第25回(H29年)はり師きゅう師国家試験 解説【午後136~140】

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次の文で示す症例について、問題135、問題136の問いに答えよ。
「68歳の男性。主訴は呼吸困難。体を動かすと呼吸が苦しくなる。樽状胸を呈し、痩せている。呼吸機能検査で1秒率の低下および胸部エックス線写真で肺野の透過性亢進を認めた。ブリンクマン指数は960。」

問題136 本症例の呼吸機能を改善することを目的とした鍼治療で、最も適切な対象となる筋はどれか。

1.大胸筋
2.棘上筋
3.菱形筋
4.前鋸筋

解答

解説

本症例のポイント

・68歳の男性(主訴:呼吸困難)。
・体を動かすと呼吸が苦しくなる。
樽状胸を呈し、痩せている。
・呼吸機能検査:1秒率の低下、胸部エックス線写真:肺野の透過性亢進を認めた。
・ブリンクマン指数:960
→慢性閉塞性肺疾患(COPD)の最大の原因は喫煙であり、喫煙者の約20%がCOPDを発症する。慢性閉塞性肺疾患とは、以前には慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれてきた病気の総称である。他の特徴として、肺の過膨張、両側肺野の透過性亢進、横隔膜低位、横隔膜の平低化、滴状心などの特徴が認められる。進行性・不可逆性の閉塞性換気障害による症状が現れる。
・増加:残気量・残気率・肺コンプライアンス・全肺気量・PaCO2
・減少:一秒率・一秒量・肺活量・肺拡散能・PaO2

1.〇 正しい。大胸筋が最も適切な対象となる筋である。なぜなら、大胸筋は、努力吸気に関与する筋肉であるため。
大胸筋の【起始】鎖骨部:鎖骨内側1/2~2/3、胸肋部:胸骨前面と上5~7個の肋軟骨、腹部:腹直筋鞘前葉の表面、【停止】上腕骨の大結節稜、【作用】肩関節内転・内旋、鎖骨部:肩甲骨屈曲、腹部:肩関節下制である。

2.× 棘上筋の【起始】肩甲骨の棘上窩、棘上筋膜の内側、【停止】上腕骨大結節の上部、【作用】肩関節外転、【神経】肩甲上神経である。

3.× 菱形筋には、大菱形筋と小菱形筋がある。【作用】肩甲骨を上内方に引く、【神経】肩甲背神経である。ちなみに、大菱形筋の【起始】第2~4胸椎の棘突起および棘上靭帯、【停止】肩甲骨内側縁(肩甲棘より下部)である。また、小菱形筋の【起始】下部項靭帯、第7頸椎と第1胸椎の棘突起、【停止】肩甲骨内側縁(肩甲棘より上部)である。

4.× 前鋸筋の【起始】第1~8(~10)肋骨前外側面、【停止】第1,2肋骨とその間の腱弓からの筋束は肩甲骨上角。第2,3肋骨からは分散して広く肩甲骨内側縁。第4肋骨以下からは下角、【作用】全体:肩甲骨を前方に引く。下2/3:下角を前に引いて肩甲骨を外方に回旋し、上腕の屈曲と外転を補助。最上部:肩甲骨をやや引き上げる、【神経】長胸神経である。

呼吸運動について

①安静吸気:横隔膜・外肋間筋。
②安静呼気:呼気筋は関与しない。
③努力吸気:呼吸補助筋(僧帽筋、胸鎖乳突筋・斜角筋・大胸筋・小胸筋・肋骨挙筋など)が関与。
④努力呼気:内肋間筋・腹横筋・腹直筋が関与。

 

 

 

 

 

次の文で示す症例について、問題137、問題138の問いに答えよ。
「23歳の女性。体操の選手で運動性無月経がみられる。東洋医学的所見では顔色は白く、肌につやがない。舌は淡白、脈は細。」

問題137 本症例の無月経の原因で適切なのはどれか。

1.貧血
2.利用できるエネルギー不足
3.プロゲステロン不足
4.高プロラクチン血症

解答

解説

本症例のポイント

・23歳の女性(体操の選手)。
運動性無月経
・東洋医学的所見:顔色は白く、肌につやがない。
・舌は淡白、脈は細。
→女性アスリート3主徴症候群をおさえておこう。女性アスリート3主徴症候群とは、激しいトレーニングを続けている女性アスリートは、①エネルギー不足、②無月経、③骨粗鬆症のリスクがあり、この3主徴のことをいう。

