は、座位で被験者の肩関節を90°より大きく外転させ、検者は手を離す。

2.〇 正しい。モーリーテストは、陽性になる検査法である。
Morley test(モーレイテスト、モーリーテスト)は、胸郭出口症候群の誘発テストである。方法は、検者が患者の鎖骨上縁の斜角筋三角部を指先で1分間圧迫する。患側頚部から肩・腕および手指にかけての痛み・しびれ・だるさなどが出現すれば陽性である。ちなみに、胸郭出口症候群は、胸郭出口付近における神経と動静脈の圧迫症状を総称したものである。症状として、上肢のしびれ、脱力感、冷感などが出現する。胸郭出口は、鎖骨、第1肋骨、前・中斜角筋で構成される。原因として、①前斜角筋と中斜角筋の間で圧迫される斜角筋症候群、②鎖骨と第一肋骨の間で圧迫される肋鎖症候群、③小胸筋を通過するときに圧迫される小胸筋症候群、④頭肋で圧迫される頸肋症候群などがある。

3.× スピードテスト
Speedテスト(スピードテスト)は、上腕二頭筋長頭腱の炎症の有無をみる。結節間溝部に痛みがあれば陽性である。【方法】被検者:座位で、上肢を下垂・肩関節外旋位から、上肢を前方挙上(肩関節屈曲)してもらう。検者:肩部と前腕遠位部を把持し、上肢に抵抗をかける。ちなみに、上腕二頭筋腱炎(上腕二頭筋長頭炎)とは、上腕二頭筋長頭腱が、上腕骨の大結節と小結節の間の結節間溝を通過するところで炎症が起こっている状態のことである。腱炎・腱鞘炎・不全損傷などの状態で肩の運動時に痛みが生じる。Speedテスト(スピードテスト)・Yergasonテスト(ヤーガソンテスト)で、上腕骨結節間溝部に疼痛が誘発される。治療は保存的治療やステロイド局所注射となる。

4.× トムゼンテスト
Thomsen(トムセン)テストの陽性は、テニス肘(上腕骨外側上顆炎)を疑う。方法は、握りこぶしにして手関節を背屈させ、検者が掌屈させようとする。テニス肘とは、上腕骨外側上顆炎ともいい、手首を伸ばす筋肉に炎症が起こる病気である。はっきりした原因は不明であるが、主に手首を伸ばす筋肉に負担がかかることが関係していると考えられている。主な症状は、肘の外側から前腕の辺りに痛みである。

肩腱板断裂とは?

腱板断裂とは、肩のインナーマッスルである棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の腱が損傷・断裂していることをいう。肩峰や上腕骨頭とのインピンジメント(衝突)で損傷されやすい棘上筋腱の損傷がほとんどである。画像所見やインピンジメントの誘発テストによって診断される。また、断裂と断裂部に関節液の貯留を認めるため、超音波(エコー)やMRI検査で診断することが多い。MRIは時間がかかることや体内に磁性体がある場合は行うことができない。また画像をスライスでしか確認できないため連続性を追いにくいといった特徴がある。

 

 

 

 

 

問題118 35歳の男性。草野球の試合でレフトからホームに送球した際に、右肩に強い鋭い痛みを感じ来所した。写真Aに示した徒手検査法が陽性であった。超音波画像所見を写真Bに示す。写真を下図に示す。
 考えられる損傷部位はどれか。

1.上腕二頭筋長頭腱
2.棘上筋
3.棘下筋
4.肩甲下筋

答え.2

解説

本症例のポイント

・写真A:Neerテストである。Neerテスト(ニアテスト)は、肩関節インピンジメント症候群の検査の一つである。患者の後側方に立ち、一方の手で肩甲骨を保持し、もう一方の手で上肢(回内位)を最大挙上させ、大結節を肩峰前縁に圧迫させる。挙上90°~120°で疼痛が誘発されれば陽性である。

・写真B(患側):棘上筋腱に複雑性がみられる。
→本症例は、肩峰下インピンジメント症候群が疑われる。肩峰下インピンジメント症候群とは、上腕骨大結節と棘上筋腱停止部が、烏口肩峰アーチを通過する際に生じる、棘上筋腱の機械的圧迫のことである。この機械的圧迫は棘上筋腱に集中して発生する。つまり、肩の近くの関節の細いところで、骨同士の隙間が、こすれがあっている状態である。 原因として、年齢や疲労、姿勢の影響で動きの連携がとれずに衝突するとされている。炎症や出血を起こす。

1.× 上腕二頭筋長頭腱
上腕二頭筋の【起始】長頭:肩甲骨の関節上結節
短頭:肩甲骨の烏口突起、【停止】橈骨粗面、腱の一部は薄い上腕二頭筋腱膜となって前腕筋膜の上内側に放散、【作用】肘関節屈曲、回外
(長頭:肩関節外転、短頭:肩関節内転)、【支配神経】筋皮神経:C5,C6

