第31回(R5年)柔道整復師国家試験 解説【午後31~35】

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問題31 下肢の深部腱反射が亢進するのはどれか。

1.頚髄損傷
2.重症筋無力症
3.筋ジストロフィー
4.ギラン・バレー(Guillain-Barre)症候群

答え.1

解説

深部腱反射とは?

 深部腱反射は、骨格筋につながる腱をハンマーなどでたたいた時、筋が不随意に収縮する反射である。筋紡錘が腱の伸びを筋の伸びとして感知したことにより、筋の収縮(緊張)を生み出すことが原因である。単収縮は単一の刺激によって引き起こされる筋収縮である。

伸張反射は、筋紡錘(錘内筋線維)に存在する一次終末からのIa線維を介してα運動ニューロンにシナプスを形成するもので、単シナプス性の反射経路をとる。筋を伸張すると筋紡錘も引き伸ばされ、感覚神経の終末が変形する。この機械的刺激が感覚神経に求心性発射活動を引き起こす。

1.〇 正しい。頚髄損傷は、下肢の深部腱反射が亢進する。
腱反射の亢進は、反射中枢における興奮性上昇、または脳内出血など反射中枢に障害が生じることが原因で、反射中枢への抑制が減少または促進的影響が増大した結果生じる。

2.× 重症筋無力症は、下肢の深部腱反射が正常(減少しやすい)。
重症筋無力症とは、末梢神経と筋肉の接ぎ目(神経筋接合部)において、筋肉側の受容体が自己抗体により破壊される自己免疫疾患のこと。全身の筋力低下、易疲労性が出現し、特に眼瞼下垂、複視などの眼の症状をおこしやすいことが特徴(眼の症状だけの場合は眼筋型、全身の症状があるものを全身型と呼ぶ)。嚥下が上手く出来なくなる場合もある。重症化すると呼吸筋の麻痺をおこし、呼吸困難を来すこともある。日内変動が特徴で、午後に症状が悪化する。クリーゼとは、感染や過労、禁忌薬の投与、手術ストレスなどが誘因となって、急性増悪し急激な筋力低下、呼吸困難を呈する状態のことである。(※参考「11 重症筋無力症」厚生労働省HPより)

3.× 筋ジストロフィーは、下肢の深部腱反射が減弱する。
筋強直性(筋緊張性)ジストロフィーとは、進行性筋ジストロフィー内の一種で、常染色体優性遺伝(男女比ほぼ1:1)で大人で最も頻度の高い筋ジストロフィーである。そもそも進行性筋ジストロフィーとは、骨格筋の変性及び壊死を主病変とし、進行性の筋力低下や萎縮をきたす遺伝性疾患である。

4.× ギラン・バレー(Guillain-Barre)症候群は、下肢の深部腱反射が亢進する。
Guillain-Barré(ギラン・バレー)症候群は、先行感染による自己免疫的な機序により、炎症性脱髄性ニューロパチーをきたす疾患である。一般的には細菌・ウイルスなどの感染があり、1~3週後に両足の筋力低下(下位運動ニューロン障害)や異常感覚(痺れ)などで発症する。感覚障害も伴うが、運動障害に比べて軽度であることが多く、他覚的な感覚障害は一般に軽度である。初期症状として、歩行障害、両手・腕・両側の顔面筋の筋力低下、複視、嚥下障害などがあり、これらの症状はピークに達するまでは急速に悪化し、時には人工呼吸器が必要になる。症状が軽い場合は自然に回復するが、多くの場合は入院により適切な治療(免疫グロブリン静注療法や血液浄化療法など)を必要とする。症状は6か月から1年程度で寛解することが多い。臨床検査所見として、①髄液所見:蛋白細胞解離(蛋白は高値,細胞数は正常)を示す。②電気生理学的検査:末梢神経伝導検査にて、脱神経所見(伝導ブロック、時間的分散、神経伝導速度の遅延、複合筋活動電位の低下など)がみられる。複合筋活動電位が消失あるいは著明な低下し、早期から脱神経所見を示す症例は、一般に回復が悪く機能的予後も不良である。(※参考:「重篤副作用疾患別対応マニュアル ギラン・バレー症候群」厚生労働省様HPより)

 

 

 

 

 

問題32 肝細胞癌の原因とならないのはどれか。

1.非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
2.A型肝炎
3.B型肝炎
4.C型肝炎

答え.2

解説

肝細胞癌とは?