(※引用:「いま知りたいからだのこと」文部科学省様HPより)

1.× 貧血は男性と比較すると女性のほうが月経があるため起こりやすいとされている。ただ、本症例の無月経の原因とはいえない。むしろ、アスリートは食事管理により、貧血は一般女性と比較すると少ないと考えられる。

2.〇 正しい。利用できるエネルギー不足が本症例の無月経の原因である。なぜなら、女性アスリート3主徴症候群が疑われるため。運動やストレス、ホルモンの変化などが原因で起こるとされている。

3.× プロゲステロン不足は、本症例の無月経の原因とはいえない。プロゲステロン(黄体ホルモン)は、基礎体温を上げ、受精卵が着床しやすい状態にする作用を持つ。プロゲステロン(黄体ホルモン)は、性周期が規則的で健常な成人女性において、着床が起こる時期に血中濃度が最も高くなるホルモンである。着床が起こる時期とは、月経の黄体期である。黄体期は、排卵した後の卵胞(黄体)から黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌されるようになる時期である。

4.× 高プロラクチン血症は、本症例の無月経の原因とはいえない。プロラクチンとは、乳腺刺激ホルモンともいい、脳の下垂体から分泌され、妊娠すると高くなり乳腺を成長させ乳汁産生を行う。授乳期間中は乳頭の刺激で高くなり乳汁を分泌する。

 

 

 

 

 

次の文で示す症例について、問題137、問題138の問いに答えよ。
「23歳の女性。体操の選手で運動性無月経がみられる。東洋医学的所見では顔色は白く、肌につやがない。舌は淡白、脈は細。」

問題138 本症例の病証で最も適切なのはどれか。

1.陽虚証
2.表虚証
3.血虚証
4.陰虚証

解答

解説

本症例のポイント

・23歳の女性(体操の選手)。
・運動性無月経。
・東洋医学的所見:顔色は白く肌につやがない
・舌は淡白、脈は
→本症例は、血虚証が疑われる。血虚は、眩暈、顔面蒼白、動悸、不眠、健忘、目のかすみ、しびれ、痙攣、月経痛、経少、経色淡白、視力減退、爪の変形など。

1.× 陽虚証(虚寒)は、寒証+気虚症状。寒がり、四肢の冷え、顔面蒼白、下痢、白色帯下、腹痛、自汗、倦怠感、息切れ、食欲不振、脈遅・弱など

2.× 表虚証は、人体の表面付近、浅い部分の症状がみられる。例えば、急性熱性疾患の初期などにみられる悪寒や熱感といった体表の症状、首から上の咽喉痛、頭痛、首の強張りなどである。

3.〇 正しい。血虚証は、本症例の病証である。血虚は、眩暈、顔面蒼白、動悸、不眠、健忘、目のかすみ、しびれ、痙攣、月経痛、経少、経色淡白、視力減退、爪の変形など。

4.× 陰虚証(陰熱)は、ほてり、のぼせ、五心煩熱、手足身熱、盗汗、頬部紅潮、消痩、潮熱、舌質(紅)、舌苔(少)、脈(細脈)など。したがって、治療方針は、陰を養う。

MEMO

風邪の初期は、①風寒型、②風熱型の大きく2つの「証」に分けられる。①風寒型は、「青い風邪」ともいわれ、悪寒、発熱、頭痛、鼻水、関節の痛みなどの症状が見られる。その中でも、発汗の有無によって、「風寒表実証」と「風寒表虚証」に分かれる。

 

 

 

 

 