2.〇 正しい。棘上筋は、考えられる損傷部位である。
棘上筋の【起始】肩甲骨の棘上窩、棘上筋膜の内側、【停止】上腕骨大結節の上部、【作用】肩関節外転、【支配神経】肩甲上神経:C5,C6

3.× 棘下筋
棘下筋の【起始】肩甲骨の棘下窩、棘下筋膜の内側、【停止】上腕骨大結節の中部、【作用】肩関節外旋、上部は外転、下部は内転、【支配神経】肩甲上神経:C5,C6

4.× 肩甲下筋
肩甲下筋の【起始】肩甲骨肋骨(肩甲下窩)と筋膜内面、【停止】上腕骨前面の小結節、小結節稜上端内側、【作用】肩関節内旋、【支配神経】肩甲下神経:C5,C6

 

 

 

 

 

問題119 21歳の男性。大学野球部のピッチャーである。フォロースルー期に、肩後方に激痛があり来所した。肩周囲に筋萎縮はみられないが肩関節後方に圧痛があり、肩の内旋可動域の減少がみられた。また、外転・外旋を強制すると肩の後方に疼痛が出現した。
 考えられるのはどれか。

1.肩峰下インピンジメント症候群
2.肩甲上神経絞扼障害
3.SLAP損傷
4.ベネット(Bennett)損傷

答え.4

解説

本症例のポイント

・21歳の男性(野球部のピッチャー)。
フォロースルー期肩後方に激痛。
・肩周囲に筋萎縮はみられない。
・肩関節後方に圧痛、肩の内旋可動域の減少あり。
・外転、外旋を強制すると肩の後方に疼痛が出現。
→本症例は、フォロースルー期に肩後方に激痛が認められていることから、ベネット(Bennett)損傷が考えられる。Bennett損傷(ベネット損傷)とは、軟部組織損傷ともいい、投球動作により上腕三頭筋長頭や肩関節後方関節包に繰り返しの牽引力がかかり起こる骨膜反応である。野球暦の長い選手、特に投手に多く、上腕三頭筋長頭や後方下関節包の拘縮を合併する。炎症を伴うため、疼痛があるときは投球を中止し、初期は、冷罨法、固定、提肘により運動を制限する。疼痛軽減後は、ストレッチ運動や筋力強化訓練を行う。ちなみに、フォロースルー期(Follow through)とは、ボールが手から離れて投球動作が終わるまでをいう。腕が振り抜けて肩甲骨の外転が強調され、手指は遠心力によって血行障害を起こすことがある。

1.× 肩峰下インピンジメント症候群
本症例は、外転、外旋を強制すると肩の後方に疼痛が出現していることから否定できる。肩峰下インピンジメントとは、上腕骨大結節と棘上筋腱停止部が、烏口肩峰アーチを通過する際に生じる、棘上筋腱の機械的圧迫のことである。この機械的圧迫は棘上筋腱に集中して発生する。つまり、肩の近くの関節の細いところで、骨同士の隙間が、こすれがあっている状態である。 原因として、年齢や疲労、姿勢の影響で動きの連携がとれずに衝突するとされている。炎症や出血を起こす。

2.× 肩甲上神経絞扼障害
本症例は、肩の後面から腕にかけて放散する痛みがみられないことから否定できる。肩甲上神経絞扼障害とは、バレーボールショルダーともいい、肩甲上神経が、肩甲骨の肩甲切痕または棘窩切痕という箇所を通過するところで絞扼されることで起こる障害である。肩の痛みや腕が挙がりにくくなるなどの症状が現れる。また、肩の後面から腕にかけて放散する痛みがある。

3.× SLAP損傷
SLAP損傷(Superior Labrum Anterior and Posterior lesion)とは、上方関節唇損傷のことをさす。野球やバレーボールなどのオーバーヘッドスポーツにおける投球動作やアタック動作などを反復することによって上腕二頭筋長頭腱に負荷がかかり、関節唇の付着部が剥がれてしまう状態を指す。また、腕を伸ばした状態で転倒した際に上腕骨頭の亜脱臼に合併してSLAP損傷が生じることや、交通事故などの外傷性機序で発症することがある。スポーツでは、スライディングで手をついたり、肩を捻った時に発症することがある。

4.〇 正しい。ベネット(Bennett)損傷が考えられる。
Bennett損傷(ベネット損傷)とは、軟部組織損傷ともいい、投球動作により上腕三頭筋長頭や肩関節後方関節包に繰り返しの牽引力がかかり起こる骨膜反応である。野球暦の長い選手、特に投手に多く、上腕三頭筋長頭や後方下関節包の拘縮を合併する。炎症を伴うため、疼痛があるときは投球を中止し、初期は、冷罨法、固定、提肘により運動を制限する。疼痛軽減後は、ストレッチ運動や筋力強化訓練を行う。ちなみに、フォロースルー期(Follow through)とは、ボールが手から離れて投球動作が終わるまでをいう。腕が振り抜けて肩甲骨の外転が強調され、手指は遠心力によって血行障害を起こすことがある。