肝細胞癌とは、肝臓の細胞ががん化したものである。肝細胞がんの発生には、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスの感染、アルコール性肝障害、非アルコール性脂肪肝炎などによる、肝臓の慢性的な炎症や肝硬変が影響している。肝臓は、肝動脈と門脈の二重血流支配を受けており、肝細胞癌は主に肝動脈からの血流支配を受けている。そのため、肝細胞癌を支配する肝動脈を塞栓物質で血流遮断することで治療する。

1.〇 非アルコール性脂肪肝炎(NASH:nonalcoholic steatohepatitis)
非アルコール性脂肪性肝炎とは、過食・運動不足・肥満(特に内臓脂肪型)・糖尿病・脂質異常症などに合併した脂肪肝を背景として発症する肝炎である。

2.× A型肝炎は、肝細胞癌の原因とならない。
A型肝炎とは、A型肝炎ウイルス(HAV)感染による疾患である。通常、感染した人の便で汚染されたものを摂取したときに感染する。初期症状は倦怠感や発熱、頭痛、筋肉痛等で、一過性の急性肝炎が主症状であり、治癒後に強い免疫が残る。治療は、通常、安静を含めた対症療法が中心となる。

3.〇 B型肝炎
B型肝炎とは、B型肝炎ウイルスに感染することによって生じる肝臓の病気のことである。B型肝炎ウイルスは主に感染者の血液や体液を介して感染する。たとえば、注射針を感染者と共用した場合や、感染者と性行為をした場合などに感染する。しかし、B型肝炎にはワクチンがあるため、適切にワクチンを接種することによって感染を予防することができる。

4.〇 C型肝炎
C型肝炎とは、C型肝炎ウイルス(HCV)に感染することによって起こる肝臓の病気である。C型肝炎ウイルスは、主に感染者の血液や体液から感染する。感染の危険性がある行為としては注射器の使い回しや剃刀(かみそり)の共用などがある。そのほか、妊娠中の母親から胎児への感染や性行為による感染もあるが、感染する確率は低いと考えられている。

 

 

 

 

 

問題33 空気感染するのはどれか。

1.肺結核
2.誤嚥性肺炎
3.慢性気管支炎
4.インフルエンザ

答え.1

解説
1.〇 正しい。肺結核は、空気感染する。
肺結核とは、結核菌による感染症で、体の色々な臓器に起こることがあるが多くは肺のことである。結核菌は、喀痰の中に菌が出ている肺結核の患者と密閉空間で長時間(一般的には数週間以上)接触することにより空気感染でうつる。リンパ節結核や脊椎カリエス(骨の結核)など、肺に病気のない結核患者からはうつらない。また肺結核でも、治療がうまくいって喀痰の中に菌が出ていない患者さんからはうつることはない。また、たとえ感染しても、発病するのはそのうち1割ぐらいといわれており、残りの9割の人は生涯何ごともなく終わる。感染してからすぐに発病することもあるが、時には感染した後に体の免疫が働いていったん治癒し、その後数ヶ月から数十年を経て、免疫が弱ったときに再び結核菌が増えて発病することもある。結核の症状には、咳、痰、血痰、熱、息苦しさ、体のだるさなどがある。

2.× 誤嚥性肺炎
誤嚥とは、食物や唾液などが声門を越えて気道に侵入することをいう。食事を口に運び、飲み込むー連の運動のどこかの段階が障害されることを嚥下障害といい、誤嚥の要因となる。誤嚥性肺炎とは、口腔内常在菌が食物の誤嚥とともに肺の中へ流れ込んで生じる肺炎のことである。原因は、①嚥下機能自体の低下、②寝たきり状態などによるADL(日常生活活動)の低下、③食物がスムーズに食道へ進めない状態などで、口腔内に長時間食物が存在してしまう状況などが挙げられる。

3.× 慢性気管支炎
炎症そのものはうつらないが、 気管支炎はかぜのウイルス が原因のものが多く飛沫感染による。
気管支炎とは、ウイルスや細菌などにより、空気を肺に送る気管支を中心に炎症が引き起こされる病気の総称である。気管支炎はさまざまな原因により生じるが、原因の多くはウイルスによる感染症である。そのほかの原因としては細菌などによる感染症、アレルギー、喫煙・大気汚染・化学物質などが挙げられる。慢性気管支炎は、気管支の炎症による病気で、喫煙や大気汚染が主な原因である。

4.× インフルエンザは、飛沫感染接触感染である。
インフルエンザとは、インフルエンザウイルスへの感染を原因に発症する。A型、B型、C型の3種類があり、このうち冬季に流行する「季節性インフルエンザ」はA型とB型によるものである。症状として、38度以上の発熱や寒気、関節痛、全身のだるさなどの全身症状と、喉の痛みや咳などの風邪のような症状が現れる。

感染経路と感染症

感染には、①接触感染、②空気感染、③飛沫感染がある。

①接触感染(例:流行性角結膜炎、疥癬、ノロウイルス感染症など)
(1)直接接触感染:感染者の皮膚粘膜との直接接触による伝播・感染する。
(2)間接接触感染:感染者の微生物で汚染された衣類、周囲の器物、環境などとの接触による伝播・感染する。

②飛沫感染(例:風疹、流行性耳下腺炎、 インフルエンザ、マイコプラズマ、百日咳など)
咳やくしゃみなどに伴って発生する飛沫(粒径5μm以上の粒子)が経気道的にヒトの粘膜に付着し感染する。飛散する範囲は1m以内であることが特徴。

③空気感染(例:結核、水痘、麻疹など)
飛沫核 (粒径5μm未満の粒子に付着した微生物)が長期間空中を浮遊し、これを吸い込むことで感染が伝播・感染する。

(※参考:「医療施設等における感染対策ガイドライン」厚生労働省様HPより)

 

 

 

 

 

問題34 慢性閉塞性肺疾患(COPD)で正しいのはどれか。

1.呼気が延長する。
2.漏斗胸を呈する。
3.肺肝境界が上昇する。
4.肺野の打診で濁音を呈する。

答え.1

解説

慢性閉塞性肺疾患とは?