次の文で示す症例について、問題139、問題140の問いに答えよ。
「58歳の女性。主訴は右手掌の痛み・しびれ。痛みの部位は小指を除く手掌部である。」

問題139 本症例に行った徒手検査法で陽性を示すのはどれか。

1.トムゼンテスト
2.ファレンテスト
3.インピンジメントテスト
4.チェアテスト

解答

解説

本症例のポイント

・58歳の女性(主訴:右手掌の痛み・しびれ)。
・痛みの部位:小指を除く手掌部である。
→本症例は、正中神経障害が疑われる。

1.× トムゼンテスト(Thomsenテスト)の陽性は、テニス肘(上腕骨外側上顆炎)を疑う。方法は、握りこぶしにして手関節を背屈させ、検者が掌屈させようとする。

2.〇 正しい。ファレンテストは、本症例に行った徒手検査法で陽性を示す。ファーレン徴候(Phalen徴候)とは、手首を曲げて症状の再現性をみる検査である。1分以内の症状出現で、正中神経麻痺を疑う。正中神経麻痺とは、猿手やtear drop sign(ティア ドロップ サイン)、perfect O(パーフェクト Oテスト)、Phalen(ファレンテスト)が陽性となる。

3.× インピンジメントテストは、①Neerテスト、②Hawkinsテストがある。①Neerテスト(ニアテスト)は、患者の後側方に立ち、一方の手で肩甲骨を保持し、もう一方の手で上肢(回内位)を最大挙上させ、大結節を肩峰前縁に圧迫させる。挙上90°~120°で疼痛が誘発されれば陽性である。②Hawkinsテスト(ホーキンズテスト)は、患者の腕を90度まで上げ、肘を90度に屈曲させ、強制的に肩関節を内旋し、痛みの有無を調べる。

4.× チェアテスト(Chairテスト)の陽性は、テニス肘(上腕骨外側上顆炎)を疑う。方法は、患者さんに肘関節伸展位のまま手で椅子を持ち上げてもらう。ちなみに、曲池は、肘外側、尺沢と上腕骨外側上顆を結ぶ線上の中点に位置する。長・短橈側手根伸筋の治療穴である。

 

 

 

 

 

次の文で示す症例について、問題139、問題140の問いに答えよ。
「58歳の女性。主訴は右手掌の痛み・しびれ。痛みの部位は小指を除く手掌部である。」

問題140 本症例の病態部位への刺鍼で適切なのはどれか。

1.手関節掌側横紋上で橈側手根屈筋腱の橈側直側部
2.手関節掌側横紋上で長掌筋腱の尺側直側部
3.手関節掌側横紋上で尺側手根屈筋腱の尺側直側部
4.舟状骨結節と豆状骨を結んだ線の中央部

解答

解説

本症例のポイント

・58歳の女性(主訴:右手掌の痛み・しびれ)。
・痛みの部位:小指を除く手掌部である。
→本症例は、正中神経障害が疑われる。
手根管症候群は、正中神経の圧迫によって手指のしびれや感覚低下などの神経障害が生じる。手根管(手関節付近の正中神経)を4~6回殴打すると、支配領域である母指から環指橈側および手背の一部にチクチク感や蟻走感が生じる(Tinel徴候陽性)。Tinel徴候のほか、ダルカン徴候(手根管部を指で圧迫するとしびれ感が増悪する)やファーレン徴候(Phalen徴候:手首を曲げて症状の再現性をみる)も陽性となる場合が多い。
手根管を通るもの:①浅指屈筋腱、②深指屈筋腱、③正中神経、④長母指屈筋腱、⑤橈側手根屈筋腱
・ギヨンを通るもの:①尺骨動脈、②尺骨神経

1.× 手関節掌側横紋上で橈側手根屈筋腱の橈側直側部
2.× 手関節掌側横紋上で長掌筋腱の尺側直側部
3.× 手関節掌側横紋上で尺側手根屈筋腱の尺側直側部
本症例の主訴は、「右手掌の痛み・しびれ」である。選択肢の部位での正中神経の絞扼は起こりにくく、また症状も手掌に限定されているため、手根管に対する処置が望ましい。

4.〇 正しい。舟状骨結節と豆状骨を結んだ線の中央部は、本症例の病態部位への刺鍼である。なぜなら、正中神経の走行に沿っているため。また、正中神経は、手根管を通り、手根管は屈筋支帯とその周りの骨(豆状骨と有鈎骨、舟状骨、大菱形骨)で形成されている。

(※引用:「イラスト素材:手の骨」illustAC様より)

 

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