(図引用:『肩 その機能と臨床 第4版』より ※図中の丸は関係ない)

 

 

 

 

 

問題120 18歳の女子。ソフトボール部に所属しており、練習中に右膝痛が生じたため来所した。しゃがみ動作や階段昇降で疼痛が増強する。外反膝があり、膝蓋骨を外方に圧迫すると不安感を訴えた。
 この患者にみられる所見で正しいのはどれか。

1.Q角の減少
2.膝蓋腱の圧痛
3.内側広筋の筋力低下
4.グラスピングテスト陽性

答え.3

解説

本症例のポイント

・18歳の女子(ソフトボール部)。
・練習中:右膝痛が生じた。
・しゃがみ動作や階段昇降で疼痛が増強。
外反膝:膝蓋骨を外方に圧迫すると不安感あり。
→本症例は、外反膝を呈しており、膝蓋骨の不安定性がみられていることから、膝蓋骨脱臼の疑いも挙げられる。膝蓋骨脱臼とは、膝蓋骨がはずれる疾患である。ほとんどは外側に外れる。ジャンプの着地などの時に太ももの筋肉が強く収縮してはずれることが多く、はずれた時には膝に強い痛みや腫れを生じる。脱臼は自然に整復されることもある。

1.× Q角は、「減少」ではなく増大する。
Q角(Quadliceps Angle:Q angle)とは、大腿四頭筋が膝蓋骨を引っ張る力を示す力線のことである。「上前腸骨棘と膝蓋骨の真ん中とを結んだ直線」と「膝蓋骨の真ん中と脛骨粗面の上縁とを結んだ直線」の交わる角度である。

2.× 膝蓋腱の圧痛は、「ジャンパー膝(膝蓋靭帯炎)」に特徴的な症状である。
ジャンパー膝は、膝蓋骨周囲の疼痛や腫脹を生じる。バスケットボールやバレーボールなどのスポーツによる膝伸展機構の使いすぎによって起こる。

3.〇 正しい。内側広筋の筋力低下は、この患者にみられる所見である。
なぜなら、内側広筋の筋力が低下すると、膝蓋骨が外側に移動しやすくなるため。膝蓋骨脱臼のリハビリテーション内容は、股関節周囲筋(お尻の筋)や大腿四頭筋(太ももの筋)の筋力強化、アイシング等となる。大腿四頭筋の中でも、内側広筋を意識させて大腿四頭筋筋力訓練を行う。内側広筋は、膝蓋骨を内側に引き付ける役割があり、膝蓋骨の外側脱臼の再発を予防する助けとなる。

4.× グラスピングテスト陽性は、「腸脛靭帯炎」に特徴的な所見である。
Graspingテスト(グラスピングテスト)で確認できる。やり方は、腸脛靭帯を圧迫してテンションをかけた状態で、膝の曲げ伸ばしで症状が再現されるかどうかで判断する。腸脛靱帯炎の原因は、膝の屈伸運動を繰り返すことによって腸脛靱帯が大腿骨外顆と接触して炎症(滑膜炎)を起こし、疼痛が発生する。 特にマラソンなどの長距離ランナーに好発し、ほかにバスケットボール、水泳、自転車、エアロビクス、バレエ等にも多い。

膝蓋骨外側脱臼とは?

概要:膝蓋骨脱臼は、膝蓋骨(膝のお皿の骨)が外傷などにより外側にずれてしまい、関節から外れてしまった状態である。膝関節の形態的特徴により、10代の女性に生じることが多く、受傷者の20~50%の方が脱臼を繰り返す「反復性脱臼」へ移行する。【原因】ジャンプの着地などで、膝を伸ばす太ももの筋肉(大腿四頭筋)が強く収縮した時に起こる。【症状】炎症期は、膝関節の痛みや腫れが生じる。慢性期:脱臼を繰り返す(反復性脱臼)ようになると痛みや腫れなどは少なくなり、不安定感を強く訴える。
【治療】脱臼後、直ちに整復を行う。ほとんどの患者では鎮静や鎮痛は不要である。

膝蓋骨脱臼のリハビリテーション内容は、股関節周囲筋(お尻の筋)や大腿四頭筋(太ももの筋)の筋力強化、アイシング等となる。大腿四頭筋の中でも、内側広筋を意識させて大腿四頭筋筋力訓練を行う。内側広筋は、膝蓋骨を内側に引き付ける役割があり、膝蓋骨の外側脱臼の再発を予防する助けとなる。

 

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