慢性閉塞性肺疾患(COPD)の最大の原因は喫煙であり、喫煙者の約20%がCOPDを発症する。慢性閉塞性肺疾患とは、以前には慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれてきた病気の総称である。他の特徴として、肺の過膨張、両側肺野の透過性亢進、横隔膜低位、横隔膜の平低化、滴状心などの特徴が認められる。進行性・不可逆性の閉塞性換気障害による症状が現れる。

増加:残気量・残気率・肺コンプライアンス・全肺気量・PaCO2

減少:一秒率・一秒量・肺活量・肺拡散能・PaO2

1.〇 正しい。呼気が延長する
なぜなら、慢性閉塞性肺疾患は、気道の狭窄や肺胞の破壊により、肺の弾力性の低下や気道の閉塞性変化が生じるため。

2.× 漏斗胸を呈する。
漏斗胸は、くる病の症状である。漏斗胸とは、前胸壁が陥没し、あたかも漏斗のような外観を示す変形である。骨強度の減弱により生じる。

3.× 肺肝境界が上昇する。
肺肝境界が上昇するのは、胸水貯留時・肝腫大などである。下降するのは、気胸・肺気腫・肝萎縮などである。ちなみに、肺肝境界とは、第6肋間に位置し、安静呼吸時における肺の鼓音と肝臓の濁音の境界となる。

4.× 肺野の打診で、「濁音」ではなく鼓音を呈する。
なぜなら、慢性閉塞性肺疾患は肺の過膨張が起こりやすいため。濁音は肺炎や胸水貯留など、肺の充満や炎症がある場合に聴取される。

くる病とは?

くる病とは、小児期に見られる骨の石灰化不全であり、主に成長障害と骨の弯曲が起こる疾患である。ビタミンDの代謝あるいは感受性の障害により、骨に石灰化が起こらず、強度が不足する病気である。 成人期ではビタミンD依存性骨軟化症と呼ばれる。小児期には成長も障害され、骨X線検査で特徴的な所見を呈し、ビタミンD依存性くる病とも呼ばれる。

 

 

 

 

 

問題35 高血圧に対する生活習慣病の改善で適切でないのはどれか。

1.BMIは25未満に維持する。
2.1日あたりの食塩摂取量は10gを目標にする。
3.野菜、果物、低脂肪乳製品を積極的に摂取する。
4.ややきつい程度の有酸素運動を1日30分以上行う。

答え.2

解説

生活習慣病とは?

生活習慣病は、「食習慣、運動習慣、休養の取り方、喫煙、飲酒などの生活習慣が、その発症・伸展に関与する疾患群」と定義されている。生活習慣病の背景因子として、①遺伝性因子、②環境因子、③生活習慣因子が考えらえているが、「生活習慣因子」は生活習慣病の積極的予防に最も重要な要素とされている。

1.〇 BMIは25未満に維持する。
BMIとは、体重(㎏) ÷ 身長の2乗(m) で計算される体格指数のことである。日本肥満学会の基準では、18.5以下:低体重、25以下:普通、30以下:肥満Ⅰ度、35以下:肥満Ⅱ度、40以下:肥満Ⅲ度、40以上:肥満Ⅳ度である。

2.× 1日あたりの食塩摂取量は、「10g」ではなく6g以下を目標にする。
1日の食塩摂取量の目標は、男性7.5グラム未満、女性6.5グラム未満、高血圧の予防・治療のためには6グラム未満とされている。

3.〇 野菜、果物、低脂肪乳製品を積極的に摂取する。
これらの食品は、食事のカリウム、カルシウム、マグネシウム含有量を高め、食塩摂取量を低減することに役立つ。

4.〇 ややきつい程度の有酸素運動を1日30分以上行う。
適度な運動は、高血圧・糖尿病などの生活習慣病の予防と管理に効果的である。
【糖尿病患者に対する運動療法】
運動強度:一般的に最大酸素摂取量の40~60%(無酸素性代謝閾値前後)、ボルグスケールで『楽である』〜『ややきつい』
実施時間:食後1〜2時間
運動時間:1日20〜30分(週3回以上)
消費カロリー:1日80〜200kcal
運動の種類:有酸素運動、レジスタンス運動(※対象者にあったものを選択するのがよいが、歩行が最も簡便。)

 

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